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新たな顧客体験を形づくる「AIエージェント」

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AIエージェントは、オンラインショッピングをかつてないほど手軽にする可能性を秘めています。 Image: Getty Images/iStockphoto

Benjamin Wiener
Global Head of Cognizant Moment, Cognizant
  • オンラインにおける購買体験は、多くの人々にとって最適とは言えず、全体の75%が「ストレスを感じる」と回答しています。
  • AIエージェントの登場は、企業が顧客体験を設計する方法そのものを根本から変えようとしています。
  • 顧客とブランドとの関わり方は、これまでとはまったく異なるものになるでしょう。

新しい商品の購入は、ときに「輪くぐり」のような煩雑な体験になりがちです。検索から始まり、いくつものウェブサイトを行き来し、レビューを読み漁り、価格や配送条件を比較し、いくつものタブを開いた末に、ようやく「購入」ボタンを押す頃には、たとえ快適な自宅にいたとしても、楽しさよりも「これで本当にいいのか」という不安や疲労感が勝るのが現実です。オンラインショッピングにこれほどの認知的負荷がかかるのであれば、渋滞に巻き込まれてでも実店舗を訪れた方がよかったと思えてしまうかもしれません。

最近私たちが実施した、消費者によるAI利用に関する調査では、全体の75%がこの「分断された購買体験」に不満を感じていることが明らかになりました。この不満の大きな要因は、判断すべきことの多さです。「何を買いたいのか」「どこで買えばいいのか」「適正な価格はいくらなのか」。こうした問いに一つ一つ答える精神的な労力は、少なからぬストレスを生んでいます。私たちの調査によると、人々にAIが魅力的に映る最大の理由は、多くの人が「時間が足りない」という課題を抱えているからです。

AIは、購買までの道のりを短縮、最適化しながら、パーソナライズされた体験と専門的な提案、そして確信を提供する力を持っています。

もちろん、「時間を節約する」ことや「ストレスを減らす」ことの意味は、消費者によって異なります。ある人にとっては、AIが自分のニーズに合った製品を厳選してくれることが重要です。別の人にとっては、AIが「価格交渉の達人」として複数サイトの価格を瞬時に比較し、面倒なスプレッドシート作りを不要にしてくれることかもしれません。また別の人にとっては、最速で商品が届くルートを提示してくれることが何よりもありがたいでしょう。

マーケティング責任者(CMO)にとっての課題は、スピードを重視する人、価格を重視する人、仕様にこだわる人、そしてその間にいるすべての消費者に対し、いかに最適な体験を設計できるか、という点にあります。その鍵となるのが、「AIエージェント」なのです。

AIエージェントは、消費者の意思決定のあり方を変える

大きな買い物をしようとするとき、誰に相談するかを想像してみてください。たとえば、ジョージおじさんは、車からスマートフォンまで、あらゆる製品の技術仕様や性能評価に精通した知識の宝庫です。友人のジョスリンは、いつもお得なクーポンを持ち、絶対に定価で買わせない値引き交渉の達人。そして兄のスティーブは、複雑な手続きをいとも簡単にさばき、最速の配送を手配できる物流のエキスパート。 こうした三者の知見をすべて取り入れて最適な判断をするためには、通常、それぞれ個別に話を聞き、自分で情報を整理し、比較検討する必要があります。

もしこの3人が連携し、それぞれの専門性を活かして最良の選択肢を絞り込み、最速の配送と最もお得な価格を同時に導き出してくれたらどうでしょうか。さらに、交渉、書類の記入、注文手続き、最適な時間に届くよう配送の手配まですべて自動で行ってくれるとしたらいかがですか。

このような未来こそが、「エージェンティック・インターネット」の核となる構想です。エージェンティック・インターネットとは、AIを搭載した複数のツールが相互に接続され、検索、購買、さらにはその後の管理に至るまで、複雑な作業を自律的にこなしてくれる仕組みです。その結果、消費者が意思決定に費やす時間と認知的負担が劇的に軽減されます。

AIエージェント時代にふさわしい、新たなカスタマーエクスペリエンスの創造

エージェンティック・インターネットの登場は、顧客体験の設計における常識を一変し、検索バーや無限に続くスクロール、さらにはウェブサイトそのものといった、これまで当たり前だった仕組みは姿を消しつつあります。これに代わり、消費者は自分専属の「デジタル・コンシェルジュ」とも言えるAIエージェントを持ち、企業側のAIと連携しながら、購入までの複雑なプロセスをシームレスにこなす時代が始まろうとしています。

これは遠い未来の話ではありません。すでに消費者の期待は変化し始めています。私たちの調査によると、2030年までに55%以上の購買行動がAI志向の消費者によって主導されると見込まれています。真に顧客中心の戦略を掲げるのであれば、企業は今すぐ新たなインターフェースやシステムの設計に取り組む必要があります。

ここで、顧客体験をリードする人々が考えるべき重要な問いを3つ挙げてみましょう。

AIエージェントに対して最適化されたインターフェースとは

現在のウェブ体験から明らかなことは、人々が、分断され、つながりのない複数のAIエージェントを操作することを望んでいない、という点です。現在でも、フライト予約アプリやデジタルサブスクリプションなど複数のツールを管理するのは面倒です。将来の消費者は、「スーパーエージェント」が、他のAIエージェントすべてをまとめて調整してくれることを期待するでしょう。つまり、ジョージおじさん(スペックに詳しい)とジョスリン(価格交渉の達人)が連携し、最良のスペックを備えた車だけでなく、それを3万ドル以下で購入できる場所まで導いてくれるのです。

エージェンティック・インターネットの時代に、顧客体験はどう適応するのか

最初のステップは、ウェブサイトやEコマースの枠を超えた発想を持つことです。ある考え方では、消費者のAIエージェントが、集約型のプラットフォームにアクセスし、そこにいる企業側のエージェントと連携しながら、製品情報やレビュー、購入条件といった、現在の消費者が行っている一連の検索、比較、選択のプロセスを自動化すると想定されています。このような未来が訪れると、企業はこれまでのようにカスタマーエクスペリエンスを制御することが難しくなるでしょう。ウェブサイトは消費者のためだけでなく、AIエージェント向けに最適化される必要が出てくるのです。

新しいエコシステムにおいて、自社ブランドの存在感をどう維持するか

今後、最も活躍するのは、企業側の「消費者向けAIエージェント」になるでしょう。これは、製品情報を取得し、消費者のAIエージェントや集約サイトにフィードバックする役割を担います。一方、このAIエージェントは単体で作業をすることはできず、最新のデータを提供できるバックエンドシステムと統合し、スムーズな取引処理が保証されていなければなりません。

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無視できない未来

消費者向けAIエージェントと顧客体験の未来については、未だに未知の領域が多くあります。ひとつ確かなのは、すでに多くの消費者がAIを使い、商品を発見、購入し始めているということです。私たちの予測では、2030年までに米国だけで、AI志向の消費者が4兆ドル超の購買力を持つようになります。

CMO(最高マーケティング責任者)にとって、これは大きな挑戦であると同時に絶好のチャンスです。真の勝者は、エージェンティック・インターネットに適応するだけの企業ではありません。この変化をチャンスと捉え、直感的かつ人間中心の次世代デジタル体験を創造した企業こそが、次の時代をリードする存在となるでしょう。

AIエージェントはすでに登場しています。あなたには、その未来を迎える準備ができていますか。

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