高齢者の安全運転を支える日本の取り組みから、世界が学ベることとは
高齢者ドライバーの安全を促進することは、地域社会の回復力を高めることにつながります。 Image: Unsplash/Nopparuj Lamaikul
- 高齢者ドライバーの数が増加する中、日本では、交通の安全を確保するための取り組みが行われており、世界的な参考例となっています。
- 免許更新時の制度や先進的な車両機能により、ドライバーの安全がさらに強化されています。
- こうした措置は、すべての人の交通安全を向上させるだけでなく、高齢者の移動手段を確保し続けることによって、レジリエンスの高い地域社会を築くことにもつながります。
高齢化は世界的にさまざまな課題をもたらしています。日本では、65歳以上のドライバーを指す、高齢ドライバーの増加による交通安全の確保が課題となっています。警察庁のデータによると、2003年から2023年の間に高齢ドライバーの数は約789万人から1,984万人に増え、20年間で2.5倍に増加しました。
また、内閣府の報告によると、60歳以上を対象に行った外出手段についての調査において、65歳から74歳のグループの6割以上が、移動手段として「自分で運転する自動車」を利用していると回答。75歳から79歳では45.7%、80歳以上では26.4%と、年齢とともに徐々に減少するものの、65歳以上の全ての年齢層において、自動車に頼る高齢者の半数以上が「毎日運転している」と回答しています。また、居住地域ごとに分類すると、町や村など小規模の地域ほど、自動車を運転している人が多いことがわかりました。
ドライバーが高齢になるにつれ、視覚、運動、認知機能の低下により運転技術が下がる傾向があり、交通事故のリスクが上がります。2022年の高齢ドライバーによる交通事故発生件数は4,579件にのぼり、全体の15.2%を占めていました。
一方、特に地方においては、大都市圏より公共交通網が限られることもあり、自動車を運転できなくなることは、個々の移動手段をはじめ、地域内外とのつながりの維持に大きな影響を与え、地域全体のレジリエンスが損なわれかねません。そのため、交通安全を保ちつつ、できる限り高齢者の安全運転を確保することが喫緊の課題となっています。将来に向けて、自動運転車などの導入試験が始まる中、政府と企業は、高齢者に安全で自立したモビリティを提供するための現時点における解決策に注力しています。
制度面から高齢ドライバーの安全を支援
日本では、運転できる年齢の上限は設定されていません。一方、70歳以上のドライバーは、道路交通法により運転免許の更新時に高齢者講習の受講が義務付けられており、安全な運転について再確認する機会となっています。
加えて、70歳以上のドライバーは、「もみじマーク」と呼ばれる標識を車に付けることが推奨されています。これは、高齢者が運転している自動車であることを示すことにより、周囲の注意を促すものです。これらの制度を通じて、高齢ドライバー自身の意識を高めることに加え、周囲も一体となって道路上の安全を確保することを目指しています。
さらに、75歳以上になると、高齢者講習に認知機能検査と運転技能検査が加わり、認知機能検査において認知症が疑われる場合は、専門医による診断が必要となり、認知症と診断されると、免許の更新ができなくなります。同様に、免許更新期間中に運転技能検査に合格できなければ、普通自動車の免許が取り消しとなります。
自動車の機能向上による安全性促進
警察庁によると、2023年に起きたブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故のうち、6割は75歳以上の高齢ドライバーによるものでした。そのため、ペダルの踏み間違いなどの操作ミスによる事故を防ぐための技術開発・導入が積極的に行われています。
官民が連携して推奨する、自動ブレーキなどの運転支援機能を搭載した車「サポートカー」も、そうした対策の一環として導入されている取り組みのひとつです。
サポートカーには主に2種類あります。一つは「衝突被害軽減ブレーキ」を搭載した車。ホンダが最初に開発した技術である衝突被害軽減ブレーキは、車に搭載されたミリ波レーダーにより先行車や歩行者を検知し、衝突する恐れがある際に音などで警告。さらに近づいた場合は、自動的にブレーキをかけることにより、衝突を回避または軽減します。日本では、2021年11月より国産の新型車に装備が義務付けられています。
もう一つは、自動車部品メーカーのデンソーとトヨタが開発した「ペダル踏み間違い加速制御(ACPE)」搭載の車です。センサーにより周囲をモニターし、至近距離に障害物がある状況でアクセルを踏み込んだときに、加速を制御するシステムです。日本では、現在、新車の9割にペダル踏み間違い加速制御(ACPE)が搭載されていおり、11月には、UNECE自動車規制調和世界フォーラム(WP.29)にて、ACPEが国際基準として採択されました。
政府は、運転技術に不安を感じる高齢ドライバーが、サポートカーに限り運転できるよう、2022年5月からサポートカー限定免許の発行を開始しています。これにより、完全に自動車の運転を諦めるのではなく、本人と周囲の安全性を保ちながら、個人のモビリティを確保することにつながります。
高齢ドライバーの安全性確保によりレジリエンスの高い地域社会を構築
車の運転は自立を維持する移動手段であり、特に高齢化が進む地方のコミュニティでは、地域内外とのつながりを維持するための交通手段として、依然として重要であるのが現状です。世界経済フォーラムの「長寿経済の原則:財政的に強靭な未来のための基盤(Longevity Economy: Financial Resilience for Every Generation)」では、社会とのつながりと目的を育むシステムと環境の設計が長寿経済の原則のひとつとして提唱されています。安全が確保できる範囲内において、高齢のドライバーが運転を続けられるシステム作りは、この原則に合致していると言えるでしょう。
65歳以上の人口が29.3%を占め、世界で最も高齢化した国である日本は、高齢ドライバーの交通安全を確保するための効果的な政策と革新的な技術の開発を通じて、レジリエンスの高い社会の構築をリードすることができるのです。