持続可能な開発

観光の再設計により、地域への恩恵を拡大させる日本の取り組み

人気観光地におけるオーバーツーリズムは、周辺の地域社会に悪影響を及ぼしています Image: REUTERS/Issei Kato

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • オーバーツーリズムの対策として、日本では、観光の集中が見られる5つの都道府県から地方への誘導を進めています。
  • 混雑状況を観光客に伝える手段として、人工知能(AI)やリアルタイムのデジタルサイネージなどの技術に期待が集まっています。
  • 日本政府は、オーバーツーリズムを防ぐ地域プロジェクトを支援するための予算を確保しています。

オーバーツーリズムは、世界中の観光地で深刻な課題となっており、日本も例外ではありません。各地でさまざまな対策が講じられている一方、根本的な緩和には革新的な解決策が求められています。

2024年に日本を訪れた観光客は約3,687万人に達し、前年比47.1%増の過去最高を記録しました。2023年の訪日外国人による旅行消費額は5兆3,065億円に上り、新型コロナウイルスによるパンデミック前の2019年と比較して10.2%の増加となっています。こうした中、日本政府は2030年までに訪日観光客を6,000万人に増やすという新たな目標を掲げ、2025年3月には石破総理大臣が、その達成に向けた計画の策定を関係閣僚に指示しました。

訪日観光客数が増加する中、宿泊者数は、東京都、大阪府、京都府、北海道、福岡県の5都道府県が全体の約73%を占めており、観光客の集中が顕著です。ある調査によると、観光客の増加により、「混雑している」「やや混雑している」と回答した人の割合は、生活エリアで59.7%、業務エリアで63.4%。混雑により悪い影響が出ていると回答した人は両エリア共に約60%に達しています。

人気観光地への旅行客の集中は、周辺地域の市民生活に負の影響を及ぼしています。古都として人気の高い京都では、観光客によって公共交通機関が混雑し、地域の住民が利用しづらくなる事例が相次ぎ、さらに市街地に宿泊施設が増えることで騒音やゴミの課題が深刻化。北海道東京などでも、オーバーツーリズムによる課題が報告されています。

オーバーツーリズムは、地域住民に不利益をもたらすだけでなく、旅行客自身の満足度低下にもつながります。増加する旅行客の経済効果を最大限に活かすためには、目的地の分散とサービスの質の維持が欠かせません。こうした中、官民が連携し、混雑の少ない地域への誘致や、混雑状況をリアルタイムで可視化するシステムの導入といった、新たなアプローチが顕著です。

旅行客の増加は、地域経済や観光業に利益をもたらす一方、特定地域への集中は市民生活や旅行体験に負の影響を与えるリスクも伴います。

認知度の少ない地方への誘致

日本航空(JAL)と星野リゾートは、2024年10月より、訪日観光客が少ない地方への誘致を目的とした連携施策を開始しました。比較的認知度が低い「穴場」観光地を公式サイトで継続的に紹介する他、インスタグラムを活用したキャンペーン、JALの航空券と星野リゾートが運営する施設を組み合わせたパッケージプランの提供などを実施。これらの取り組みにより、オーバーツーリズムの解消と地域活性化の両立を目指しています。

また、JALは、地方誘致をさらに強化するため、2024年9月から海外発の国際線利用者を対象に、日本国内線を無料で利用できるキャンペーンも開始。これにより、旅行客は、これまで訪れなかった地域にも足を運びやすくなります。

混雑状況の可視化と情報発信

人気の施設や地域の混雑状況を可視化し、旅行者が混雑を避けて行動できるようにする取り組みも進められています。

沖縄県の観光快適化アプリ「おきめぐり」では、過去の人流データや天候情報をもとに、AIが観光スポットの混雑度を予測。旅行者は、日付や時間、予想天気、エリアやスポットなどを選択し、混雑状況やイベント情報を確認することができます。リアルタイムな情報ではないものの、旅行計画の段階で混雑状況を把握できるため、より快適な旅行の実現が期待されています。

また、北海道の函館山では、夜景スポットとしての人気が高い山頂の展望台の混雑が課題となっています。函館市では、2025年1月から展望台の混雑状況を可視化するシステムを導入。函館駅構内にデジタルサイネージを設置し、山頂の展望台や山頂へのロープウエー駅など8ヶ所の混雑状況がほぼリアルタイムで把握できるようになりました。さらに、QRコードを読み込むことで、スマートホンからも混雑状況を確認することができます。

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政府による地域事業への補助

オーバーツーリズムは、政府にとっても喫緊の課題です。2024年度の補正予算では、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする訪日外国人受入環境整備に向けた緊急整備」として158億2000万円を計上。これは、2025年度予算案を含めた総額の15%に相当します。

観光庁は、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」を実施。この事業では、地域の関係者が協議の上策定した対策や計画を包括的に支援しています。対象となる取り組みには、「人流データの収集・分析」や「混雑状況の可視化」などが含まれ、採択事業には上限8,000万円の補助金が支給されます。2025年度には、「訪日外国人旅行者の熊本県内への分散化実践計画策定・体制構築事業」などが採択され、地域主導の対策によるオーバーツーリズムの緩和を目指しています。

旅行客の増加は、地域経済や観光業に利益をもたらす一方、特定地域への集中は市民生活や旅行体験に負の影響を与えるリスクも伴います。こうした課題に対応するには、旅行者の分散を促す取り組みが不可欠です。日本における官民連携の取り組みは、比較的知名度の低い地域への誘致や混雑回避を可能にする仕組みを通じ、地域経済、住民、旅行者すべてに恩恵をもたらすモデルとなり得ます。また、こうした取り組みは、観光産業の持続可能な発展にとどまらず、社会全体のレジリエンス強化と包摂的な経済成長を後押しする一つのビジョンを示しています。

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