サイバーリーダーシップの未来を形作る、3つの動向
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地政学的なシフトは、今後何年にもわたり、サイバーリーダーシップにおける課題を形成します。 Image: Getty Images/iStockphoto
William Dixon
Associate Fellow, Royal United Services Institute for Defence and Security Studies (RUSI)- 現在進行中の地政学的な変化は、サイバーセキュリティにおける国際協力の縮小につながり、今後何年にもわたってサイバーリーダーシップの課題を形成することになるでしょう。
- 人工知能やその他の最先端技術の加速度的な導入により、サイバーセキュリティの状況はかつてないペースで変化しています。
- ミレニアル世代とZ世代が労働人口の大半を占めるようになるにつれ、サイバー脅威は分散型プラットフォーム、暗号通貨取引所、インタラクティブメディアへと移行しています。
1月に発表された「グローバル・コオペレーション・バロメーター」は、世界のサイバーリーダーに対し、深刻な警告を発しました。重要なマクロトレンドが、デジタルレジリエンス構築における効果的な管理者としての彼らの役割に影響を及ぼしているからです。
本レポートは、地政学、経済、技術における激しい動きにより、平和と安全保障に関する協力が7年連続で低下している現状を指摘。
こうした状況はグローバルなサイバーリーダーシップ・コミュニティにとって厳しい環境をもたらしています。そのため、相互運用可能なグローバルなセキュリティ基準の策定、国境を越えたデータフローの保護、共有されるシステムインフラの集団的安全確保など、グローバルな協力がこれまで以上に必要です。
最近の地政学的緊張や国内における貿易圧力は、現在のグローバルなサイバーセキュリティ・アライアンス、サイバー関連の資金調達や政府機関の予算、国際的な法執行における協力を混乱させています。
サイバーレジリエンスは、従来の安全保障分野とは異なる特性を持っています。デジタルと物理的領域が融合し続け、グローバルなサプライチェーンの相互依存性が増大する中、変化する政治的ダイナミクスの分析は一層困難になっています。
一方、地政学や変わり続ける国内政策の動向は、変革をもたらす技術革新と、主要な人口動態の変化と並び、今後のサイバーリーダーシップにおける課題を左右する3つの主要な戦略的マクロトレンドの一つにすぎません。
1. 地政学的緊張と新たな国内政策
2024年に行われた選挙の結果、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任。世界的にも、多くの国で貿易や経済に対し、より内向的なアプローチをとる政策が導入される契機ともなりました。
これに伴い、地政学的緊張が高まり、より不確実なマクロ環境が形成されることが予想されます。
世界経済フォーラムの「グローバル・サイバーセキュリティ・アウトルック」によると、「地政学」はサイバー分野における最も大きな課題です。国家による支援を受けたサイバー攻撃やデータ主権を巡る対立が発生し、国際協力が妨げられる要因となっています。
新たな米国政権の発足直後から、地政学的な影響が国内のサイバー領域に表れています。こうした動向は、世界的に他の国々が追随するサイバー政策のモデルとなる可能性があり、サイバーポリシーのさまざまな側面で変化が生じることが予想されます。
まず、国際協力に関し、サイバー能力の強化に向けた取り組みが縮小され、サイバースペースおよび技術供給網における分断が一層進むことが見込まれます。
サプライヤーを多様化し、生産を再調達し、現地のインフラを強化しようとする動きは、引き続き加速するでしょう。
次に、規制やガバナンスにおいて、大手テクノロジー企業への規制緩和、ソフトウェアの責任軽減、最低業界基準の一時停止が予想され、サイバーセキュリティのエコシステム全体に影響を及ぼすことが見込まれます。
最後に、「力による平和」の外交政策が採用されることで、既存の紛争がさらに悪化し、サイバー領域における不安定要因が増大する可能性があります。
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2. 変革的技術と最先端技術
最先端技術の急速な導入は、新たな脆弱性や脅威を生み出し、その進展速度は多くの予測を上回っています。
エコノミスト誌によると、今は「AIにとっての正念場」であり、ChatGPTの発表からわずか2年余りで、AI分野への世界的な投資総額は数千億ドルに達しました。
