森林が水の未来を守る〜地球環境に優しい持続可能なアプローチ〜
森林の劣化が日本の地下水位に影響を与えています。 Image: Unsplash/David Edelstein
- 日本には安定した水源があるにもかかわらず、過去には工業用水の採取、さらに森林の劣化及び気候変動といった近年の脅威が地下水位に影響を与えています。
- 健全な森林は地下水の補給に不可欠です。森林は土壌の質を維持して雨水の吸収を促進し、洪水と地滑りを防ぎます。
- 日本における効果的な地下水保全は、官民及び地域社会の強固なパートナーシップが重要な役割を果たし、成功に導いています。
飲料水や灌漑用水などに使用されている地下水。現在、世界各地において、地下水が急速に枯渇しつつあると新たな研究が警告しています。
世界40カ国、17万カ所の井戸の地下水位を調査したこの研究によると、2000年から2022年にかけて、1,693の帯水層の71%において地下水位が低下し、そのペースも加速。国連食糧農業機関(FAO)は、2025年までに18億人が「絶対的な水不足」に直面する可能性が高いと予想しています。
世界的に見ても、日本は水質及び水量ともに安定供給が可能な国のひとつです。その一方、第二次世界大戦後の高度経済成長期には、産業による地下水の採取量が増大し、地盤沈下および塩水化が問題となりました。また、近年では、気候変動に加え、森林資源の荒廃化による地下水位への影響も報告されています。
地下水の保全は地域住民の生活及び産業の発展に多大な影響をおぼすだけでなく、長期的かつ広域にわたる取り組みが必要とされるため、官民及び地域コミュニティによる協力が不可欠です。
地下水の採取規制の導入
第二次世界大戦後に経済成長を遂げた日本は、その過程において、産業による地下水の採取量が増大。その結果、産業が急速に発展した地域において、地盤沈下及び塩水化が大きな問題となりました。
こうした経験から、政府は、地下水を汲むための井戸の設置に都道府県の許可を義務付ける工業用水法を1956年に制定。
同様に、1962年に建築物用地下水の採取の規制に関する法律を導入しています。これらの法律により、取水制限及びモニタリングを強化し、地下水保全による健全な経済発展と地域住民の安全確保を推進してきました。
水源保全の取り組みは採取制限から森林保全へ
地下水の過剰な使用は法律で制限された一方、近年では、気候変動に加え、森林の荒廃化による地下水源への影響が報告されています。
森林の荒廃は一見、地下水の保全と関係のないように思えるかもしれません。しかし、健全な森林は雨水が染み込みやすい土壌作りに不可欠であり、地下水の確保、洪水及び地滑りの防止、きれいな地下水の濾過などに重要な役割を果たしているのです。
国土交通省によると、日本の国土の66%が森林であり、その面積は半世紀間変化していません。一方、かつては手入れされていた森林及び人工林が放置されたこと、また、これまで人が入らなかった森林に人が入るようになったことで森林が荒廃してきてきました。
こうした新たな地下水源への脅威に対して、官民及び地域が一体となった取り組みが全国各地で進んでいます。
官民の協力による、健全な水源の保全対策
その筆頭と言えるのが、飲料を製造販売するサントリーホールディングスによる「天然水の森」活動です。地下水がビジネスの生命線となるサントリーでは、2003年から、自社工場の周辺エリアを「天然水の森」として、地域住民及びさまざまな分野の専門家と協力し、森林と生物多様性を保全・再生する活動を開始しました。
専門家による徹底的な調査を行い、長いところでは100年間にわたる取り組みの契約を締結。それぞれの森に適した保全・再生計画を策定し、森林のある自治体及び地域コミュニティと共に実行しています。
さらに、社内に水科学研究所を設立し、社員及び地域住民への教育活動も実施。天然水の森は、2024年8月までに16都府県26カ所、12,000ヘクタールをカバーし、同社で使用する地下水の2倍の水を育む森林を保全・再生しています。
官民と地域が一体となった、地下水保全のための森林整備活動は、他の企業及び地域にも広がりを見せています。最近では、2024年8月に日本コカ・コーラが静岡県御前崎市および掛川市と連携協定を締結。3か年計画をベースに、2025年春から協力して水資源保全をスタートせる予定です。
同時に、自治体主導型の取り組みも各地で行われています。その一例が、約25,000ha の森林を水道水源林として管理する東京都水道局の取り組みです。東京都への給水に使う水源を育む人工林の手入れに加え、所有者が手放す意向の民間林を購入し、育成・管理しています。
さらに、こうした水源林の一部にネーミングライツを設定し、協定エリアとして企業が3年間森林保全作業を実施できるようにすることに加え、企業協賛金制度を設けて保全育成に活用するなど、民間との協力も推進。2023年4月には、12社の協定企業と14社の年間協賛企業を獲得しています。
水資源保全と二酸化炭素削減を可能にする森林管理
世界経済フォーラムは、気候変動が進む中、十分な水の確保を世界的な喫緊の課題のひとつとしています。また、同フォーラムのオープンイノベーションプラットフォームであるUpLinkとEuropean Water Tech Accelerator(欧州水技術アクセラレーター)は、水資源への投資を促進するなど、取り組みを進めています。
森林を健全に保つための管理は、地下水の保全だけでなく、洪水などの災害防止と雨水の濾過にも効果があります。さらには生物多様性と二酸化炭素吸収量の回復など、幅広い利益につながるのです。
十分な水の確保に向けて、官民及び地域コミュニティが協力し、こうした包括的な取り組みが今後さらに重要になっていくでしょう。