都市ネットワークインフラに変革をもたらす、革新的な資金調達とは

2030年までに、費用ベースでプライベート5Gネットワークがモバイルブロードバンドネットワークインフラの5分の1を占める可能性があります。 Image: King of Hearts, via Wikimedia Commons
- 手頃な価格のブロードバンドインターネットアクセスは、地域の経済成長を促進し、都市の生活の質を向上させるためにますます重要になっています。
- 都市は、財政的および技術的に持続可能なプライベート5Gネットワークを展開するために、企業との新たなパートナーシップを模索しています。
- これらのパートナーシップは財政的な圧力を軽減し、都市における医療の向上、教育の拡大、経済成長の促進の実現を支援します。
デジタル経済とデジタル社会の基盤となる有線・無線ネットワークがもたらすコネクティビティは、都市にとって、電気、ガス、水と同様に不可欠なインフラとしてますます重要になっています。
接続されたデータ駆動型の都市環境は、公共サービスの向上だけでなく、医療の改善、教育機会の拡大、経済繁栄の促進に必要な基盤インフラを提供します。また、ブロードバンドの普及率が10ポイント増加すると、GDP成長率は1.2~1.4%増加します。
都市がリモートワークや学習、電子商取引、デジタル公共サービス提供、標準的かつ重要な通信を提供するための投資を増大させる中、光ファイバー広帯域ネットワークの展開は加速し、前年比12%を超える成長を示しています。
都市ネットワークの拡大に伴う財政的負担
都市が成長し、デジタルサービスが不可欠になるにつれ、高信頼かつ高速なインターネットと通信ネットワークへの需要は増加の一途をたどっています。こうしたネットワークのカバー範囲と容量の拡大というニーズに対応するため、モバイルネットワーク事業者は5Gネットワークを展開。しかし、都市は依然として設計、設置、維持管理のコストを負担する必要があり、このことが、より高度なテクノロジーの導入を資金面で困難にしています。
多くの場合、都市におけるコネクティビティの拡大は持続可能ではありません。カメラや大気質センサー、光センサーなどの接続デバイスは都市にとって不可欠なものになる一方で、従来のビジネスモデルはスケーラブルでないことが明らかになっているのです。一部の都市では、通信事業者の接続サービスを利用可能にする際に、接続デバイス1台あたり月額10米ドルから30米ドルのコストが発生。都市が経済活動とイノベーションの拠点となるためには、まず手頃な価格のスケーラブルなモデルを確立する必要があります。
ブロードバンドのコスト低減に向けた新たなアプローチ
セルラーネットワークの進化と規制当局によるプライベート5Gネットワークの創設支援により、新たな協業の機会が急速に拡大しています。
コストは、かつては都市における高速ネットワークの展開が制限される要因でした。しかし、各国政府と規制当局が、非通信企業への専用周波数帯の割り当ての重要性を認識するにつれ、この状況は急速に変化しています。米国、ドイツ、日本、デンマーク、イギリスを含む世界中の数十の規制当局が、プライベートネットワーク専用の周波数帯を割り当てるようになったからです。
世界中の都市がこれに従ってプライベート5Gネットワークの検討を進めており、2030年までにこうしたネットワークが、モバイルネットワークインフラ投資の最大5分の1を占める可能性があります。
革新的な投資モデルが財務リスクを軽減
都市は、手頃な価格のブロードバンドとそれを可能にするサービスの需要増加に対応するため、企業への依存を強化しています。共有投資モデルによって、都市の財務負担が大幅に軽減されるためです。
一方で、5Gインフラのコスト低下、共有周波数の利用可能性、資本と運営費の共同負担により、プライベート5Gネットワークは都市のコネクティビティを向上させる上で、手段として選択しやすいソリューションとなっています。
プライベートなセルラーネットワークを構築、所有することで、都市は運営費を削減しつつ、公共ネットワークでは対応できないカスタマイズされたカバー範囲と速度を提供できます。公共のセルラーネットワークがデバイスごとの課金モデルを採用しているのに対し、プライベート5Gネットワークは、デバイス単位の高額なアクセスコストを負担することなく、エンドポイントの数を持続可能な形で拡大できます。ネットワーク容量とテクノロジーが継続的に向上する中で、自治体がネットワークを所有することにより、新たに利用を開始するデバイスの数を気にせずにスケールメリットを活かすことができるのです。
こうしたイノベーションを導入しない場合、都市資源への圧迫は継続し、公共の安全とデジタル格差の是正の機会を逃してしまうでしょう。
ラスベガスにおける公共の安全とデジタル格差の是正
2023年、米国テキサス州ラスベガス市とNTTデータは、プライベート5Gネットワークの展開に関するパートナーシップを締結しました。このパートナーシップは、サービスが不足している地域におけるブロードバンドアクセスの改善と、リアルタイムデータ分析による都市の意思決定強化という2つの主要な課題に対応するものです。
同社のスマートソリューションは、測定可能な成果とコスト削減により成果を上げています。このパートナーシップは、同市に次の好結果をもたらしました。
- 低所得地域に住む1,000人以上の学生と家族へのインターネットアクセス拡大に不可欠な、高信頼、低遅延の通信を実現。逆走事故を90%以上削減。
- これによって起こると考えられる事故を回避し、パトロールコストが削減されたことで、年間100万米ドル以上の節約を実現。
- スマートパークと交通管理システムから得られるデータに基づく洞察を活用して都市計画を改善し、リソース配分とインフラ開発を最適化。
その成功は、市当局の強力なリーダーシップと個人的な支援、デジタル変革の明確なビジョン、および変化するニーズに合わせて拡張可能なソリューションの柔軟性に起因しています。
ラスベガスのパートナーシップは、他の都市にとってのモデルとなる可能性があります。
ビジネスモデルの新たな都市への展開
現在、公共ネットワーク事業者だけが利用可能な周波数帯域の開放と共有はさらに進んでいます。これにより、自治体と企業の相互に利益をもたらすパートナーシップの新たな機会が生まれるでしょう。
都市がブロードバンド展開のための協業モデルを検討する際に重要なことは、次のとおりです。
1. ステークホルダーとの継続的な関与の重要性と、都市のニーズの変化に対して適応性の高いソリューションの必要性を認識する
2. パイロットプロジェクトから開始して効果を最大化し、リスクを最小化する、段階的アプローチを取る
3. 国および地方の資金源からシード資金を調達し、都市によるコネクティビティに関する様々な取り組みを活性化する
4. 民間5GネットワークやAIの専門知識を有する人材の育成と採用を含むテクノロジー人材への投資により、都市におけるイノベーションを促進する
本寄稿文は、世界経済フォーラムの「グローバル・イノベーション・アンド・インパクト・カウンシル」が発表した報告書「Shaping Tomorrow: Responsible Innovation for a Brighter Future(明日を形作る:明るい未来をひらく責任あるイノベーション)」の一部です。このインサイト・レポートは、責任あるイノベーションの設計、開発、拡大を導く8つの原則の枠組みを提示しています。