レジリエンス、平和、安全保障

誰かの「必要」にすぐ寄り添う。ウクライナ避難民向けのサーキュラー木造仮設住宅

国内でも物価高が続く今、不動産も漏れなく価格が上昇しているようだ。

国内でも物価高が続く今、不動産も漏れなく価格が上昇しているようだ。 Image: VLOT architecten, ©Anna Odulinska

IDEAS FOR GOOD

国内でも物価高が続く今、不動産も漏れなく価格が上昇しているようだ。2024年6月時点で一人暮らし用の賃貸物件(LIFULL掲載物件のみを対象)の平均賃料は首都圏で7万9,058円、東京23区では10万3,268円と、長期的に増加傾向にある

同様に、住宅価格の高騰が深刻化しているのが欧州であり、中でもオランダでの状況は深刻だという。英メディアThe Guardianによると、同国ではシェアハウスでも一人あたり約15万6,400円、シングルベッドの一人暮らしでも約24万7,270円だという。同国の平均月給は約47万円と、日本の31万8300円より高いものの、一人暮らしで給料の半分が家賃支払いになってしまう状況だ。

そんな状況下において、移民労働者や家庭内暴力から逃れた人、避難民、在留資格保持者など、早急に居住地を必要とする人々はさらに苦境に立たされている。こうした現状を鑑みて、オランダ・ハーレムではウクライナ避難民向けの仮設住宅が2023年に建設された。215名が5年間暮らすことができる。

ただし、ただのプレハブ施設ではない。これは資源の再利用を前提とした循環型建築のプロジェクトでもあるのだ。

Image: VLOT architecten, ©Anna Odulinska

この施設は、アパート型の住宅棟と、居住者が共有する棟の大きく2つに分かれる。住宅棟は全部で3棟、合計86部屋を擁し、多くの部屋が24平方メートル、ファミリー向けは48平方メートルの広さだ。天井、壁、床にはどれも軽量の木造フレームを使用しているため、コンクリートの杭基礎が不要だという。さらに、すべて取り外し可能、つまり建材の再利用が可能だ。

共有棟は「Circular Living Room」と呼ばれる。通常、建物のデザインを考案する際には、理想のデザインに対して適切な素材を選ぶ。しかしこのプロジェクトでは逆のアプローチが取られた。住宅デザインを作成するよりも先に、使用できる再利用素材を確認し、その素材をもとにデザインを考えたのだ。結果として建材の80%に再利用素材が使用された。例えば、学校の廃材だった木材はCLT(直交集成板)というパネルに加工され、体育館の鉄骨も再利用されたという。

内装や家具も、地域のセカンドハンドショップから調達された。住宅全体がモジュール式になっており、用途に応じて部屋のスタイルを変化させることができる。また接着剤を使用せずに組み立てられているため、5年後には簡単に解体でき、仮設住宅が必要となればすぐに組み立てが可能だ。

Image: VLOT architecten, ©Anna Odulinska
Image: VLOT architecten, ©Anna Odulinska

住宅3棟は互いに向き合うように建っており、その間に位置する共有棟の目前に緑地が広がっている。ここは子どもたちの遊び場であり、野菜を育てるガーデンボックスが設置された住民同士の交流スペースでもある。外部から見ると、このスペースはセミクローズドな形状をしており、適度な私的空間と外部とのつながりのバランスが取られている。

この施設は、アムステルダムの建築家グループ・VLOT architectenが手掛けた。同社は本取り組み以前から、住宅危機を受けてオランダ政府が立ち上げた「住宅品質計画:FLEXwonen」に参画し、緊急で住宅を要する人に向けて短期滞在用の移動可能な住宅を提供してきた。ハーレムでの事例も同様のコンセプトで工業地帯に建設されたため、その知見が活用されることとなった。

安全な住まいを緊急で要する人々が、住宅危機の中で抱える心的負荷は計り知れない。そうした人々に届ける住宅こそ、人々の支え合いを可能にするような場所であるべきではないだろうか。

そして、その必要性はいつ誰に訪れるか分からない。再利用可能なモジュール式ならば、環境負荷を抑えながらそうした社会変化に対応できるだろう。いつか自分もその立場になるかもしれない──そんな想像からこそ、変化に強いしなやかな社会が築かれていくはずだ。

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