極端な暑さがもたらす、暮らしの変化

世界各地で猛暑が頻発し、深刻化しています。 Image: Unsplash/Sardar Faizan
- 世界各地で猛暑が頻発し、深刻化しています。
- 研究によると、気温上昇に伴い、人々の生活習慣や仕事、行動が変化しています。
- 世界経済フォーラムの白書「Insuring Against Extreme Heat: Navigating Risks in a Warming World(極端な暑さへの対応策:温暖化する世界におけるリスクの乗り越え方)」によると、猛暑は健康にとって脅威となるだけでなく、2030年までに年間2.4兆ドルに相当する生産性の損失を引き起こすと予測されています。
極端な暑さが健康や福祉に及ぼす影響は、世界中で注目されています。
研究によると、猛暑により、オーストラリアでは心疾患への影響が増大。米国では、極端な暑さに長期間さらされることで、人の遺伝子の働きが変化し、分子レベルでの老化が加速する可能性があることが最近の研究により示されました。また、気候変動への迅速な対応がなければ、欧州では気温に関連する死亡者数が今世紀末までに200万人以上増加する可能性がある、と研究者は述べています。
気候危機により極端な暑さの発生頻度と深刻度が増す中、専門家は、市や州、国が暑さ対策と対応戦略を実施し、地域社会の最も脆弱な人々を保護すべきだと指摘しています。
そして、日々の生活においても、人々はすでに極端な暑さに適応するための行動を取るようになっています。
空調の需要が急増
世界気象機関(WMO)によると、過去10年は観測史上最も暑い10年であり、そして2024年はこれまでで最も暑い年となりました。猛暑の中、人々が空調を使用したことで電力消費が増加し、この年の電力需要に顕著な影響を及ぼしたことが、エネルギーのシンクタンクEmber(エンバー)のデータにより示されています。
世界の三大電力市場である中国、米国、インドでは、夏の熱波によって数十テラワット時規模の電力需要が上乗せされました。
空調の需要増加により、米国では前年の夏と比較して電力需要が37%増加し、中国では31%、インドでは19%の増加。エンバーによると、暑さの影響が最も大きかった月は、前年同月比で石炭発電の大幅な増加が記録されました。
国際エネルギー機関(IEA)によると、空調の使用は2050年までに3倍に増加すると予測されており、世界が温暖化する中、冷房のニーズを公平かつ持続可能な形で満たすことが極めて重要です。
国連は、冷房機器の消費電力を削減する重要な対策を講じることで、排出量を減らし、「命を救う」冷房を利用できる人を35億人に拡大することが可能であると述べています。
日々の生活習慣が変化
ニューヨーク・タイムズ紙は、気温の上昇に伴い、自宅の冷房だけでなく、個人用扇風機が「新たな必需品」に仲間入りしたと評しています。
個人向け携帯扇風機の市場規模は、今後2033年までにほぼ倍増すると予測されています。一方、『ランセット』に掲載された報告書では、気温が35℃を超えると電動扇風機は核心体温を大きく下げることができないと警告。同報告書は、空調を補うため、緑化建築や木陰の活用など、都市が屋外の環境を涼しくするための対策を強化することを推奨しています。
こうした緑地には都市部の気温を下げる効果があるものの、気温の上昇に適応するために生活習慣を変え、公園や自然がもたらす健康効果を享受できない人もいます。マサチューセッツ工科大学(MIT)が中国で行った研究によると、気温が極端に高い場合、人々は日常的に行なっていた屋外活動を控える傾向があることが明らかになりました。
一方、屋内にいながら、社交や運動を続けるための工夫をする人々もいます。米国フロリダ州南部では、ウォーキンググループが夏の厳しい暑さを避けるため、屋内のショッピングモールで活動するようになりました。
また、暑さを避けて屋内で過ごす中、人々の生活習慣にも変化が見られます。米国の研究者は、気温が上昇すると、娯楽や買い物、社交目的の外出が「著しく減少」することを発見しました。
さらに、『ネイチャー』誌に掲載された、2017年から2023年にかけて中国の100都市を対象にした研究では、気温が上昇すると昼食時のフードデリバリー注文が大幅に増加することが明らかになっています。
働き方の適応
『ネイチャー』のフードデリバリーに関する研究が示すように、この行動の変化により、極端な暑さにさらされる対象が、消費者から配達員へと変わっています。
世界経済フォーラムによる白書 「Insuring Against Extreme Heat: Navigating Risks in a Warming World(極端な暑さへの対応策:温暖化する世界のリスクを乗り越える)」 によると、世界的に見ても、極端な暑さが労働者に及ぼす影響は増しており、健康への脅威とともに、生産性の低下による年間2.4兆ドルの損失をもたらすと予測されています。
雇用主はすでに予防的アプローチとして、従業員に対する熱ストレスについての教育実施や、勤務スケジュールの調整を開始。例えば、農業労働者はすでに夜間に働くようになり、建設業や運輸業などの他の分野でも、涼しい時間帯にシフトを移す動きが進んでいます。
極端な暑さとその多様な影響が、世界中でより多くの人々の生活の現実となる中、世界経済フォーラムの 「Climate and Health Initiative(気候と健康に関するイニシアチブ)」 は、さまざまなステークホルダーや政策立案者を結集し、温暖化する地球がもたらす影響への解決策を模索しています。
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Adam Hildreth and Julie Inman Grant
2025年3月31日