ヘルスとヘルスケア

アルツハイマー病などの神経疾患の治療格差をなくすためにできること

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神経疾患が増えています。

神経疾患が増えています。 Image: Unsplash/Robina Weerme

Shyam Bishen
Head, Centre for Health and Healthcare; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
  • 世界保健機関(WHO)によれば、世界的に神経疾患が障害の最大の原因となっており、さらに増加の一途をたどっています。
  • これらの疾患の一部を治療・管理する医薬品は存在するものの、そこへのアクセスは不均一であり、限られているのが現状です。
  • 世界経済フォーラムのヘルスとヘルスケア部門は、より公平な保健医療システムを実現するため、ビジネスとテクノロジーのパートナーを結集。ソリューションを特定し拡大に取り組んでいます。

「薬が見つかりません。薬局に電話しても、ないと言われます。首都を回りましたが、売っている薬局はありません。一日中、朝から晩まで何もせず、パーキンソン病の薬を探し続けました」。

これは、ケニアのパーキンソン病患者の介護者の体験談です。こうしたケースは珍しくはありません。世界的に、パーキンソン病のような神経系の障害や病状に対する治療・投薬へのアクセスは不均衡であるばかりか、アクセスすらできないことも少なくありません。世界保健機関(WHO)によると、治療格差と呼ばれる、こうした疾患を持つ人とそれに対する治療を受けている人の数の格差は拡大しており、低所得国では75%を超える国もあります。

神経疾患の有病率とその影響が世界的に大きく増加しているため、こうした格差問題の緊急性は増すばかりです。アルツハイマー病、てんかん、多発性硬化症、認知症などを含むこれらの疾患は、全世界で障害の主な原因になっているとWHOは指摘しています。

1990年から2021年の間に、これらの疾患による障害を抱えながら生きる年数は85%増加。また、こうした疾患は世界的に、障害調整生存年数や損失生存年数の主な原因にもなっています。

治療格差の原因

多くの神経疾患には、症状の予防、治療、管理に有効な医薬品が存在します。これらの医薬品は、こうした疾患を持つ人々の生活の質を改善する一方で、治療格差は障害や早死のリスクを増大させ、社会・経済面だけでなく、生活の質にも影響を及ぼしてしまうのです。

治療へのアクセスおける格差の原因のいくつかは、相互に関連しています。例えば、病気に対する認識不足や誤解、スティグマ(偏見)が、人々が助けを求めることを妨げ、また医療システム側が提供できる病状の認識、診断、治療能力や資源が限られていることが挙げられます。さらに、市場認可やコストによって左右される、医薬品そのものへのアクセスも重要な要因の一つです。

農村部や貧困地域に住む人々やその他の脆弱なグループは、こうした影響を受けることが多く、医療格差が問題をさらに悪化させてしまうことがわかります。

Fishbone diagram of barriers and health systems components affecting access to medicines for neurological disorders
神経疾患の治療薬へのアクセスが制限される理由は数多くあります。 Image: WHO

治療格差をなくすには?

神経系の疾患には多くの偏見があり、それが差別を招くことで、これらの疾患を持つ人々の教育や仕事へのアクセスを低下させています。このようなスティグマは、健康的、社会的、経済的な障壁となり、医療支援を求めたり診断を受けたりすることを妨げているのです。

WHOの最新報告書「神経疾患治療薬へのアクセスを改善する( Improving access to medicines for neurological disorders)」によれば、私たちは地域社会レベルでこれらの疾患に対する認識と理解を高める必要があります。そうすることで、人々が安心して医療サービスにアクセスできるような、より包括的なコミュニティを作ることができるからです。

また、この報告書では、各国がWHOの必須医薬品リスト(EML)をより広く取り入れるよう勧告。例えば、アフリカの国々では、パーキンソン病やてんかんの治療薬がEMLに多く含まれておらず、小児用の抗てんかん薬などの特定の製剤も欠けています。こうしたことから、これらに該当する薬の調達や償還の優先順位が下がってしまう可能性が否めません。

Inclusion of antiseizure medicines in national EMLs in the African Region
多くの国のEMLsには、重要な医薬品が含まれていません。 Image: WHO

同様に、規制当局において神経疾患の必須医薬品が未登録であると、販売や流通ができないため、アクセスの大きな障壁となります。薬の調達とキャパシティの向上には登録の改善が不可欠であることから、WHOが、いくつかの国に対して支援しているのが登録プロセスの合理化です。

たとえ薬を入手できたとしても、薬価を支払えない人も多くいます。神経疾患に対する医療費の助成は不十分で、国民皆保険から必要な医薬品が除外されていることが多いのが現状です。そのため、可能な限り、自費で支払わざるを得ません。パーキンソン病やてんかんを含むいくつかの疾患に対する薬は、1ヵ月分の価格が公務員の最低賃金の1ヵ月分よりも高いケースもあります。

これを改善するためには、公的資金で賄われる医薬品の適用範囲を改善し、患者と医療制度の双方にとって、手の届く価格で入手できるようにしなければなりません。

Countries with a separate budget line for neurological disorders, by WHO region
世界的にみても、神経疾患に特に力を入れている国は少ないのが現状です。 Image: WHO

このような治療を監督・管理するためには、十分な訓練を受けた医療専門家が必要です。神経疾患の診断、管理、治療ができる人材の不足は、低所得国では特に深刻となっています。WHOは、一次医療レベルでの教育や意識向上のためのトレーニングに加え、三次医療レベルでの専門的なトレーニングにおいて、特にこれらの疾患の全体的な管理を支援する訓練が必要であると勧告しています。

Median neurological workforce per 100 000 population, by WHO region
特にアフリカと東南アジアでは、訓練を受けた神経医療の専門家が不足しています。 Image: WHO

データの役割とは

このような障壁の背景には、データ不足があり、医薬品へのアクセスだけでなく、私たちの理解やケアの提供にも影響を及ぼしています。

例えば、これらの疾病がもたらす負担についての理解は限られており、特に低所得国においてその傾向が顕著です。その理由としては、医療記録が必ずしも信頼できないことや、神経疾患への投資が健康、社会、経済にもたらす長期的な利益に関するデータが限られていることが挙げられます。

結果として、なすべきことに優先順位をつけづらくしてしまうのです。

これとは別に、サプライチェーンもまた、入手可能性、価格設定、予測、流通に関するデータ不足の影響を受けています。

不十分なデータに起因する知識のギャップを埋めることにより、より良いエビデンスに基づく決定を下し、国民のニーズに従ってうまく資源配分できるようになるのです。

パートナーシップが鍵

これらの問題の多くを解決するには協力が鍵となります。協力することで、関係者の間で知識やベストプラクティスを周知しやすくなり、神経疾患の優先順位を高め、理解を深めることができるからです。

こうした背景を踏まえ、世界経済フォーラムではヘルスとヘルスケア部門(Centre for Health and Healthcare)を設立。ビジネスとテクノロジーのパートナーを結集し、より公平なヘルスケアシステムのためのソリューションを特定することで、その規模を拡大しています。

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