グローバルな市民社会を維持するために、企業が立ち上がるべき理由とは

企業は、市民社会を維持する上で重要なステークホルダーです。 Image: Unsplash/Diogo Nunes
- 米国の対外援助再編成は、国民総所得の顕著な落ち込みを含め、多くの経済を混乱させることが予想されます。
- 企業は単なるオブザーバーではなく、市民社会を維持するための重要なステークホルダーです。
- 長期的な解決策には、従来の援助への依存から脱却し、企業の参画を組み込んだ持続可能な資金調達モデルへと移行することが求められます。
米国政府による対外援助凍結と再編の影響は計り知れません。経済ショックは、23の経済圏において国民総所得(GNI)の1%を超え、8つの経済圏で2025年にGNIの3%以上の損失が発生すると見込まれています。社会課題を解決することを目的とした団体や組織を含む「ソーシャルセクター」への影響は、それ以上に深刻でしょう。
「Global Aid Freeze(グローバル・エイド・フリーズ)」のウェブサイトに集約した世界中の数百の企業および市民社会組織のデータによると、セクターを問わず、大多数の組織が今後3か月の存続も困難な状況です。世界の多くの地域で市民社会のエコシステム全体が崩壊し、生活、生計、安定性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
また、多くの企業にも即時に影響が波及。援助プロジェクトには、物理的な資材、専門知識、企業との調整が必要であり、企業はすでに数十億ドル規模の直接的な損失を被っています。この影響はさらに広範なビジネス環境にも重大な結果をもたすでしょう。
市民社会は、企業の運営を可能とする健全な経済的および政治的環境を支えています。法の支配を強化し、開発に不可欠なスキルと知識を生み出し、ビジネス慣行を革新することができるイノベーションを支援しているは、市民社会です。
市民組織は、経済活動における公平な競争環境を確保するためにガバナンスの監視を提供し、レジリエンス強化のための地域社会の関与を拡大し、重要な契約や調達における課題に対する新技術駆動型の解決策を生み出します。市民社会の大規模な崩壊は、国民と企業の両方にとって重大な問題です。
私たちは、国際開発における取り組みの根本的な再編成を目の当たりにしています。こうした動きはもともと進行中であったものの、現米国政府による対外援助の再編成により急速に加速されました。
今こそ、ソーシャルセクターのあり方を再構築する必要があります。企業はソーシャルセクターが代表する社会的、人的、経済的資本を守るために積極的に関与しなければなりません。
援助の空白を埋める
短期的には、企業の関係者は、社会的エコシステムのどの重要な部分がリスクにさらされているかを理解し、デジタル、物理的、知的資産を守る方法を模索する重要な役割を担っています。特に、自社が依存している部分において、その役割は重大です。
鉱業会社であれば、採掘権が与えられたコンセッションの地域におけるコミュニティ組織と連絡を取り、対話を続ける方法を探ってください。
テクノロジー企業は、テクノロジー政策に関する対話や研究に従事する市民社会組織への支援を橋渡しすることができます。
金融機関でしたら、公共財を支援するブレンデッド・ファイナンスの選択肢を広げるために、市民社会との迅速なパートナーシップを創出する革新的な取り組みを行ってください。
企業の意思決定者は、企業による社会的責任(CSR)の取り組みや経済、社会、ガバナンスの優先事項に限らず、市民社会が消失する前に、支えるための支援を行うべきです。この任務はかつてないほど緊急性を帯びています。
援助予算が縮小する中、中長期的に、企業が市民社会、政府、そして多国間機関と協力して開発を変革する役割についても考える必要があります。
広義には、2030年までに年間2.4〜3兆ドル規模の「人々と地球」基金が必要です。これは、企業が、貧困削減、気候レジリエンス、公平性の拡大を支援するための資金調達に応じる機会を提供するものです。
グローバルな市民エコシステムは危機に瀕しており、企業は新たな均衡が生まれるまで、これを支援するための橋渡しをすることができます。
”包摂的な市場構築
この計画には、実績のあるアプローチを取り入れることができます。例えば、小規模企業への民間資本の呼び込みに長年の実績を持つ、マイクロファイナンス投資ファンドを支援すること。また、気候変動などの大きな課題に対応するため、企業を回転基金に組み込むことができる金融信託を活用することも考えられます。
社会的・環境的リターンを生み出す企業を支援することができるインパクト投資ファンドも選択肢の一つ。「ディアスポラ債」などの仕組みを活用し、送金を市民社会の支援に結びつける創造的な取り組みも考えられます。
多国間システムも中心的な役割を果たします。例えば、世界銀行は現在、新たな「Civil Society and Social Innovation Alliance(市民社会および社会的イノベーション・アライアンス)」施設を設立しており、AAA格付けの低リスクなソーシャルボンドを含め、ソーシャルセクターのために機関投資家やインパクトキャピタルを動員することが可能になります。
開発のための資金調達を開放するという点では、成果に基づく契約、結果ベースの資金調達、または貸付金の利息支払いを削減するための債務スワップや買い取りが有望な選択肢だと言えるでしょう。
これらの取り組みは、慈善活動ではなく、企業および包摂的な市場構築のためのものです。アフリカでの消費者支出は2030年までに6.7兆ドルに達する見込みです。ジェンダー平等を進めることにより、世界の国内総生産(GDP)は12兆ドル増加する可能性があります。
腐敗によるコストの測定は、難しいことで知られています。一方、企業が透明性と誠実性の向上に向けて積極的に取り組むことにより、何兆ドルもの資金を経済開発に再配分することにつながります。
これらの取り組みは、市民社会のパートナーなしには実現不可能です。市民社会は、重要な議論の場を提供し、権力者がさらなる責任を担うよう働きかけ、企業だけでは解決できない難題を解決する新しい方法を見つけることができます。
世界の市民社会のエコシステムは危機に瀕しており、新たな均衡が現れるまで、企業はこれを支えるための橋渡しができます。非営利団体や慈善団体の多くが援助資金に過度に依存しすぎるようになったことは間違いありません。一方、このセクターは、失敗するにはあまりにも大きすぎるのです。
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2025年2月5日