経済成長

グローバル貿易の変貌と、チャンスをつかむ都市

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ホーチミン市などの都市は、近年、商業の中心地へと変貌を遂げました。 Image: Unsplash/Peter Nguyen

Ben Simpfendorfer
Head, Oliver Wyman Forum, Asia-Pacific, Oliver Wyman (MMC)
  • 地政学的な緊張、保護主義的な政策、産業政策が、グローバル経済の大きな変革を生み出しています。
  • 企業は、商品の生産地から人材の採用や事業の成長方法に至るまで、あらゆることを再考する必要に迫られています。
  • 新しいレポートでは、アジア、アフリカ、中南米、中東の各都市がこのモメンタムを成長の好機として活用している様子が示されています。

グローバル経済が大きな変革期を迎える中、企業を取り巻く環境も変化しています。地政学的な緊張、保護主義的な圧力、産業政策により、企業は生産拠点の選定から人材の採用、顧客基盤の拡大に至るまで、あらゆる戦略を再考する必要に迫られています。

この変革により、経済成長の中心は北米やヨーロッパからアジア、アフリカ、中南米、中東の多数の都市へとシフトしつつあります。国際通貨基金(IMF)によると、現在では世界の国内総生産(GDP)の45%をこの4つの地域が占めており、2004年の33%から増大。また、世界人口の85%がこの4地域に集中しています。国連のデータによると、2040年までにグローバルな人口増加の95%に相当する11億人の都市居住者が新たに生まれると予想されています。

また、オリバー・ワイマン・フォーラムの最新レポート『The Cities Shaping The Future(未来を形作る都市)』では、アジア、アフリカ、中南米、中東の25万人以上の人口を抱える1,500都市のビジネス上の魅力を評価。これによると、最も成功している都市の多くには、類似した特徴があります。

世界で急成長する都市から学ぶこと

それぞれの地域に独自の歴史、文化、天然資源がある一方で、最も成功している都市は一般的に、貿易相手国に近い場所に位置しています。また、不可欠なインフラへの投資、気候変動への備え、企業や消費者をひきつけるホテルや小売店、労働力を備えています。

未来を形作るこれらの都市から、他の都市が得られる学びとはどのようなものでしょうか。

変化する世界

新興市場は何年もの間に変化を続けてきました。変化したものは機会の規模と広がりであり、それは今やメガシティをはるかに超えるまでに大きくなっています。

リスク回避を望む企業は、中国の工業都市への依存度を減らし、複数の国々で製造を行うようになりました。こうした戦略は「チャイナプラスワン」や「ニアショアリング」と呼ばれ、特にメキシコやベトナムの都市が、同レポートの評価で輸出額上位都市の3分の1を占めています。このように、製造拠点の選択肢は大幅に拡大しているのです。

しかし、ここ数年の間に著しい成長を遂げた都市はそれだけではありません。現在、バングラデシュのダッカ、タイのバンコク、モロッコのタンジェなど、1,500都市がグローバルな商品輸出の51%(2003年は37%)を占めています。

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立地の利

評価対象の中で最も成功している都市には、東京、上海、ドバイといった有名な大都市もありますが、その多くははるかに小規模です。小さな都市が近年、ベトナムのホーチミン市、モロッコのタンジェ、コロンビアのボゴタのように、商業ハブ、モビリティ・コネクター(交通の要衝)、輸出額上位都市へと変貌を遂げているのです。

成功の要因は何でしょうか。それは、立地です。特に重要な市場に近い場合、立地が有利に働きます。例えば米国に輸送する場合、ベトナムからでなくメキシコからのほうが輸送日数を20日間短縮できるからです。

同様に、人口わずか140万人のタンジェは、ヨーロッパに近いという立地条件の恩恵を受けています。その結果、この都市は自動車産業の拠点となり、アメリカ、ヨーロッパ、中国の多国籍企業からの多額の投資を受け、アフリカを代表する輸出ハブの一つに成長。また、アフリカ最大のコンテナ港湾施設をはじめとする重要なインフラを整備し、クリーンエネルギー源を求める海外投資家を誘致するために再生可能エネルギーの開発も進めています。

主要物流インフラへの近接性を考慮した工業都市の集約も、成功に寄与しています。例えば、輸出額で第2位、モビリティ・コネクターとして第26位にランクインしたホーチミン市は、主要港に近接し、ビエンホアやトゥーダウモトといった近隣の工業都市へのアクセスも良好であるため、脱中国を狙う企業の生産拠点として大きなシェアを獲得。クラスター化によって、より深い人材プールと専門化の機会が得られます。企業は、中国からの輸入の必要性を減らすと同時に、近隣で幅広い種類の部品を調達することができるのです。

