二つのグリーンな都市を実現させた、「ネイチャーファースト」なマスタープラン
自然を第一に考えた都市計画のアプローチは、シンガポールの都市(上)のように、インフラに生物多様性を取り入れるのに役立っています。 Image: Getty Images/lena_serditova
- シンガポールとコロンビアのバランキージャの二都市は、企業の協力を得て、インフラに自然を取り入れています。
- シンガポールは国土の半分近くが緑地となっており、都市環境において自然を最優先させる「ネイチャーファースト」なソリューション開発を行う世界的リーダーとなっています。
- コロンビアのバランキージャは、エコツーリズムや経済的機会を通じて地域社会に活力を与える、一連の緑の再生プロジェクトを立ち上げています。
急速に発展する都市において、自然を取り入れるためには、マスタープランの策定が不可欠です。
シンガポールとコロンビアのバランキージャという二つの都市は、気候災害へのレジリエンスの向上、市民の健康促進、そして社会経済的発展への寄与など、インフラに自然を取り入れる利点を示しています。
「ネイチャーソリューション」の先導者、シンガポール
シンガポールは、2021年に「 City in Nature(自然の中の都市)」を発表。この構想は、2030年までにすべての市民にとって、緑豊かで住みやすく、持続可能な都市を実現することを目指しています。これには、自然の保全と再生、コミュニティパークの拡充、緑地の連携強化、動物の健康と福祉基準の向上が含まれており、実現するためには、官民の強力な協力が不可欠です。
現在までに、シンガポールでは7,800ヘクタールの緑地が保全され、政府は今後10~15年の間にさらに1,000ヘクタール追加することを目標としています。また、都市全体の緑地を370キロメートルに及ぶ「パーク・コネクター」がつなげており、都市の緑化における世界的なリーダーとしてのシンガポールの地位を確立しています。
シンガポールの緑地率は48%に達し、大規模かつ連続性のある緑地が生物多様性の促進、ヒートアイランド現象の緩和、雨水の吸収を通じて気候変動へのレジリエンスを高めています。さらに、透水性の高い路面、屋上緑化、バイオスウェール、雨水利用システムなどが市内各地で導入され、公園スペースを補完しています。例えば、ビシャン・アンモキオ・パークは、自然に蛇行する川沿いに設けられた直線的な公園であると共に、洪水制御システムも兼ねており、自然を利用したソリューションと都市インフラとの効果的な融合を示しています。
また、シンガポールでは2020年以降、50万本以上の植樹が行われ、大気質の向上や生態系の再生が進んでいます。「OneMillionTrees(100万本の木)」運動により、街路、公園、庭園、パークコネクター、自然保護区などに植樹を増やし、都市の緑化と生物多様性の向上を図っているのです。
「バイオダイバーシティ(生物多様性都市)」の先駆者、バランキージャ
コロンビアのバランキージャでは、近年の経済成長に伴い、公衆医療機関へのアクセス向上、公共緑地の拡充、高品質なインフラの整備が進められています。
「生物多様性」を意味する「Biodiversity(バイオダイバーシティ)」と「都市」を意味する「city(シティ)」を掛け合わせた、「BiodiverCity(バイオダイバーシティ=生物多様性都市)」というコンセプトのもと、バランキージャではインフラ投資の中心に自然を据えています。その核となるマスタープランが、2017年に開始された「Gran Malecón(グラン・マレコン)」プロジェクトです。このプロジェクトでは、マグダレナ川沿いにコミュニティスペースや緑地を整備し、かつて治安の悪かった地域の再生に貢献しています。
受賞歴のあるこのプログラムは、さらに大規模な緑地プロジェクトへと発展しており、その一例が650ヘクタールのエコパーク「Ciénaga de Mallorquín(シエナガ・デ・マジョルキン公園)」です。この公園は、エコツーリズムと経済的機会を通じて地域社会に活力をもたらすと同時に、緑豊かな未来へと移行する同市の新たな中心的役割を担っています。
また、この河川沿いのプロジェクトおよびマスタープランと並行して「Todos al Parque(みんなの公園)」という取り組みを実施し、スポーツ施設の設置や緑地の導入、緑地を管理・維持する公園管理人の任命を行いました。この取り組みの開始以来、190万平方メートルを超える市内の公共スペースが再生しています。
バランキージャでは、限られた空間に対応し、増える人口を生態学的に価値のある地域の外に誘導することを優先事項とし、土地不足という課題において、経済的ニーズ、インフラ、緑地のバランスを取ることが求められています。密集した都市環境に自然を取り込むためには、革新的な解決策と、地域住民の理解と協力を得て的確な対策を講じることが不可欠です。
民間セクターの協力と革新
シンガポールでは、不動産開発業者をはじめとする企業が、持続可能な慣行と革新的なグリーン・ソリューションを取り入れることにより、人口密度の高い都市景観の形成に貢献してきました。こうした取り組みが、シンガポールの国家ビジョンと、自然に配慮した都市環境を促進するための規制メカニズムを支えているのです。
例えば、シンガポールの不動産会社であるCity Developments Limited(CDL)は、東南アジアで初めて、企業として世界グリーンビルディングカウンシルの基準に沿ったネットゼロ目標を設定しました。同社が設計した「ツリーハウス・コンドミニアム」には、24階建ての垂直緑化壁があり、世界最大規模としてギネス世界記録を保持。また、室内温度を最大3℃低下させる設計を採用しています。
また、シンガポールでは企業に対し、生物多様性影響評価(BIA)の実施を推奨しています。CDLは2010年以降、自然環境に近い未開発地においてBIAを実施し、生態系への影響を最小限に抑えつつ、在来種の再導入を進めてきました。これまでに、99種の在来動物と32種の植物が保護の対象として特定され、地域の生物多様性を支援するためのランドスケープデザインが推進されています。
バランキージャにおいても、企業が地元行政や開発業者と連携し、都市の緑化に重要な役割を果たしています。同市の戦略的ビジョンに沿った投資を進めることで、開発業者は補助金付き住宅の建設に積極的に関与し、時には新たな緑地の設置を行っているのです。
このような好循環により、公園や緑地が市の公園プログラムの枠組み内で整備され、都市の再生が進んでいます。緑化による不動産価値の向上から得られた利益は、さらなる都市開発へと再投資することにより、持続可能な成長モデルを生み出しています。
自然を第一に考える、ネイチャーファーストな都市こそが、未来の都市です。企業のスキルと能力をうまく活用できる都市は、都市運営の青写真に自然を取り入れることができるのです。
本寄稿文は、 Global Commission on Nature-Positive Cities(ネイチャーポジティブな都市に関するグローバル委員会)によるレポート「 Nature Positive: Leaders’ Insights for the Transition in Cities(ネイチャーポジティブ:都市における移行に向けたリーダーの洞察)」の一部です。同レポートは、ネイチャーポジティブな都市開発への移行を支援するため、多様な都市環境に適用可能な戦略や実践的な解決策を提供しています。
「ネイチャーポジティブ・シティ(Nature-Positive Cities)」は、世界経済フォーラムがオリバー・ワイマンの協力を得て推進するイニシアチブです。
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Francisco Betti and Mauricio Zuazua
2025年1月22日