インテリジェント時代における食料と水の安全保障、4つの提言
新興テクノロジー、データソリューション、イノベーションは、食料・水システムの保全と大規模な移行の促進に役立ちます。 Image: Marchmont Communications Creative Commons
Joyeeta Gupta
Professor of Environment and Development in the Global South at the University of Amsterdam and, IHE Delft Institute for Water Education- 新興テクノロジー、データソリューション、イノベーションは、食料・水システムの保全と大規模な移行の促進に役立ちます。
- 食料・水システムの規模が大きくなれば、より良い意思決定と長期的な持続可能性を確保することができ、水が気候変動対策に果たす役割がより重要なものとなるでしょう。
- 「食料と水の安全保障に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」はワン・ウォーター・サミットにおいて、食料と水のさらなる統合と、食料、水、気候の目標を支援するための各国政府によるデータスタックの枠組みの構築を呼びかけました。
食料・水システムに関するよりホリスティック(全体論的)かつ統合されたデータが、持続可能な介入の推進と意思決定の改善に不可欠です。
グローバルな食料需要が増大する現在、気候変動、自然消失、水リスクがもたらす課題には、データ管理における協調的なアプローチが必要なのです。
世界経済フォーラムの「食料と水の安全保障に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」は、2年間にわたってこの課題を調査し、ステークホルダーが十分な情報を得た上で意思決定を行えるよう、データスタックの枠組みを作成しました。
イノベーションと持続可能性のバランス
データスタックとは多様なデータを1つの統合プラットフォームに集約、統合したものであり、AIなどの新しいテクノロジーを活用して推奨事項を提示することができます。
食料と水といったサイロ化された分野で、多岐にわたる事業部門、省庁、業界のステークホルダーが、食料と水に関するより持続可能かつ再生可能な選択ができるようにするためには、データスタックを利用した統合が不可欠です。
しかし、AIなどの新しいテクノロジーは、膨大な量の水やエネルギー、未使用の金属、鉱物を使用しており、循環型で再生可能かつ持続可能な設計がなされていません。そのため、AI自体の環境への影響を最小限に抑えて設計し直す必要があります。
これが達成され、誤報や偽情報のリスクが考慮された場合、AIは効率的で効果的かつ公正な解決策を見出す大きな機会を提供できるでしょう。
「食料と水の安全保障に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」は、AIのリスクを軽減し、その恩恵を活用するための適切なガバナンスの枠組みの策定を呼びかけています。
食料と水の安全保障の拡大
同カウンシルは、意思決定者を支援する生成AIやその他の新興テクノロジーがもたらす機会を認識し、政策立案者から農家、投資家まで、バリューチェーンのさまざまなステークホルダーグループがデータスタックをどのように適用可能かを検討しました。
フランス政府とカザフスタン政府の共催による「ワン・ウォーター・サミット」において、このデータスタックと関連分析が白書『Food and Water Systems in the Intelligent Age(インテリジェント時代における食料・水システム)』として発表される予定です。
リーダーたちが地域や国レベルでの食料および水関連の意思決定を支援するこの枠組みを導入し、規模を拡大するにあたり、同カウンシルは以下の原則を適用することを推奨しています。
- >1. オープンアクセスを可能にし、地域に特化した食料・水データスタックを実現するための効率的なデータインフラを共同で構築する
データスタックは、農家や政策立案者などのエンドユーザーと共同で作成し、地域に合わせた適用可能なものにすべきです。これにより実施におけるオーナーシップがもたらされ、長期にわたる改善に対するコミットメントが保証されます。
また、データスタックは中立かつ信頼性の高いプラットフォームで管理し、誤用や干渉を防ぐガードレールを設置すべきです。独自情報を組み込む場合は、プライバシー、アクセス、収益化に関する一般的なデータ共有プロトコルと枠組みを策定する必要があります。
- >2. 自然市場と革新的な低金利融資を活用して利益を拡大する
