食料と水

水の安全保障に向けた、5つの道筋

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本寄稿文は、第一財経日報の記事を転載・和訳したものです。

水システムはかつてない圧力にさらされています。 Image: via REUTERS

Gim Huay Neo
Managing Director, World Economic Forum
  • 水不足、気候変動や人口増加、産業需要による水質汚染、異常気象が、グローバルな水システムを危機的なレベルに追い込んでいます。
  • 水システムのレジリエンスを高めるには、セクター横断的なパートナーシップ、目的に合わせた資金調達、革新的なガバナンスと政策枠組みの採用が鍵となります。
  • 水に関するホリスティックな評価、目的に合わせた資金調達、流域レベルでのパートナーシップ、適応型ガバナンス、政策とイノベーションの連携という5つの基本戦略が、長期的な水の安全保障に役立ちます。

*本寄稿文は、イーカイ・グローバルの記事を転載・和訳したものです。

生態系を維持し、地域社会を養い、ビジネスと経済成長を推進するグローバルな水システムが、かつてないほどの圧力にさらされています。

各国政府、産業、社会が水関連の混乱による影響の増大に直面する中、構造的な協調行動とレジリエンスの高いシステムが必要であり、喫緊の課題として対応を迫られているからです。

多方面にわたる水の課題

課題は、水の「不足」のみではありません。異常気象や洪水による水の「過剰」、あるいは飲用や利用に適さなくなる水の「汚染」もまた課題となっています。

気候変動、人口増加、産業需要の影響により、水システムは限界に達し、何十億もの人々にとって清潔な水の利用が脅かされているのです。

こうした水に関連するリスクは環境的なものにとどまらず、経済的な影響も甚大です。

水はグローバルGDPの60%以上と密接に関係しており、農業、製造業、さらにはデータセンターを介したAIなどのテクノロジー主導の分野を含むあらゆる産業を支えています。これらの産業はすべて、冷却や業務に水を使用します。あらゆるビジネスが水に依存しているのです。

例えば、水不足をめぐる法的争議により、テスラの2022年のドイツ工場拡張計画が遅延し、産業と住民の将来的な水利用を確保するためのインフラ再設計が必要となりました。

また、洪水はオーストラリアで最も保険が支払われた気象災害であるため、保険価格が上昇。このため、保険会社は、企業と地域社会を守るために300億ドルの防衛基金を設立するよう同国政府に強く求めています。

水に対するレジリエンスの必要性

レジリエンスの構築とは、混乱を効率的かつ公平に予測し、軽減、適応、回復することです。

水システムの場合、レジリエンスは、長期的な公的リソースと企業のリソースを動員するための、イノベーションとセクター横断的なパートナーシップを構築できるかどうかにかかっています。適切な枠組みと資金があれば、衝撃によりよく備えることができるのです。

1987年のモントリオール議定書で各国政府、市民社会、企業が一体となってオゾン層の保護に取り組んだように、これまでも地球規模課題が多様なステークホルダーの協力によって解決されてきました。

今こそ、実証済みの淡水イニシアチブを拡大する絶好のチャンスです。グローバルな課題に関する対話のプラットフォームを提供する世界経済フォーラムは、パートナー企業が主導する有望な解決策を特定しました。

その中には、ブラジルの環境サービス市場、インドの河川浄化イニシアチブ、ベトナムのサステナブルな稲作農業、米国の水効率化パイロットなどが含まれます。各解決策はそれぞれ独自のものですが、いずれもより大きな影響をもたらすためにはスケールアップが必要であり、企業の積極的な関与が求められます。

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ビジネスパートナー60社以上との協議、100以上の報告書のレビューを実施した結果、世界経済フォーラムの「水の未来」コミュニティは、水のレジリエンスが公益事業にとどまらず、鉱業、不動産、農業、製造業などの産業に長期的な影響を与えることが極めて重要であると結論付けました。

同フォーラムの政府およびビジネスコミュニティ、ならびにパブリックセクターと企業のステークホルダーは、水システム、経済、コミュニティを脅かす複雑かつ相互に結びついたリスクに対処するために、次の5つの方法で取り組みます。

1. 水に関するホリスティックな評価

水は、その市場価格だけでなく、エコシステム、社会、経済的な価値も含めて、より広範に理解する必要があります。

水の評価に対するよりホリスティック(全体論的)なアプローチは、より良い意思決定につながり、水のリサイクルや淡水エコシステムの保護などの取り組みを促進します。この取り組みにおいて、データの収集を加速し、企業レベルでの水の価値とリスクを定量化し、最終的に情報に基づいた意思決定を導く企業は、有利な立場に立つことができます。

