「現代の奴隷制」の知られざる現状
世界中で5,000万人以上が現代の奴隷制の被害を受けています。 Image: Flickr/World Economic Forum/Ciaran McCrickard
- 世界中で5,000万人以上が現代の奴隷制の被害を受けており、強制労働により年間2,360億ドルの違法利益が生み出されています。
- より結束したデータ共有戦略とテクノロジーの活用により、人身売買のパターンを検知し、被害者を保護することが可能になります。
- 本寄稿文は『ザ・テレグラフ』誌にも掲載されています。記事はこちら。
強制労働や強制結婚を含む「現代の奴隷制」は、現代社会に最も広く蔓延する危機の一つです。グローバル・スレイバリー・インデックス(Global Slavery Index)の推計によると、これは世界で5,000万人以上の人々に影響を及ぼしており、産業や国境を越えて広がり、制度的な脆弱性を助長しています。
国際労働機関(ILO)によると、強制労働だけで年間2,360億ドルの違法利益が生み出されています。合法的な経済から資源を奪い、公共機関に莫大なコスト負担を強いており、その負担額は警察、医療、被害者支援を含めて被害者1人あたり最大25万ドルに上ります。
同機関による強制労働の廃止に関する条約や国連の持続可能な開発目標(SDGs)ターゲット 8.7などに明記されるように、国際法では強制労働が明確に非難されているにもかかわらず、現代の奴隷制は規模と複雑性を増し続けています。この構造的欠陥は、貧困、移民、脆弱なガバナンス、地政学的紛争、そしてますます深刻化する気候変動といったグローバルな危機によってさらに悪化しています。
気候変動に関連して2021年だけでも2,370万人以上が移住を余儀なくされ、多くの人々が搾取や人身売買に追い込まれました。現代の奴隷制が根絶できないことは、現在の取り組みの限界と、この課題がグローバルな課題と各国の課題の両方において突出していることを示しています。
2017年、国連で「現代の奴隷制を終わらせるための行動要請(Call to Action to End Modern Slavery)」が開始され、90カ国以上が、人権に関するこの最も大きな課題の根絶を求める呼びかけに署名しました。しかし近年、この課題は政治的アジェンダから後退しています。この危機に効果的に対処するには、モメンタムを回復し、この課題の継続につながる政策、産業、慣行を見直す必要があります。
断片化されたデータの壁
「現代の奴隷制と人身売買に関するグローバル委員会(The Global Commission on Modern Slavery and Human Trafficking)」は、現代の奴隷制と人身売買に関する既存の国際協力体制を補完し、拡大することで、この危機への取り組みを加速させることを目指しています。同委員会の主要な柱は、サプライチェーンにおける強制労働、国際的な公約に対する各国による効果的な国内実施、危機的状況における市民社会のより効果的な関与です。
このことは極めて重要です。現代の奴隷制に対処するには、奴隷制を助長するシステムを破壊する包括的かつ部門横断的なアプローチが必須となるためです。その要素の一つは、データの利用方法にあります。現代の奴隷制に関するデータの収集と活用に向けて、責任ある企業同盟(RBA)の監査共有プラットフォーム、英国の団体「ストップ・ザ・トラフィック」の人身売買分析ハブ、人権ビジネス研究所(IHRB)の企業採用方針に関するデータなど、優れた取り組みが存在しますが、不足しています。
また、各国政府も労働者登録や業績評価などの枠組みを開発。しかし、現代の奴隷制は断片化されたデータシステムをまたいで機能しており、法執行機関、NGO、企業、各国政府がそれぞれ孤立して情報を収集している場合が少なくありません。テクノロジー業界団体である「テック・アゲインスト・トラフィッキング」は、このデータを企業、市民社会、パブリックセクターの3つの異なる「ユニバース」に分類しています。
企業にとっては、依然としてコンプライアンスとリスク管理が焦点となっており、搾取が根深く浸透しているサプライチェーンに脆弱性が残されています。異なるセクターや種類のデータにわたるこの断片化は、現代の奴隷制に関連する傾向、ホットスポット、新たなリスクを特定する上で大きな障壁となっています。
また、相互運用性の欠如により、主要なステークホルダーが洞察を共有し、協調的な行動を取ることが妨げられています。したがって、セクター全体に強く求められるのは、より統一、統合されたデータ共有アプローチです。このアプローチを取ることで、的を絞った介入が可能となり、現代の奴隷制と闘う取り組みの有効性を向上させることができます。
データを共有し、全体として分析することで、グローバルな規模でより効果的で情報に基づいた行動を推進する強力なツールとなるでしょう。現代の奴隷制に対処するには、個々のステークホルダーによる孤立した行動を越えた、協調的かつ多面的なアプローチが必要です。
現代の奴隷制が根絶できないことは、現在の取り組みの限界と、この課題がグローバルな課題と各国の課題の両方において突出していることを示しています。
”強制労働廃止に向けた集団的文化の確立
世界経済フォーラム年次総会2025で立ち上げられた「強制労働に対するグローバル・データ・パートナーシップ」は、データのサイロ化を解消し、セクター間の協力を促進することで、この取り組みの推進役となることを目指しています。同パートナーシップは、企業、各国政府、市民社会のリーダーたちを結集し、深刻なデータギャップを埋め、強制労働を助長する構造的な脆弱性を打破するための協調行動を推進することを目的としています。
データ、政策、テクノロジー、企業のアカウンタビリティを整合させることで、このイニシアチブは、現代の奴隷制をグローバルなサプライチェーンにおける優先事項として組み込み、強力な法律、優れたガバナンス、実行可能な洞察によって裏打ちすることを目指します。
こうした集団行動を通じて、業界や地域全体にわたる永続的かつ構造的な変革の創出に重点を置き、強制労働の廃止に取り組む集団的文化を確立していきます。
データがあれば、AI、機械学習、ブロックチェーンなどのツールによって分析が変革され、搾取の隠れたパターンを特定することが可能になります。例えば、AIは膨大な量の多言語の非構造化データを処理し、それ以外の方法では発見できなかったであろう傾向やリスクを特定することができます。
特に従来型の支援リソースが限られている地域では、被害者を支援サービスに慎重に結びつける上で、モバイルアプリやAI駆動型のチャットボットがますます重要になっています。また、ブロックチェーン技術は、デジタルIDを保護し、人身売買業者が身分証明書を没収することを防ぎ、リスクの高い環境下でもサービスへのアクセスを確保することで、被害者を保護します。
これらのテクノロジーは、人身売買ネットワークの崩壊と被害者の保護の両方を支援することができます。データ提携を確立し、こうしたイノベーションを活用することで、人身売買を撲滅し、被害者支援をよりよく行うための新たなツールを創出することができます。これによって、現代の奴隷制を予防と対応の両方の観点から確実に解決することができるようになるでしょう。