観光・旅行セクターの持続可能な開発を阻む7つの誤解
観光は2024年におけるグローバルGDPの約10%を占めます。 Image: Getty Images/iStockphoto
Francisco Betti
Head, Global Industries Team; Member of the Executive Committee, World Economic Forum- 旅行・観光セクターは、パンデミック後に拡大しているだけでなく、持続可能な開発に沿った成長も促進しています。
- 旅行や観光が、地理的な隔たりを超えた文化交流を促進し、個人の幸福と福祉を向上させています。
- この業界には本質的な相互関連性があり、ステークホルダーのエコシステムに支えられています。存続のためには、バリューチェーン全体の効果的な協力が不可欠です。
旅行・観光セクターは今、大きな期待が込められた変革の途上にあります。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという難局を乗り越え、回復を越えて今や活況を呈しているのです。一部にはまだ慎重な姿勢や不安もありながらも、最近のニュースやレポートでは楽観的な見通しが強調されており、この活気あるセクターの驚くべき潜在能力が示されています。
世界最大の産業のひとつであり、全雇用数の10%以上を占め、今後数年間で大幅な成長が見込まれている旅行・観光セクターは、「良好な成長」の態勢を整えています。これは、企業だけでなく、地域社会、旅行者、そして環境をも向上させる経済拡大を意味します。このビジョンを実現するには、旅行・観光セクターを全体的に捉え、その潜在能力を最大限に引き出すことが不可欠です。また、多様なエコシステム全体で協力を促進し、いくつかの誤解を解く必要もあるでしょう。
以下は、現在の旅行・観光に関する7つの誤解と、実状です。
1. 新型コロナウイルス感染拡大からの回復が遅い:2024年には140カ国以上で過去の旅行支出記録を上回っており、力強い回復の兆しが見られます。
2. 海外旅行が優勢である:旅行・観光支出の約75%は国内旅行によるもので、地元での観光の強さが浮き彫りになっています。
3. ビジネスパーソンの出張は減少している:グローバルな出張による支出額は、2024年までに約1兆5000億ドルに達すると予想されており、2028年には2兆ドルに達するとの予測もあります。
4. 利益は先進国に限定されている:現在、グローバルな観光客のほぼ半数を占めるのは新興国です。また、観光は世界の80%の国々にとって輸出収入の上位5位に入っています。
5. 大企業がすべての利益を得ている:実際のところ、この業界の企業の80%は中小企業であり、地域の雇用を促進し、地域開発を牽引しています。
6. 雇用が減少している:予測では2034年までに旅行・観光セクターで約1億の雇用が追加される見込みであり、これは現在の約3億5,000万の雇用を上回る数です。
7. 環境への影響が大きい:現在、グローバルな温室効果ガス排出量において旅行・観光セクターが占める割合は約8%。他の多くの業界よりも小さなものであり、その削減は業界の重要な優先事項になっています。
こうした実状は、よくある誤解を解くだけでなく、経済成長、包摂的な繁栄、そして持続可能な発展を推進する観光産業の可能性を示しています。
観光産業のウェルビーイングと相互関連性
旅行と観光は経済に多大な影響を与えます。同セクターが2024年においてグローバルGDPに占める割合は約10%に達し、2034年には11.4%(16兆ドル)に達するとの見込みです。これは、実質成長率3.7%というグローバル経済の成長率の1.5倍にもなります。しかも、その恩恵は単なる数字だけにとどまりません。旅行は文化の交流を促進し、共感を促し、地理的な隔たりを越えた異文化理解を深めます。また、研究によると、旅行は幸福感を高め、老化を遅らせる効果もあり、経済に貢献するとともに個人のウェルビーイングを豊かにするとされています。
ソーシャルメディアからインスピレーションを得て、予約を行い、地元企業と関わるという旅行者の旅は、広大なステークホルダーのネットワークによって支えられています。この相互関連性は、航空会社、ホスピタリティ事業者、地元企業、テクノロジー・プラットフォーム間の協力の重要性を浮き彫りにしています。単独で有意義な変革を推進できるプレイヤーは存在せず、成功にはバリューチェーン全体にわたる強固なパートナーシップが不可欠なのです。
この相互に関連し合う性質は、航空会社やホスピタリティ事業者から地元の中小企業、テクノロジー・プラットフォームに至るまで、さまざまなプレイヤーが相互に依存する関係であることを示しています。さらに、シームレスな旅行体験を可能にし、目的地の価値を高めるインフラ、通信、サービスプロバイダーなどの隣接産業や支援産業にも依存しています。
旅行・観光を良い変化の原動力として再構築するためには、ステークホルダーがホリスティック(全体論的)なアプローチを採用する必要があります。このセクターはすでに成長の触媒としての役割を果たしていますが、サステナブルな影響を生み出すためには、関係者全員が意識を共有することが重要です。これからの道のりは、単なる回復にとどまらず、相互理解と持続可能な開発を促進する強力な結び付きとしての旅行というビジョンを構築することになるでしょう。課題はまだありますが、より包摂的かつ影響力のある業界を育くむチャンスは無限に広がっています。
業界内にあるこうした期待は、行動を促す呼びかけでもあります。旅行・観光業界は、誤解を解消し、広範なエコシステムを活用し、協力を優先することで、現状を経済成長、文化の発展、環境保護を推進する物語へと変えることができます。旅行の明るい未来を見据えながら、世界中の旅行者に忘れられない体験を提供し、地域社会を活性化させるその力を共に称えましょう。