水が単なる商品や無料の資源ではなく、重要な資源として認識されるようになれば、サーキュラリティ(循環性)が促進され、長期的な水の安全保障のために水利用を最適化するイノベーションが進むでしょう。

2. 目的に適った資金調達

従来の資金調達モデルでは、水のレジリエンスに関するプロジェクトを支援するには不十分な場合が多くあります。こうしたプロジェクトは、長期的な投資を必要とするためです。

多様な資金源を活用し、プロジェクトの誕生から終了まで確実に資金が供給されるよう、目的に適った資金調達メカニズムを開発する必要があります。

各国政府と業界が協力することで、個別の水のレジリエンスに向けた取り組みのニーズに合わせた金融ソリューションの調整が可能になります。また、インフラの復旧と淡水エコシステムの保護に必要な資金の動員につながるでしょう。

水のレジリエンスとは単なる目標ではなく、未来への重要な投資なのです。

3. 競争以前の流域レベルでの持続的パートナーシップ

水に関する課題は、地下水が共通の水域に流れ込む流域や集水域レベルにおいて最も深刻です。これらの課題に対処するには、多様なステークホルダーの協力が不可欠です。

協調的なモデルやパートナーシップを活用することで、公平かつ適応可能な地下水および淡水資源の保全を広く実施するためのベストプラクティスを加速させることができます。水のバリューチェーンのどこにあるかに関わらず、すべてのステークホルダーが何らかの役割を担っています。

流域レベルで、水関連のデータ、ツール、戦略における調整と革新的な手法の普及を促進することで、ステークホルダーは、資源の採取、生活、事業活動、利益の享受を行う流域の管理者としての役割を十分に果たすことができます。

4. 適応的な水のガバナンスに向けたアプローチ

環境の現実が変化する中で、地域から国家レベルの水のガバナンスは柔軟かつ対応力のあるものでなければなりません。

また、水循環は行政区域の境界に縛られないこと、そして地域社会、地域、国家は水資源の利用において相互依存していることを理解する必要があります。

水に関する規制や法律は、すべてのステークホルダーを巻き込み、透明性を確保し、包括的な水データとリスク管理ツールを統合して、選択肢に関する情報を提供し、アカウンタビリティを促進し、セクター間のデータ共有による協力を奨励するものでなければなりません。

5. 政策とイノベーションの連携

水管理のエコシステムを成功させるには、政策立案者とイノベーションを推進する企業との緊密な連携が必要です。

各国政府は、新興テクノロジーや革新的な水ソリューション(雨水貯留や汚染除去など)と歩調を合わせた戦略的な政策を実施し、その開発と大規模な展開を促進する必要があります。

このアプローチにより、各国政府と企業間の効果的な協調的アプローチが促進されるでしょう。つまり、政策はもはや水のイノベーションの障壁ではなく、安全で手頃な価格で公平なソリューションを実現するための手段となるのです。

水のレジリエンスに向けた協調の道筋

グローバルな水危機への対応の緊急性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。2050年までに、世界の人口の半分以上が水ストレスの高い地域に住むようになると予測されており、その結果、資源の奪い合い、新規開発の制限、さらなる移住が起こると考えられます。

水に依存するエネルギー転換の取り組みは衰退し、2050年までに国内総生産は減少するでしょう。高所得国では8%、低所得国では最大15%に上ると考えられます。

私たちの来た道は、すでに憂慮すべき状況になっています。データセンターを循環型または無水のソリューションに切り替えない限り、2027年にはグローバルなAI能力がデンマークの年間総取水量の4~6倍以上の水を必要とするだろうと予測されています。

3月22日の「世界水の日」を記念して、グルンドフォス、水の経済学に関するグローバル委員会、エコラボ、ザイレム、チューリッヒ保険会社などの世界的リーダーが先導するフォーラムのマルチステークホルダー・コミュニティは、幅広いプロジェクトを選定し、拡大と加速を図ります。

水関連のリスクが経済、コミュニティ、エコシステムを脅かしている今こそ、行動を起こすべき時です。この5つの道筋を採用することで、私たちはすべての人々の水へのアクセスを確保し、経済の安定を促進し、環境の持続可能性を支援することができます。

水のレジリエンスとは単なる目標ではなく、未来への重要な投資なのです。大胆な集団行動を取ることで、貴重な水の一滴一滴がすべての人に行き渡る世界を作り、将来の世代が繁栄に必要な水へのアクセスを確保することができるでしょう。

本寄稿文は、第一経済日報の記事を転載・和訳したものです。

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