日本のマーケティング業界は、脱炭素化へ向けて本格始動
マーケティング業界では、これまで脱炭素化への取り組みが遅れていました。 Image: Getty Images/iStockph
- 活気のある持続可能な社会の構築は、業界横断のコラボレーションなしには達成できない共通の目標です。
- マーケティング業界も関係者が協力して推進する必要がありますが、日本ではまだまだ取り組みが十分でないのが現状です。
- 日本のマーケティング業界における脱炭素化の取り組みを推進することを目指し、新たなイニシアチブを発足し、推進します。
マーケティング活動は、他の多くの重要な企業活動と同様に、炭素の排出を伴います。制作、配信、消費に関連するすべてのプロセスにおける、デジタル広告による年間世界炭素排出量は、約6,000万トンとも推定されています。
この問題に取り組むことは、単に炭素排出量を削減することだけにとどまりません。さまざまなステークホルダーを啓発し、資本主義全体の持続可能な発展を推進する手助けにもなります。
欧州などの地域では広告業界においても環境問題への取り組みが進んでいる一方、日本などの国々はまだまだ取り組みが遅れている現実があります。しかしながら、グローバルネットワークの専門知識を活用し、新たなコラボレーションの方法を探ることで、日本を始めとする取り組みが遅れている地域において、この大きなギャップを埋めることが可能です。
日本は他の先進国と比較してもマーケティング産業が高度に発達しています。 日本は、高密度な都市環境でデジタル広告や紙媒体による広告も併存し、また商業イベントも盛んであり、エミッションを大幅に削減できる余地が大いにあります。
脱炭素化プロセスにおける鍵となるのはパートナーシップですが、これまでマーケティング業界全体にわたって脱炭素化を目的とした広範かつ組織的な協力体制はあまり存在しませんでした。しかし、この状況は変わりつつあります。
マーケティング業界における脱炭素化
dentsuが主導する「マーケティング領域の脱炭素化イニシアティブ(Decarbonization Initiative for Marketing)」は、日本のマーケティング業界において脱炭素化を目指す活動です。このイニシアチブは、日本におけるマーケティングコミュニケーション活動に関連するサプライチェーンにおける温室効果ガス(GHG)排出量の可視化と削減を目的として発足しました。
日本では、欧米諸国と比較して広告制作、各種マーケティングプロセス、排出係数、貿易慣習、言語が異なるため、独自にカスタマイズされたアプローチが必要でした。
本イニシアチブの中核をなすのは、業界横断的なコラボレーションです。2023年10月より、広告会社、媒体メディア、イベント会社の関係者に加えて、日本広告業協会、日本イベント産業振興協会、日本アド・コンテンツ制作協会など、合計20以上の団体のリーダーが隔週で集まり、定期的に議論を行いました。
この取り組みの一環として、一般社会団法人AdGreenと連携し、広告やコンテンツ制作の分野において、グローバル標準のエミッションの可視化ツールの開発を促進しています。
加えて、英国で広告業界が気候変動に対処するために設立された組織であるAd Net Zeroと連携を行い、メディア配信、デジタル、イベントの分野において、より洗練された、国際的に認知された業界標準のGHG排出量可視化ツールの開発を支援しています。dentsuは、他社を含めた利害関係者と定期的にレビュー会を実施し、低炭素社会を実現するために業界全体がどうあるべきかを議論しています。
広告業界団体内にワーキンググループを設置し議論を進めることにより、イニシアチブのパートナー間で知見を共有できるようになっただけでなく、業界共通となる基準を定義する動きも出ており、ユニークなコラボレーションが生まれています。
マーケティングは広告会社だけでなく、クライアント、制作会社やイベント会社、メディア、プラットフォームプロバイダーなど、多様なステークホルダーが関わる領域であるため、基準を策定する際には透明性と中立性を担保することが極めて重要です。
業界関係者と協力して炭素の可視化ツールを作成することにより、脱炭素化を明確な目標に掲げる企業の数を徐々に増やしていくことを目指しています。共通の基準を確立することで、脱炭素化のための革新的なソリューションを生み出すために各企業が競い合うことが可能になります。
競争とコラボレーションを織り交ぜて推進
このイニシアチブは、統合、コラボレーション、そして競争に至る一連のプロセスを明確にし、マーケティング企業やその他の企業が、共通の目標に向かって互いに競い合うことを奨励する仕組みです。業界内のコラボレーションによって達成すべきことと、各企業が個々の努力によって付加価値を生み出すために行うべきことを明確にすることで、その実現を目指しています。そして、脱炭素化の実現に向けた取り組みが、競争力の源泉にもなり得ることを示しています。
マーケティング領域の脱炭素化イニシアチブを通じて、3つの重要な教訓を得ました。
1. 「巻き込む力」
企業が自社の利益を目的として活動するのは自明ですが、地球規模での共通の課題に対峙した際に、誰かが「巻き込む力」を発揮し、「つながる努力」をもって「現実解」に向けた仕組み作りにリーダーシップを発揮することが変化を生みだすイニシアチブになる。
2. 着眼大局、着手小局
大局的な目標を念頭に置きながら、まずは自分の分野でできることから始めることが重要です。今回の場合、日本のマーケティング業界は前向きに自分たちでコントロールできることに取り組んでいます。
3. 同志とのコラボレーション
コラボレーションを通じて、気候変動という課題を「困難」としてではなく、長期的な目標を達成するための共通目標と位置付ける、ポジティブ思考のカルチャーを創出することができます。気候変動において大きな変化を起こすためには不可欠な取り組みです。
業界関係者と協力し、炭素可視化のツールを開発し、脱炭素化をさらに推進していくことにより、日本の広告業界は、日本の広告主による気候変動対策への取り組みを徐々に拡大していくことを目指しています。共通基準の確立を目指すdentsuの取り組みである「マーケティング領域の脱炭素化イニシアチブ」は、各企業が脱炭素化のための革新的なソリューションを生み出すために競い合うことを可能とし、最終的には日本およびその他の地域におけるマーケティング活動に起因する気候変動への影響を改善することに大きなインパクトをもたらします。