地域の資源と連携を軸にしたエネルギー創出による、レジリエンスの強化

日本の国土面積当たりの太陽光発電容量は、主要国の中で最大級です。 Image: Unsplash/Rei Yamazaki.
- 日本では、地政学的な不確実性と気候変動危機に対応し、エネルギー源の多様化を積極的に進めています。
- この戦略的転換は、エネルギー安全保障を強化するだけでなく、よりレジリエンスのある社会を育みます。
- こうした取り組みは、世界経済フォーラムの「Clean Power, Grids and Electrification(クリーンパワー、グリッド、電化)」イニシアチブの趣旨と一致し、クリーンエネルギーへの移行を加速させます。
安定的かつ安全なエネルギーの供給は、社会が機能する上で不可欠な要素です。地政学的不確実性や気候変動危機がエネルギー供給をより困難にする中、日本では、地域資源を活用し、エネルギー源を多様化することで、よりグリーンなエネルギーへの移行を積極的に進めています。
資源エネルギー庁の資料によると、日本のエネルギー自給率は2010年度の20.2%から2023年度には15.2%へ低下。OECDに加盟する38カ国中2番目に低い割合となっています。この背景には、2011年の東日本大震災による原子力発電所の事故以降、安全性向上のために全国の原子力発電所が運転停止となり、その不足分を火力発電で補っている現状があります。
日本の電源構成における火力発電の割合は、2010年の65.4%から2022年度にはG7の中で最大となる72.8%まで上昇しました。日本では、その燃料となる石油や石炭、LGPなどの化石資源は、ほぼ全てを輸入に頼っています。そのため、電力供給における、地政学リスクや資源価格・為替リスクが高く、国際的な情勢が人々の暮らしや産業に大きな影響を与えます。さらに、電力部門における二酸化炭素排出量の大半は火力発電由来となっており、火力発電への依存による環境への負荷も課題です。
こうしたことから、日本では、国内資源を活用した電力創出を強化し、より安定的かつ安全でグリーンなエネルギー供給に向けた、官民連携による取り組みが進められています。
国内資源によるエネルギー供給の強化
政府は2025年2月、3年ごとに更新される中長期エネルギー政策「第7次エネルギー基本計画」と、その具体策である脱炭素化に向けた国家戦略「GX2040ビジョン」を閣議決定。再生可能エネルギーを将来的な最大の電源とし、原発も活用していく方針を示しました。武藤経済産業大臣は、「今回の基本計画では特定の電源や燃料源に過度に依存しない電源構成を目指す」と述べています。
エネルギー自給率を2030年までに30%まで上げる目標を掲げる資源エネルギー庁もまた、再生可能エネルギーを現在の20%程度から36~38%に増やすことを目指しています。そのための手段の一例として挙げられているのが、太陽光発電や洋上風力発電などの国産再生可能エネルギーの普及拡大です。
日本における太陽光発電は、国土面積当たりの導入容量が主要国で最大級となっています。一方、山地が多く、平地面積が34%に限られているため、今後の成長には、建造物の屋根や壁面などへの設置が可能である、次世代型太陽電池の導入が不可欠となります。
そこで注目されている技術のひとつが、軽く柔軟な形状のペロブスカイト太陽電池です。主要材料であるヨウ素は、日本が世界的生産の30%を占めており、国内で材料を確保できる点も評価されています。資源エネルギー庁では、648億円規模の「次世代型太陽電池の;開発プロジェクト」を通じ、同電池の量産技術の確立、生産体制整備、需要の創出を支援。2030年の社会実装を目指しています。
洋上風力発電の導入拡大に向けた動きも出てきました。2024年3月時点での導入規模はわずか0.15GWであるものの、同庁では、2030年までに5.7GWへと拡大させることを目指しています。その手段として挙げられているのが、領海からEEZへの対象範囲拡大および浮体式洋上風力の導入拡大です。そのための実証実験を行うため、同庁は、地元漁業組合の同意を得て秋田県南部沖および愛知県田原市豊橋市沖を確保。今後、総額1,235億円規模のグリーンイノベーション基金を活用して実証実験を実施する予定です。
企業主導型の取り組みも進んでいます。その一例が、東芝子会社の東芝エネルギーシステムズや中部電力などによる「岩石蓄熱」技術の商用化に向けた動きです。岩石蓄熱は、熱しやすく冷めにくい特徴を持つ岩石を利用し、電力を用いて岩石に「熱エネルギー」を蓄え、蓄えられた熱で水を熱し、タービンを回すことにより発電するシステムです。蓄電池に不可欠なコバルトやニッケルなどのレアメタルが不要であり、半永久的に使え、限られた敷地に設置可能であることなどが利点として挙げられています。
こうした取り組みは、地域ごとの再生エネルギー創出とともに、火力発電の削減による二酸化炭素排出量削減にもつながります。資源エネルギー庁では、エネルギー起源の二酸化炭素排出量を2022年度の9.6億トンから2030年までに6.8億トンへ削減させることを目指し、取り組みを加速させています。
地域との連携
さらに、農林水産省では、地域産業とうまく連携させることにより、エネルギー生産の効率化や地域のレジリエンス、自立につなげることを提唱しています。同省による「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」では、農山漁村への導入イメージとして、林業とバイオマス、漁業と洋上風力発電、畜産業とバイオガス、農業と太陽光発電など、各産業と相性の良い再生エネルギーの連携を提案。地域内における循環型システム強化に加え、環境負荷の緩和、地域へのエネルギー還元、地域と関わりのない業者が引き起こす環境や景観破壊などのトラブル防止にもつながります。さらに、地域間での連携を進めることにより、地域内だけでなく、社会全体で支え合う展望が提示されています。
地域との連携によるエネルギー供給により、レジリエンスのある社会へ
日本では、国内資源を活用し、地域連携を通じたエネルギー供給を目指す動きが進んでいます。これは、世界経済フォーラムの「Clean Power, Grids and Electrification(クリーンパワー、グリッド、電化)」イニシアチブが提唱する、クリーンエネルギー転換の目標達成を加速させることにもつながります。こうした動きが広がることにより、安定的かつ安全なエネルギー供給が確保され、地域経済の発展や二酸化炭素排出量削減が進み、さらに不測の事態に対するレジリエンスのある社会の構築を可能にします。