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スタートアップ支援による、地方都市のレジリエンス強化の可能性とは

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オープンイノベーション拠点であるSTATION Aiをオープンした名古屋をはじめ、日本中の地方都市ではスタートアップのエコシステムの育成に力を入れています。 Image: Unsplash

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 人口動態の変化により、日本では特に若者や女性の東京への移住が進んでいます。
  • これを受け、地方都市は地域経済を活性化させるため、ダイナミックなスタートアップ・エコシステムを育成しています。
  • 注目すべき例の一つが、昨年発足した国内最大のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」です。

東京への人口集中が続く日本では、地方都市において、スタートアップのエコシステムを構築し、人材流出を防ぎ、地域経済の振興につなげる動きが活発化しています。

総務省が発表した住民基本台帳人口移動報告によると、2024年に全国で転入者数が転出者数を上回り、かつ前年と比べ転入者数が増えたのは、東京、千葉、大阪の3県のみ。さらに、東京は29年連続で転入超過となった一方、名古屋圏は12年連続の転出増加を記録しました。

同報告によると、東京に転入する人の9割以上は20〜29歳の若者であり、53%は女性です。若者や女性は、進学や就職のために東京へ移住することが多く、教育や仕事の選択肢および待遇が限られている地方から、大都市への人口流入が進んでいます。

地方では、地域経済の人材確保や少子化の進行といった課題が深刻化しています。その対策の一環として、地方都市では、スタートアップのエコシステムを積極的に構築する取り組みが加速しています。

国内最大のオープンイノベーション拠点がオープン

その一例が、2024年10月、名古屋にオープンした国内最大のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」。愛知県による「Aichi-Startup戦略」の一環として、スタートアップや事業の創出、ファンド運営の支援などを目的とし、ソフトバンクの子会社であるStation Ai株式会社が運営する施設です。

愛知県には、トヨタをはじめとした日本を代表する製造業が多く集まり、本社を置く企業も少なくありません。ものづくりやビジネスの土壌、さらに名古屋大学を通じて優れた研究基盤や人材も揃っており、スタートアップを生み出すための「ポテンシャルがある地域」であると、代表取締役社長兼CEOの佐橋宏隆氏は述べています。

延面積2万3,000平米を誇る施設には、すでに700社を超えるスタートアップ企業やベンチャーキャピタルなどの支援機関、大学などが参画しています。入居するのは、同県にゆかりのある、自動車や航空宇宙分野、ロボット、繊維、陶磁器などの産業関係からヘルスケアやAIなどまで多岐にわたる領域の事業。日本だけでなく、アジアにおけるスタートアップイノベーションのハブを目指すとともに、スタートアップを通じた地元産業の課題解決などにも期待が寄せられています。

神戸におけるイノベーション・エコシステムの強化

また、兵庫県神戸市の商工会議所は、2024年12月に、地元におけるイノベーションやスタートアップ企業の支援育成を目的とした新組織「神戸イノベーション・コミュニティ」を設立。神戸ではこれまでも市が中心となり、「KOBE STARTUP VALLEY」や「Life-Tech Kobe」などのスタートアップ支援を行ってきました。その結果、医療分野のスタートアップや、衛星データ解析や機械学習を活用し、国外でさまざまな事業に関わる、Sagriのような企業も生まれています。

同会議所の川崎博也会頭は、「資金供給では東京に及ばなくても、経営を総合的に支援する環境ができれば、神戸のアドバンテージになる。販路や協業先の探索、ネットワークづくりなどに注力したい」と述べました。市の支援に加え、会員企業とスタートアップをつなげるなど、商工会議所の強みを活かしたサポートを提供することで、今後、スタートアップ育成の加速し、多様な領域の事業創生につなげることが目標です。

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他の地方都市におけるスタートアップ支援

幅広い支援により、スタートアップ拠点としての環境が培われ、地域に根付き始めているのが福岡市です。同市は、2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言し、成長の軸にスタートアップ支援を据えた政策を推進。これまでに、官民協働の創業支援施設である「Fukuoka Growth Next」やスタートアップカフェを開設し、1,000社近い企業が創業しました。福岡市は、さらに、創業したスタートアップ企業の上場に向けたサポートを強化し、2024年度は6社を支援対象に採択しています。

また、内閣府により国家戦略特区グローバル創業・雇用創出特区」に指定されており、規制緩和の特例を設けることができるのも同市の強みです。本制度を通じて外国人起業家の受け入れ促進のための「スタートアップビザ」を日本で初めて提供するなど、海外市場を見据えた拠点構築を進めています。

北海道の札幌市では、2019年からSTARTUP CITY HOKKAIDOプロジェクトが開始。2023年からは、札幌市、北海道、北海道経済産業局の3行政が「STARTUP HOKKAIDO実行委員会」を通じて、北海道全体でスタートアップが生まれる環境づくりを後押ししています。

地方都市のスタートアップ振興が、レジリエンスを高める

世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2025」が指摘する、世界において労働力が高齢化し、減少する地域と増加する地域の格差拡大は、日本の大都市と地方の間でも起きています。地方都市によるスタートアップエコシステムの育成支援は、こうした労働力が減少する地域の活性化を促進することができます。地元の課題解決を目指す事業を促進することに加え、女性がやりがいを感じられるような仕事や職場環境を整備することにより、大都市への女性の流出防止にもつながるでしょう。地方都市におけるスタートアップ支援は、地域経済の振興や人口維持を助け、地域のレジリエンスを高めるのです。

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