市民社会

レジリエンスの高い社会の構築は、食卓から

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ある調査によると、10代と20代の8割以上が週に4回以上一人で夕食を食べています。 Image: Unsplash

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 日本では、一人で食事をすることがコミュニケーションの低下や精神的な健康に影響をもたらす可能性があるとの調査結果があります。
  • 人間関係を強化することは、社会的レジリエンスを高める重要な方法の一つです。
  • 政府および企業は、社会的なつながりを強化するため、全国各地で共食する機会を増やす取り組みを実施しています。

気候リスクや政治不安が世界的に高まる中、レジリエンスの高い社会の構築はこれまで以上に重要になっています。地域における人と人とのつながりも、その鍵のひとつです。一方、食事をはじめとした生活のさまざまな側面において、誰かと時間を共にするよりも、一人で過ごすことを好む傾向が強まっています。

厚生労働省が行った、2023年度の国民健康・栄養調査では、20歳以上の男女において、過去1年の間に「職場と学校を除く地域で誰かと食事をする『共食』の機会があった」と答えたのはわずか19.0%でした。10代から20代を対象に行った別の調査では、84.5%が「週に4日以上夕食を一人で食べている」と回答。15~79歳を対象とした電通の調査においても、「おいしいものは一人ではなく、誰かと一緒に食べたい」が過去3年の間に減少しました。

一方、農林水産省の調査では、一人で食事を食べることについての回答において、最も高かったのは、「一人で食べたくないが、食事の時間や場所が合わないため、仕方ない」(35.5%)と「一人で食べたくないが、一緒に食べる人がいないため、仕方ない」(31.1%)誰かと一緒に食事を取りたいものの、状況によりできない人が一定数いることが明らかになっています。

一人で食事をする頻度が高い人は、その頻度が低い人と比べて、主食・主菜・副菜を揃えて食べることが少なく、食事のバランスが崩れている傾向があると報告されています。また、別の調査は、一人で食べる機会が多くなると、コミュニケーションが減り、精神的な影響が出る一方、誰かと食事を共にすることにより、「ネガティブな気分が軽減された」との報告もあります。こうした背景から、日本では、健康とコミュニケーション、さらには人のつながりの強化を視野に入れた共食を促進する取り組みが行われています。

共食の機会を増やすための目標数値を設置

厚生労働省は、健康づくり計画「健康日本21(第三次)」において、2032年までに、地域において共食する人の割合を現在の19.0%から30%に引き上げるという目標を掲げました。同省の担当者は「人とのつながりは健康に資する。新型コロナの影響や生活の多様化で共食の困難さは増したが、効果的な対策を取りたい」と語っています

全国各地の自治体においても、共食を推進する啓蒙活動を行っています。例えば、大阪市では、「一緒に食べよう」と題したWebページを設置し、共食のメリットや共食を増やすためのヒントを提示。昼食及び夕食を一人で食べる市民の減少を目指し、2022年比での目標数値を設置しました。

地域で誰かと食事をする機会を作る

共食の機会を増やすことを目的とした、企業によるサービスも増えてきました。ライフデザインカンパニーである株式会社はぐくむは、知らない人同士が食事を共にするコミュニティディナーを毎月2回開催。定員15人に対してファシリテーターが一人つくことにより、初対面でもコミュニケーションが弾む仕組みです。同社の小寺毅社長は、「いつもの生活圏では会わない人たち」が食事を囲んで一緒に過ごすことにより、人とのつながりを深めるとともに、視野を広げるきっかけにもなる、と語っています。

さらに、テック企業のニジュウニ株式会社は、利用者主導型で手軽に「食事でつながる」イベントの開催・参加ができるアプリ、shokujiをローンチ。イベント集客ツールとフードオーダーシステムを組み合わせることにより、気軽に地域社会で共食できる機会を設け、孤独感の解消やコミュニケーションの改善に貢献することを目指しています。

政府と企業により、共同での食事の機会を増やし、社会的絆を強化する取り組みが行われています。 Image: Unsplash/J Torres

共食によりビジネスのつながりを強化

共食は、ビジネスにおいてもメリットをもたらします。社員食堂を充実させることにより、従業員同士のコミュニケーション促進を計る取り組みは、大企業を中心に以前から存在している一方、そのための資金や設備がない企業においても、外部のサービスを取り入れることにより、共食の機会を提供するケースが増加しています。

例えば、「フードコミュニケーションンパニー」である株式会社ノンピは、食事のケータリングに加え、コミュニケーションが生まれやすい空間のデザインも含めたサービスを、株式会社ピーシーデポコーポレーションや乾汽船株式会社など、複数の企業に提供しています。

こうした社員への食事サービスの提供に伴い、政府による食事補助額の上限枠を緩和するよう有志による要望書が提出されました。日本では、企業が非課税で従業員に提供できる食事補助の上限額が、1984年に設定されたまま変更されていません。物価の上昇が続く中、上限額が緩和されることにより、要望書において目的の一つとして挙げられた、共食を通じた「大人の食育」の推進に貢献することが期待されています。

社会のレジリエンスを高める共食

世界保健機構(WHO)によると「社会的なつながりは、社会、経済、地域社会、そして家族がうまく機能するための基盤」です。世界経済フォーラムのレジリエンスコンソーシアム(Resilience Consortium)が定義する、「逆境に対処し、ショックに耐え、混乱や危機が長期的に発生した場合に継続的に適応し、加速する能力」であるレジエンスの構築には、こうした社会的基盤が不可欠です。

日本における、共食を増やすための取り組みは、シンプルながらも社会におけるつながりを強化し、より強靭な社会に貢献することを示すことができるでしょう。

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共食の機会を増やすための目標数値を設置地域で誰かと食事をする機会を作る共食によりビジネスのつながりを強化社会のレジリエンスを高める共食

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