モビリティの重要性

主要都市は、国内または国際的な移動の便が良く、ビジネスオーナーや従業員、貨物を国内外に容易に移動させることができます。

商業ハブとして37位、モビリティ・コネクターとして36位にランクインしたボゴタは、この地域の航空貨物業界をリード。南北アメリカ大陸の間に位置し、観光地としても人気が高まっています。

エチオピアの首都、アディスアベバも同様にアフリカとその他の地域を結ぶ交通の要衝となっており、90以上の国際都市との空路でアフリカ大陸と製造業者をつなぐ強力な航空貨物セクターがあります。アフリカ開発銀行のレポートによると、特にアフリカでは、アフリカ大陸内のフライトのキャパシティが大陸間のフライトよりも少ないため、国内外の接続性を改善することは、より多くの外国からの投資を誘致する上で極めて重要です。

多面的な商業ハブ

最も成功した商業ハブには、大手上場企業や工場、ホテルなどが集積しています。これは、地域経済に厚みがあることを示す兆候です。

例えばトルコのイスタンブールは、モビリティ・コネクターとして第3位、商業ハブとして第11位にランクインしています。同都市は観光業が盛んであり、工業部門も協力で、小売業も人気があり、国内最大の企業の多くが拠点を置いています。この歴史ある大都市には2023年に5,500万人の観光客が訪れ、ランクインした都市の大部分よりも多数のホテルがあり、その中には高級5つ星ブランドも多く含まれています。また、その空港は乗客数と就航都市数でドバイと肩を並べ、香港やシンガポールを上回ります。同市の1,600万人の住民が、有名高級ブランドが軒を連ねる活気のある小売業を支えています。

各国政府にとっての課題は、国内の成長を均等に広げるために複数の商業ハブを開発することです。イスタンブールはトルコ最大の商業ハブですが、同国にはアンカラやイズミルなど、企業や小売業の存在感も強い他の主要な商業都市があります。

一方、ジャカルタはインドネシアの商業活動のより大きな割合を占めており、インドネシア政府は同国の新首都ヌサンタラを含む中規模都市の開発に力を入れています。

気候変動に対するレジリエンス

最も高い評価を得た都市の多くが気候リスクに対して脆弱です。これには、輸出額の上位にある都市の3分の1、商業ハブの3分の1が含まれます。また、世界銀行の調査では、東アジアの国々が気候関連のリスクに最もさらされていることが判明。南アジアとサブハラ・アフリカの国々についても同様であるばかりでなく、これらの国々は異常気象に対して極めて脆弱でもあります。

例えば、ドバイは、本レポートでは商業ハブとして第8位、モビリティ・コネクターとして第4位にランクされていますが、極度の暑さ、水不足、洪水に悩まされています。同国は、沿岸のマングローブ林の再生や、先進的な建物の冷却技術の開発により、これらの課題に取り組もうとしています。

同様に、モビリティ・コネクターとして第1位、商業ハブとして第2位、輸出額の上位にある都市として第3位にランクされた上海は、洪水リスクや台風に悩まされています。対処するために同市は、防潮堤、排水システム、監視システムのネットワークに多額の投資を行っています。これらの都市は、レジリエンスに投資することによってこうしたリスクを部分的に克服しつつありますが、他の多くの都市では必要な投資を確保することがより困難であると考えられます。

リスクが都市にもたらす機会

関税が急激に変化し、地政学的な緊張が高まる世界においても、都市は発展を続け、企業が複数の国にまたがって事業を展開する機会は増えています。

しかし、こうしたチャンスを最大限に活かすためには、特に空港や港湾といった交通インフラへの投資が不可欠です。こうしたインフラ投資を積極的に進めるドバイのような都市は、多国籍企業が成長に向けた戦略的な立ち位置を確保し、同時にグローバルリスクから身を守る中で、大きな利益を得ることができるでしょう。そのような企業は、単なるサプライチェーンの拠点としてだけでなく、地域の人材ハブとしての役割も視野に入れ、事業の再編を模索していくことになります。

したがって、都市にとっての課題は、これらの機会を活かし、必要な資本を動員してインフラに投資すること、そして、ビジネスの成長を支える次世代の労働力を育成することにあります。

気候変動の影響にも対処しなければならないため、今後、リードする都市と後塵を拝する都市の差は広がっていく可能性があります。しかし、都市が掴むべき機会はまさにそこにあるのです。

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