データスタックの開発と維持には、さまざまな資金源を利用できます。長期的には、食料と水が気候ファイナンスと自然ファイナンスに結び付くことによって、データスタックを総合的に分析して活用による利益を実証することができます。
気候変動の影響により環境適応型農業が不可欠であるため、影響の大きい国々を支援するには、より多くの低利融資が必要です。
- >3. 多様なステークホルダーによる調整メカニズムを適用する
多様な省庁やステークホルダー間の調整が不可欠です。水際線、許可、契約、利権、その他の境界内に存在する財産権に関するデータを含む食料と水に関するデータをより利用しやすい形で統合し、よりホリスティックなアプローチを可能にする水資源の配分方法を導くためです。
さらに、調整により、食料と水に関する成果を、気候および社会開発目標を含む国家行動計画に確実に盛り込むことが可能になります。
最後に、競争以前の段階において企業や利用者が業界横断的に協力することで、データスタックのより迅速な導入が可能となります。そうすることで、現実のシナリオにおいて持続可能かつネイチャーポジティブなソリューションを実現できるでしょう。
- >4. 将来に備え、イノベーションにおけるレジリエンスと意思決定を改善する
データスタックの開発にあたっては、気候変動が水に与える影響(気温が1度上昇するごとに水の蒸発量が増える)、食品やその他の製品ごとに必要とされる水の量の違い、代替タンパク質など、将来的な食料に関する意思決定を考慮する必要があります。
食料と水の状況は常にイノベーションと適応を繰り返しています。したがって、データスタックの枠組みには新しい循環型かつ再生可能なテクノロジーと新興のソリューションが確実に組み込まれるようにしなければなりません。
気候変動に強い食料・水システム
干ばつをはじめとする気候変動の課題が、ラテンアメリカやカリブ海地域を含む多くの地域に影響を及ぼす中、安全な食料・水システムを構築するためには、マルチステークホルダー・プロセスをさらに拡大する必要があります。そのためには、このデータスタックを他の最先端技術とともに活用し、不可欠な基盤として位置づけるべきです。
食料・水システムの変革には、知識、資金、市場へのアクセスという面で、多大な支援が必要です。
食料と水に関する意思決定において、こうした枠組みを実施するリーダーとしていくつかの地域が台頭しつつあります。インドでは、農家が同様の枠組みを使用して、より気候変動に強い作物の品種を選択しています。また、データスタックを通じて明確化されたニーズを踏まえて、企業が水効率の向上に向けた革新的なソリューションを提供することも可能です。
データスタックは、アフリカ大陸南部を流れインド洋に注ぐリンポポ川流域のような、国境を越えた流域のモニタリング、将来のシナリオのモデル化、水資源保護のための政策立案に役立つ証拠を提供しています。
開発途上国に対する気候変動の甚大な影響を認識し、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で立ち上げられた「損失と損害」基金のような支援メカニズムを通じて、その影響に対処することが極めて重要です。
こうした新たな事例は、食料と水の文脈における意思決定にデータスタックの枠組みを活用できる可能性を示しています。長期的には、今日のリーダーたちと明日の世代が、安定した気候と、それによって得られる安全な食料と水の未来をより良く管理するためのトレーニングにも機会を見出すことができるでしょう。
高品質データの活用
利用可能な高品質データの量を増やすことで、より正確で目的に適ったAIモデルが構築され、意思決定を継続的に導くことができるようになります。
もちろん、そのようなデータがあっても必ずしも行動につながるわけではありません。このことは、化石燃料の段階的廃止がなかなか進まないことを見ても明らかです。また、AIは農場、景観、国家、地域レベルでの意思決定を大幅に改善する可能性を秘めていますが、環境への影響を最小限に抑えつつ、その幅広い利用を可能にするためには、予防原則に従って導入されるべきです。
データ統合を優先し、革新的なソリューションに投資することで、食料と水の安全保障の複雑性を管理すると同時に、将来の気候変動、AI、その他の課題に対するレジリエンスを高めることができます。
この積極的なアプローチは、資源を保護するだけでなく、農業や水管理の取り組みが公平性を保ち、気候変動に直面する将来の世代のために持続可能な開発を支援し続けることができるようにするものです。
本寄稿文は、「食料と水の安全保障に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」が発行するシリーズの第3弾です。