ロンドンなどの都市による、効果的な電動キックボードの規制とは
マイクロモビリティのシェアリング事業には、より慎重でバランスの取れた規制が必要です。 Image: Unsplash/Diana Light
- 世界中の都市において、短距離移動のための電動キックボードや電動自転車をコミュニティに提供する、マイクロモビリティのシェアリング事業が試行されています。
- 電動キックボードや電動自転車の事業を成功させるには、市民の保護と事業者の誘致の間で適切なバランスを取る必要があります。
- 鍵となるのは、どのような規制が市民を保護し、同時に、市場の魅力を維持して利用可能なサービスを確保できるかを検証することです。
ロンドンは、電動キックボードのシェアリングサービスの成長市場として注目されています。自動車より小さく、短距離移動に適する小型の乗り物を指す「マイクロモビリティ」のシェアリング事業を検討している都市にとって、事業者向けの成功市場と都市住民の安全な環境を作り出すためには、適切な規制のバランスが極めて重要です。
2023年7月にロンドン交通局(TfL)との契約を獲得した3つの電動キックボード事業者のうち、Dott(ドット)社はすでに撤退しており、スウェーデンのVoi(ヴォイ)社の撤退もそう遠くないかもしれません。ヴォイのフレドリック・ヒェルム最高経営責任者(CEO)は、2024年6月にサディク・カーン・ロンドン市長に宛てた書簡の中で、同市はヨーロッパで最も業績の悪い電動キックボード市場だと述べています。電動キックボードの 「厳しく規制された試験」期間によって、正式な契約を結んでいる事業者は、規制のない事業者との競争に苦戦していると述べました。「マイクロモビリティは、自動車への依存を減らし、持続可能かつ利用しやすい交通手段を増やすために極めて重要」だとヒェルムは述べています。
実際、電動キックボードは人々と公共交通機関をつなぎ、短時間のタクシー乗車に取って代わる持続可能な方法を提供します。一方、過剰な規制は、この都市交通手段の存続を脅かす可能性があります。こうしたことから、欧州の多くの都市において、事業者がマイクロモビリティのシェアリング事業を促進するための規制改善を求めています。規制当局が厳格な規則を強制すれば、シェア型マイクロモビリティの取り組みを最も必要としている、人口集中地域での成長が阻害される可能性があるからです。
スウェーデンのストックホルム市では最近、Bolt(ボルト)社が、過去の利用実績などに基づいて、一部の電動キックボード事業者により多くの車両枠を与えるという決定について、競争当局に苦情を申し立て、ロンドンと同様の反発が起きました。例えば、新興の電動キックボード事業者であるRyde Technology(ライド・テクノロジー)社は、3,500台の契約を申請した後、わずか200台の契約しか提示されませんでした。同時に、大手事業者2社には、4,500台分が与えられたのです。つまり、新規参入の事業者は、ユーザーを惹きつけるためにサービスを実質無料にする必要があり、同時に、将来的により多くの電動キックボード枠を得るために、少なくない運営投資を行う必要があるということです。
このような政策は、事業者にとっての電動キックボード市場の魅力を減少させる可能性がある一方、電動キックボード自体の規制は良策だと言えるでしょう。例えば、多くのユーザーは、適切な駐車方法や安全な乗り方を知らない、もしくは実践したがらないかもしれません。こうした事態に対応するため、当局および事業者は、駐車違反切符の発行や、安全性を確保するために、一定の車両基準を満たすことを事業者に義務付けるなどの手段を導入することが可能です。
一方、規制が厳しすぎる場合、電動キックボード事業者がこうした市場への参入に消極的になるリスクもあります。その結果、ユーザーにとって競争力のあるサービスが低下する、もしくはマイクロモビリティの選択肢が無くなる可能性が出てくるのです。各都市は、シェアリング型のマイクロモビリティを成功させるために、規制のバランスを取る努力をしなければなりません。
バランスの取れた電動キックボードの規制
モビリティに関するコンサルタントであるMovability(モヴァビリティ)による2024年の報告書は、都市が電動キックボード事業者を誘致するために規制を緩和すると共に、規制によってユーザーや他の道路利用者を確実に保護するための6つの方法を挙げています。
