ウェルビーイングとメンタルヘルス

深刻化する子どものメンタルヘルスに、私たちができること

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子どもや青少年のメンタルヘルスの悪化は、人々の長期的なウェルビーイングや生活の質に影響を与える、ますます深刻な社会課題となっています。 Image: Getty Images

Charlotte Edmond
Senior Writer, Forum Agenda
  • 子どもや青少年のメンタルヘルスの悪化は、人々の長期的なウェルビーイングや生活の質に影響を与える、ますます深刻な社会課題となっています。
  • 医療制度のひっ迫により、若者たちに必要な支援を提供できない場合が多くあります。
  • 若者のウェルビーイングを改善するための措置は、本年1月のスイス、ダボスにおける世界経済フォーラム年次総会2025で活発に議論されたテーマの一つでした。

メンタルヘルスにおける課題の増加は、現代の最も深刻な公衆衛生上の懸念の一つです。さらに、メンタルヘルスの悪化は人生の早期に始まることが明らかになってきています。

過去30年間で、若年層におけるメンタルヘルス関連疾患の有病率は、特に先進国で著しく増加しています。ヨーロッパの若者の5人に1人が精神疾患の影響を受けており、不安障害、うつ病、摂食障害が増加。自殺は15~29歳の若者の死亡原因の首位を占めています。米国でも状況は類似しており、若者の20%が、メンタルヘルスケアに関するアンメットニーズ(満たされていない潜在的要求)があると報告されています。

これらを背景に、医療や支援サービスはひっ迫し、多くの若者が適切な時期に効果的な若者向け支援を受けることが困難な状況にあります。世界中で精神疾患を経験する子どもの大多数は、支援を求めることや、ケアを受けることができていません

拡大する課題の根本原因

当然ながら、メンタルヘルス上の課題の増加には単一の根本原因はなく、多くの相互に関連する要因が絡み合っています。思春期は精神的ウェルビーイング(幸福)の形成に重要な時期であり、リスク要因への曝露が大きな影響を与える可能性があります。トラウマ的な経験、経済的、社会的な不利益、構造的な不平等、医療アクセスの格差などが、いずれも重要な要因となっているのです。

Charts showing the percentage of U.S.youth who experienced mental health challenges regularly as of 2023.
不安は、米国における若者の最も一般的なメンタルヘルス上の課題の一つです。 Image: Statista

例えば、英国では、精神障害の可能性がある子どもの25%以上で、親が学校外の活動に参加する費用を負担できない状況にあります。一方で、メンタルヘルス不調は、若い男性よりも若い女性によく見られます。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、この傾向を悪化させ、浮き彫りにした要因としてよく挙げられますが、間違いなく長期的な影響を残しています。パンデミック後の不安が、学校の欠席率の増加を継続的に引き起こしているからです。しかし、これは物語の一部に過ぎません。より広範な社会的、発達的、構造的な変化も影響を及ぼしています。

例えば、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の心理学および言語科学部門長であるピーター・フォナギー教授は、学業成績を重視する教育政策と長時間授業が遊びの時間を奪い、ストレスを増大させていると指摘。らに、親が良かれと思って行う過保護なまでに安全意識の高い子育てが、若者のレジリエンス、自信、感情的な強さを育む能力を制限していると述べています。

Charts showing the share of U.S. teenagers experiencing depression and receiving treatment.
メンタルヘルス上の課題の可視化、普遍化、診断の増加が進行しています。 Image: Statista

もう一つのよく批判されるストレスの源は、ソーシャルメディアの台頭です。SNSは、完璧さへの非現実的な期待や、他人との比較を助長しています。さらに、テクノロジー全般が社会的孤立、睡眠不足、身体活動量の減少を招き、うつ病などの要因ともなっています。

若者は、未来を形作り、コミュニティや労働力に影響を与える重要な役割を果たします。これを踏まえ、今年初めにダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会2025では、若者のウェルビーイングに影響を与える負の要因に対処するための措置が活発に議論されました。同会議で発言したニューヨーク大学スターン・ビジネススクール倫理的リーダーシップ教授のジョナサン・ハイト氏と米国アーカンソー州知事のサラ・ハッカビー・サンダース氏は、スマートフォン禁止の学校、さらに「スマートフォンなしの子ども時代」を提唱する声に賛同しました。

このようなリスク要因が課題の解決を困難にしており、多面的な解決策が求められています。

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喫緊の社会課題

子どもの頃にメンタルヘルス上の課題に直面し、そのまま放置した場合は、生涯にわたる影響を及ぼす可能性があります。これらは成人期まで続き、身体的、精神的な健康を損ない、充実した人生を送る機会を制限する可能性があるのです。

人的コスト以上に、メンタルヘルスの悪化は医療システム、労働力、経済全体に影響を及ぼしています。英国地方自治体協議会の青少年委員長は、この課題を「喫緊の社会課題」であると位置付け、成長計画の妨げになっているとも指摘。英国メンタルヘルスセンターによると、現在の世代において、子どものメンタルヘルス上の課題は1.3兆ドルの所得損失を引き起こしています。

Charts showing the percentage of individuals who report moderate to severe symptoms of stress, depression and anxiety.
若年層のストレスは高い水準にあります。 Image: Statista

若者をよりよく支援する方法

世界保健機関(WHO)と国連児童基金(ユニセフ)によると、対策と子どものメンタルヘルス支援の必要性は明確であり、ニーズが高まり続けているにもかかわらず、子ども向けのメンタルヘルスサービスは依然としてほとんど利用できない状況にあります。多くの専門家は、こうしたサービスが資金とリソースの不足に陥っていると指摘しています。

欧州では、WHOが若者のメンタルヘルスケアを規制、改善するための基準一式を策定し、専門家の訓練不足、個々に合わせた支援の不足、長い待ち時間などの課題に取り組んでいます。

メンタルヘルスに課題を抱える人を支援するデジタルツールの普及は、多くの点で歓迎すべき動きです。必要とされる時と場所で、手頃な価格かつアクセスしやすい支援を提供できる可能性があるからです。しかし、その潜在能力を最大限に引き出すためには、慎重な管理が不可欠です。世界経済フォーラムがデロイトの協力を得て作成した『デジタル・メンタルヘルスのためのグローバル・ガバナンス・ツールキット(The Global Governance Toolkit for Digital Mental Health)』は、デジタルツールという革新的なテクノロジーを倫理的かつ責任ある方法で活用し、私たちの繁栄を支援する方法を探求しています。

その他の重要なステップとして、コミュニティを支援する体制の確立と改善、メンタルヘルス支援が集団的な取り組みであると認識すること、早期介入が最も効果的であるという理解を得ることが含まれます。

運動も有効なツールです。研究では、身体活動がメンタルヘルス不良のリスク要因を軽減するだけでなく、診断済みの患者にもポジティブな影響を与えることが示されています。うつ症状に対しては、有酸素運動と負荷をかけた運動の組み合わせが特に有効です。

最後に、あらゆる年齢層においてメンタルヘルスについて話し合うことへの意識向上と、オープンな姿勢の醸成が重要です。これにより、症状や兆候に対する認識が深まり、適切な支援を求める行動を促進する一助となるでしょう。

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拡大する課題の根本原因喫緊の社会課題若者をよりよく支援する方法

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