子どもの肥満がもたらす危機への対策とは
小児期の肥満は、身体および精神の健康に様々な悪影響をもたらします。 Image: Unsplash/Nappy
Shyam Bishen
Head, Centre for Health and Healthcare; Member of the Executive Committee, World Economic Forum- 世界的に見ると、小児および青少年の5分の1が過体重または肥満の状態にあります。
- 肥満とは、多くの要因が複雑に絡み合った慢性疾患であり、身体および精神の健康に様々な悪影響をもたらす可能性があります。
- 子どもの肥満への対応は、差し迫った公衆衛生上の優先事項であり、多面的な対応が必要とされる中、世界経済フォーラムの「栄養のニューフロンティア」イニシアチブがその一例となっています。
現在、ほとんどの人が住む国々において、低体重よりも過体重や肥満が大きな課題となっています。世界中で10億人以上の人々が肥満と推定されており、そのうち1億5,900万人は子どもや若者です。
子どもの肥満率の上昇は憂慮すべき事態です。世界肥満連合(WOF)の統計によると、肥満児は、1975年には100人に1人未満でしたが、現在は100人に10人近くにまで増加しています。さらに、小児および青少年の肥満と過体重の合計有病率を見ると、1975年には4%だったのが、現在は20%となっています。
小児期の病的な体重は、身体および精神の健康に様々な悪影響をもたらし、生涯にわたってその影響が続く可能性が高いことが分かっています。対策が講じられない限り、肥満や過体重はますます一般的になるでしょう。そのため、子どもの肥満は、現在私たちが直面している最も重要な公衆衛生課題の一つとして認識されています。
不均等な状況
病的な体重は世界中で均一に広がっているわけではありません。様々な要因が複雑に絡み合っているために、特定のグループに特に大きな影響を与えています。
例えば米国では、子どもや若者の約5分の1が肥満です。これを年齢別に細分化すると、2歳から5歳児の12.7%が肥満であるのに対し、12歳から19歳では22.2%となっています。
また、米国では、ヒスパニック系の子ども(26.2%)や非ヒスパニック系の黒人の子ども(24.8%)の間で肥満がより多く見られます。一方、非ヒスパニック系の白人やアジア人の子どもの肥満率はそれぞれ16.6%と9%です。
世帯収入レベルも肥満度に強く影響を与える要因であり、貧困層の家庭において肥満がより多く見られます。例えば、英国イングランドの全国データによると、深刻な肥満を抱える10歳および11歳の子供たちの割合は、貧困率の最も高い地域に住む子どもたち(9.4%)が貧困率の最も低い地域に住む子供たち(2.1%)の4倍以上であることが分かっています。
また、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の間、子どもの体重問題が悪化。いまだ、以前の水準まで戻っていないとデータが示しています。過体重の子どもたちのほとんどは過体重の大人になるため、各国にとって経済的・社会的に大きな影響をもたらすリスクがあります。
肥満の原因
一見すると、体重の問題は単純に見えます。つまり、肥満とは食べ物からの余分なエネルギーが、脂肪として体に蓄積されることで起こるものだからです。しかし、実際には、肥満は多くの要因が複雑に絡み合って引き起こされる、複雑な慢性疾患です。
特に、裕福な国々では、多くの人々が「肥満を招く」環境で生活しており、運動不足や座っていることの多い状況、脂肪分や油分、でんぷん質、糖分の多い食品の過剰摂取が助長されています。
また、遺伝的疾患および投薬が、一部の人々において病的な体重を引き起こす、もしくはその傾向を強めることがあります。心理的要因も体重に影響を与えることがあり、また社会的な疎外も重要な役割を果たします。
健康への影響
子どもの肥満は、数多くの身体的および精神的な健康問題を引き起こし、長期的な影響を及ぼす可能性があります。
その中には、糖尿病のような代謝障害、高血圧やコレステロールのような心血管障害、喘息のような呼吸器障害などがあります。余分な体重が関節や筋肉の骨格の問題を引き起こし、運動能力や身体活動能力に影響を与える可能性もあります。
また、肥満により子宮体がん、乳がん、結腸がんなどの特定のがんのリスクが増大。スウェーデンの科学者による研究では、小児肥満は若年性多発性硬化症のリスクを高める可能性があることも示唆されています。
世界保健機関(WHO)は、過体重や肥満が原因で毎年少なくとも260万人が死亡していると推定。深刻な肥満が持続する子どもは平均余命が半減する可能性があるという研究結果もあります。
また、体重には大きな偏見が伴い、肥満の人は生活習慣や頭の良し悪し、衛生状態などに関する否定的なコメントを受けることがあるのが現状です。
このような偏見に対する恐れから、治療や予防のための支援を求めることをためらう人もいるかもしれません。また、肥満は過食や自発的な食事制限、摂食不安などの摂食障害とも関連しています。
肥満に対する偏見や恐れはストレスやうつ病につながり、人々を社会的に孤立させかねません。登校できなくなったり、求職や継続勤務が難しくなることもあります。
私たちができること
子どもの肥満の原因は複雑であるため、単に食事量を減らし、運動量を増やすよう促すだけの取り組みは十分ではありません。家族、学校、地域社会、政策立案者が協力して、多面的な対応策を講じる必要があるのです。
まずは、幼少期からの健康的なライフスタイルを選択できるようにすることが重要であり、その一環として教育と情報へのアクセスを改善することが挙げられます。学校や地域社会のプログラム、公衆衛生キャンペーンなどが有効でしょう。
世界経済フォーラムの「栄養のニューフロンティア」イニシアチブは、心身のウェルビーイング(幸福)における栄養の役割を強調することを目的としています。多くの人々がより健康的な生活を望んでいるものの、相反する情報や栄養価の高い食品へのアクセスの欠如がそれを妨げているからです。
有害な食品マーケティングの規制も、政策立案者が取り組もうとしている重要な分野です。その中には、子どもに対する食品や飲料のマーケティングの制限、甘味飲料への課税、パッケージへの明確な栄養情報の記載義務、分量制限などが含まれます。
研究によると、テキストメッセージング・プログラムやデジタル治療などのデジタルヘルス介入も、子どもや若年層の体重管理をサポートし、健康的な行動を促進する上で有効であることが示されています。