1 必要な場所にのみ車両制限を設ける
2015年以降、ノルウェーのベルゲン市は混雑解消のため、特定の地域で車両制限を実施しています。交通量の少ない市外エリアでは、電動キックボード事業者は採算が限られるにもかかわらず、カバー率において自由に競争することができます。その結果、サービスが向上し、駐車場の問題も少なくなりました。
ベルゲンでの成功を受けて、この規制はノルウェーの首都オスロを含む他の都市においても提案されています。オスロでは以前、駐車台数に上限を設けていましたが、上限を完全に撤廃するのではなく、郊外の地域で上限を引き上げることを議員が提案しています。
しかし、このような上限規制を設けるのは、自動車の混雑が問題となっている地域に制限するべきです。そうしなければ、規制当局は不必要な解決策を押し付けることになり、ビジネスの妨げになりかねません。
2 デジタルによる過剰規制を避ける
デジタルバリアは「ジオフェンシング」としても知られ、GPSなどの位置情報を利用して特定のエリアに仮想のフェンスを設けることにより、電動キックボードユーザーが乗車および駐車できる場所を示すことができます。例えば、ユーザーが特定のエリアにキックボードを駐車できないようにする、もしくは速度低下ゾーンを指定することができるのです。
しかし、この技術は不正確である可能性があるため、各都市はデジタル規制には慎重になるべきです。例えば、狭い地域にジオフェンスゾーンが密集し、不必要な規制が多すぎると、マイクロモビリティサービスが魅力的でなくなる可能性があるからです。駐車禁止ゾーンを設けるよりも、駐車場や優れた自転車インフラを整備する方が、はるかに良い効果をもたらすでしょう。
3 駐車場の確保
都市が電動キックボードの駐車を義務付けている場合、ユーザーは走行終了時に駐車場に停めなければなりません。
2022年、電動キックボード事業者6社は、「密集市街地」における適切な駐車場のカバー率は、1平方キロメートルあたり40台分であり、電動キックボード1台につき最低3台分が利用可能な状態であることに合意しました。
4 駐車違反切符を発行する
駐車違反切符は、何十年もの間、多くの都市で自動車の責任ある駐車を促してきたように、電動キックボードにおいても同様に役立つでしょう。責任ある乗車マナーを促すために他の技術を要することもなく、より良い駐車につなげることができるのです。
一方、ノルウェーの首都オスロでは、駐車を義務付けない、もしくは自由に駐車できる政策をとっています。そうすることにより、ユーザーは適切な場所であればどこにでも駐車でき、電動キックボードを指定の場所に駐車する必要はないものの、あからさまな違反駐車には罰金が課せられます
5 入札とコンプライアンスプロセスを簡素する
多くの規制当局が電動キックボード事業者にマイクロモビリティに関する契約を発注する際に採用している入札制度の弱点は、事業者が駐車技術や安全技術について書類上でうまく説明することができれば、そこに示された約束を果たせなかったとしても、採用されやすいという点です。また、事業者が競争を恐れて、自社のサービスの欠点を認めず、ユーザーエクスペリエンスに影響を与えるリスクもあります。
入札プロセスを簡素化し、不必要な規制の複雑さを軽減することにより、事業者の財政的・管理的障壁が低くなります。これにより、より多くの事業者が都市にサービスを提供するようになり、競争と利用可能性が高まり、利用者の料金が下がる可能性があります。
6 規制手数料を制限する
一部の都市では、事業者に規制手数料を課しています。こうした手数料を設ける目的は、費用をまかなう、あるいはインフラ投資のための収入を得ることです。
しかし、これらの料金が高すぎる場合、利用コストの増加やサービスの低下につながり、利用しやすさが制限され、利用しにくくなる可能性があります。これは、排出量削減と交通手段の選択肢を増やすという都市の目標にとって逆効果となってしまいます。
電子キックボード規制の現実
成長する電動キックボード市場において、各都市は規制に関する同じ間違いを繰り返す必要はありません。シェア型マイクロモビリティに関する不必要な規制を撤廃すれば、利用を増やすことができます。
欧州の各都市が、交通排出量の削減を含む、シェア型マイクロモビリティの利点に投資することを真剣に考えているのであれば、規制当局は、その規制が電動キックボード事業者とそのユーザーのために機能するよう工夫する必要があるのです。