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ラテンアメリカの多面的貧困を解決する、人間中心の都市

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ラテンアメリカの都市人口の15%以上が、多面的貧困に直面しています。 Image: Gabriel/Unsplash

Luis Antonio Ramirez Garcia
  • ラテンアメリカおよびカリブ海地域は、世界で最も都市化が進んだ地域の一つです。
  • しかし、ラテンアメリカの都市人口の15%以上が、多面的貧困に直面しています。
  • この地域の都市はイノベーションの拠点でもあり、多面的貧困の低減と同時に都市レジリエンスの構築が可能であることを示す、多くの事例が存在します。

ラテンアメリカおよびカリブ海地域は、世界で最も都市化が進んだ地域の一つです。ここでは人口の約82%が都市部に居住しており、世界の平均である55%を大幅に上回っています。一方では、都市が経済成長と社会進歩の強力な原動力となると同時に、急速な都市化が格差の拡大ももたらしました。この地域では、2022年に金銭的な貧困が26%まで大幅に削減されましたが、貧困の性質が変化し、都市部で貧困状態にある人々の割合は、2000年の66%から2022年には73%に増加。このことは、地理的な構造によって貧困が根本的に変容したことを反映しています。

都市部の貧困は、収入の不足だけでなく、複数の不利な要因が重なり合う状態が特徴となっています。この現実を反映した「多面的貧困」という概念は、世帯が収入を得ていても、適切な住宅、教育、医療、基本サービスへのアクセスが欠如している現状を捉えたものです。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)と国連開発計画(UNDP)の最近の調査によると、ラテンアメリカ都市部の15%を超える人口が多面的貧困のもとにあります。割合は農村地域よりも低いものの、この地域には都市が集中しているため、影響を受ける人々の絶対数は相当な数に上ります。影響を受けているのは、安全な水や衛生施設のない非公式居住区に住む家族、栄養失調が継続する地域、教育や経済的機会が限られたコミュニティなどです。

最近の推計では、ラテンアメリカにおいて1日3.65米ドル未満で生活する極貧状態にある人々の59%が、ブラジル、ベネズエラ、メキシコの3カ国に集中しており、この課題の大きさを強調。その影響は5,200万人超に及びます。喫緊かつ的を絞った統合的な行動が必要であることは明らかです。

都市部の不平等に追い打ちをかける気候変動

さらに、急速な都市化と気候変動の影響の拡大が、貧困を固定化する条件を生み出しています。多くの都市が政府の計画や規制を超える速度で拡大しており、環境リスクにさらされた地域での非公式な開発が広範に及んでいるのです。丘陵地帯、洪水危険区域、都市周辺地域に立地する集落の多くで、極端な気象現象に耐えることのできるインフラが不足。気候変動がもたらす極端な気象は、脆弱な住宅に住み、回復のための資源を欠く貧困層に、最も深刻な影響を及ぼします。喫緊の是正措置が講じられなければ、こういった地域は数十年にわたる社会的な進歩が後退するリスクに直面するでしょう。一部の推計では、気候変動に関連した災害により、2030年までに極度の貧困状態にある人々の数が最大300%増加する可能性があります。

気候変動は既存の不平等を一層深刻化させます。干ばつ、暴風雨、土地の劣化によって農村部の人口の多くが都市部に移住し、すでに過密状態にある非公式の住宅地に定住。これにより公共サービスへの圧力が増大し、排除が深刻化し、貧困の悪循環が助長されるのです。都市部の女性は特に影響を受けています。この地域の都市部に住む世帯の4分の1は、女性が世帯主です。これは世界最高の水準であり、こうした世帯は、非正規雇用、育児や介護、社会保護へのアクセス制限など、さらなる課題に直面しています。気候変動に関連した災害が発生した後、女性と少女は移動の制約、資源へのアクセス制限、安全な住居の不足によって、より大きなリスクにさらされます。