同フォーラムの新たなAI and Cyber Report(AIとサイバーに関するレポート)に概説されているように、サイバーリーダーは、全主要企業の4分の3が積極的なAI戦略を導入している現実に向き合わなければなりません。
複雑なアプリケーションとその変革的なビジネスプロセスの保護には、本質的に課題が伴います。同時に、DeepSeekのリリースは、新たなツール、セキュリティ原則、必要な能力が極めて速いスピードで進んでいることを改めて浮き彫りにしました。
サイバーリーダーは、従来の情報セキュリティ対策を超え、経営幹部がAI投資に求める信頼の基盤である公平性、対敵堅牢性、説明可能性を確保する必要があります。
スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会2025でCloudflare社のCEOが述べたように、エコシステム全体の観点から見ると、AIを活用したサイバーレジリエンスは、攻撃者と防御者の関係において画期的な変革をもたらす可能性があります。
一方、そのような革新的なサイバー防御の実現には、大規模な独自の関連データへのアクセスが不可欠です。そのため、本質的に、大手ハイパースケーラーやエンドツーエンドのサイバーサービスプロバイダーに有利に働く傾向があります。
こうした原則が、最近の記録的な株価上昇や、市場の統合が一部の主要サイバープラットフォームプロバイダーに集中する要因となっています。サイバーリーダーは、システミックな影響の増大、サイバー格差の拡大、一部の国における「主権」志向との対立など、市場の集中や依存関係がもたらす潜在的な影響を認識しなければなりません。
3. ミレニアル世代 + Z世代 = サイバー3.0
ミレニアル世代とZ世代が世界の労働力の多数を占めつつある中、グローバル・コオペレーション・バロメーターは、グローバルなサプライチェーンの複雑化がリスクの予測を困難にしていると指摘しています。
過去10年間は、銀行、製造業、医療などの伝統的な産業における企業ネットワークの保護に重点が置かれてきました。現在は、数億人のデジタルネイティブな消費者や労働者が、サイバー空間において分散型、クラウド、エッジインフラを活用する新興産業と日常的に関わるようになっています。
この変化に伴い、サイバーリーダーは新たなリスクポイントに対処する必要があります。
サイバー犯罪者は、すでにこの動向を利用し始めました。例えば、ゲーム業界は世界のDDoS攻撃の半数を占めており、また、世界の暗号資産取引所へのハッキングの急増により年間数十億ドル規模の損失が発生しています。
国際通貨基金(IMF)および米国の連邦機関は、暗号資産市場を新たなシステミックリスクとして認識。インドの国内総生産(GDP)に匹敵する市場規模に成長したこの産業を保護するため、グローバルな対策が急務であると警鐘を鳴らしています。
Web3技術およびそのプラットフォームは、もはやグローバル経済の周縁的な存在ではありません。インタラクティブメディア・エンターテインメント産業は数千億ドル規模の市場を形成し、NVIDIAも最初はゲーム用グラフィックカード企業として創業しています。
ミレニアル世代では、不動産より暗号資産を保有する割合が多いのが現状です。数億人にのぼる35歳以下の人々が使用する、メタバースや仮想現実(VR)などの最先端プラットフォームの普及を考慮すると、その傾向はさらに顕著になるでしょう。しかし、これらの分野は、サイバーセキュリティの枠組みが限定的であり、統一されたサイバーガバナンスが確立されていないことが多いのが現状です。
集団的サイバーレジリエンス
世界的な緊張、拡大する経済的課題、急速な技術導入が進む中、対話を減らすのではなく、逆に増やさなければなりません。
産業界におけるサイバーレジリエンスのコミュニティは、信頼される独自の立場にあります。多様なステークホルダーが協力し、複雑なリスク環境においても繁栄し続け、レジリエンスのあるデジタル未来を実現するためのグローバルな道筋を見出す中心的な役割を果たすことができます。
主要国間の緊張が高まる中、このコミュニティは、エコシステムにとって真に重要かつ不可欠な要素を特定し、特に国際的な能力構築や産業界におけるグローバルな相互運用可能な最低基準の確立に貢献することができます。
また、技術・ビジネス・政策の各コミュニティを結集し、特に人工知能をはじめとする新興技術の安全かつ確実な活用の促進に注力することも可能です。
さらに、ますます重要性を増しながら十分な保護がされていない、新しいデジタルエコシステムや産業のレジリエンス強化にも取り組むことができます。こうした取り組みが、デジタルの未来を確かなものにするのです。