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脆弱性から機会へ~持続可能かつ包摂的な都市~

課題は複雑ですが、地域内の都市はイノベーションの拠点でもあります。多くの事例が、多面的貧困の削減と都市のレジリエンス強化を同時に実現可能であることを示しています。例えば、コロンビアのメデジンでは、社会的な都市化を目指す戦略が市内で最も脆弱な地域の変革に貢献してきました。公共交通機関、図書館、緑地、文化施設など、包摂的なインフラへの投資を行うことで、コミュニティの結束が強化され、暴力が著しく減少。同様に、ブラジルのクリチバ、コロンビアの首都ボゴタ、メキシコの首都メキシコシティなどの都市における持続可能なモビリティソリューションは、経済機会へのアクセス拡大、移動時間の短縮、大気質の改善を実現し、特に低所得層に恩恵をもたらしています。

また、気候リスクを緩和するために、自然に基づく解決策の採用も増えています。ペルーのリマや、ボゴタなどの都市では、植樹、都市森林の創造、湿地の回復などの取り組みが行われ、温度調節、洪水防止、ウェルビーイング(幸福)を向上させる公共空間の創造に貢献。エクアドルのキトでは、都市実験室の実施において、コミュニティ、大学、地方自治体が連携して都市の改善を共同設計しています。こうした参加型モデルは、低コストで高影響のソリューションを提供しつつ、住民の帰属意識と主体性を強化する効果があることが証明されています。

このような取り組みは、知識共有と戦略的パートナーシップを支援する地域アクター間の協働が、意味のある変化を推進できることを示しています。都市のレジリエンスと社会的包摂は、大規模な投資に依存するものではなく、イノベーション、適応力、そして政策決定の中心に人を置く意志があるかどうか次第なのです。

尊厳とレジリエンスの確保に向けたコミットメントの共有

都市貧困、不平等、気候変動の脆弱性との複雑な関係に対処するためには、統合的かつ長期的な対応が必要です。都市は、公平性、環境の持続可能性、リスク軽減に焦点を当てて計画、管理される必要があります。これには、高リスク地域の開発を回避するための土地利用規制を確立すると同時に、安全でアクセス可能かつ人材開発に適した地域に、適切なインフラ、住宅、基本サービスを提供することが含まれます。

包摂的なインフラへの投資は特に重要です。手頃で持続可能な交通システム、エネルギー効率の高い住宅、レジリエンスの高い水と衛生ネットワーク、安全と社会交流を促進する公共空間が、変革的な効果をもたらすでしょう。同時に、コミュニティが異常気象に耐えられるよう支援する、強固な都市社会保護システムが必要です。早期警報システム、災害対策訓練、コミュニティ主導の適応戦略などの対策は、脆弱性の軽減に極めて重要であることが証明されています。

これらの変革を資金調達するためには、地方税収の改善、グリーン投資のインセンティブ、官民の資金を組み合わせるブレンドファイナンスへのアクセスなど、革新的なメカニズムが必要です。可能な限り、都市政策は社会目標および環境目標と整合させ、断片化や部門別対応を回避する必要があります。また、ジェンダーに配慮した計画、データに基づく意思決定、包摂的なガバナンスプロセスも優先すべきです。

最後に、人間の行動と集団的意識の役割を認識することが不可欠です。インフラのみから変革が生まれることはありません。コミュニティがより持続可能な行動を採用し、社会的結束を強化し、都市環境の形成に積極的に参加することで、より強靭かつ公正な都市を築くことができるでしょう。

都市の貧困は多面的な性質を持ち、単なる数値指標では捉えきれません。求められているのは、健康、安全、福祉を支える環境と、人間の尊厳、機会、繁栄する権利に関する真摯な議論です。都市化によって地域が再形成され続ける中で、都市を包摂的かつ低炭素な開発の推進力として再構築する絶好の機会が訪れています。この課題に取り組むためには、議論の場を広げ、地域や分野を超えた協働を促進し、人間を都市変革の中心に据える必要があります。こうした取り組みは、誰一人取り残されない未来を築くために不可欠なステップであり、人間中心の都市づくりは、倫理的責務であると同時に、より公正で持続可能、かつ繁栄する都市の未来を切り開く道なのです。

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