ネイチャーポジティブ経済に向けて〜セメント・コンクリート企業ができる貢献〜
セメント・コンクリート企業はネイチャーポジティブ経済に貢献することができます。 Image: REUTERS/Mike Blake
- 2050年までに、世界の3人に2人が都市に住むようになると予想されています。
- この急速な都市化に対応するには、膨大な量のセメントとコンクリートが必要です。
- 建設業が活況を呈する中、セメント・コンクリート業界は、水使用量、温室効果ガス排出量、生態系のかく乱などを削減するため、ネイチャーポジティブなソリューションに取り組んでいます。
本寄稿文は、PBCの転載記事を和訳したものです。
人口増加と都市部への継続的な人口移動により、インフラ需要は増加する見通しです。世界の都市化率は2050年までに68%に達すると予測されており、3人に2人が都市部やその他の都市中心部に住むことになるでしょう。住宅需要を満たすため、今後15年間でグローバルな建設工事の価値は4兆2,000億ドル増加すると見込まれています。中国の建設業界は2025年から回復すると予想される一方、米国では1,500億ドルの住宅不足に直面しています。また、インドは世界で最も急速に成長する建設大国として台頭する見通しであり、英国の野心的な成長計画は現在、西欧諸国をリードしています。
こうした建築ラッシュにより、建設の要となるセメントとコンクリートの需要が増加する見通しです。これにより、採石活動や温室効果ガス排出による淡水やその他の資源の利用、土地利用の変化、生態系のかく乱といった自然消失の要因にセメント・コンクリート業界が与える影響がさらに深刻化する可能性があります。
セメント・コンクリート業界は天然資源に大きく依存しています。例えば、コンクリート生産において水は重要な原材料であり、グローバルな工業用水取水量の9%を占めています。水需要は急速に増加する見通しであり、2050年までにコンクリート生産に必要な水需要の75%が、水ストレスに直面している地域で発生すると予想されています。
企業が自然消失のリスクに先手を打つことができれば、今後導入される政策や規制要件に備えると共に、自然に関する物理的、移行的、システム的リスクによる混乱を最小限に抑えることができます。早期に行動を起こすことで、企業はレジリエンス(強靭性)を高め、2030年までに世界が「ネイチャーポジティブ」へと移行する中で利益を得ることができるでしょう。これは、自然消失を食い止め、逆転させることを目的とした国連生物多様性国家戦略及び行動計画(NBSAP)の中心的な使命です。
生物多様性をビジネスの主流にする実践的行動
企業はまず、自社ビジネスにとっての自然の価値を認識し、前述の自然への影響や依存度を評価・測定すべきです。そして、科学に基づき、透明性のある期限付きの目標を設定し、業務やバリューチェーンを変革するための行動を起こし、自然に関するパフォーマンスやその他のデータを公開することから始める必要があります。
世界経済フォーラムは、オリバー・ワイマンの協力を得て、新たな指針「ネイチャーポジティブ:セメント・コンクリートセクターの役割(Nature Positive: Role of the Cement and Concrete Sector)」を発表しました。同レポートでは、企業リーダーが自社のビジネス慣行を変革、革新し、ネイチャーポジティブ経済に貢献するために取るべき次の5つの優先行動について詳しく説明しています。
1. バリューチェーン全体にわたる水スチュワードシップの改善。
2. 温室効果ガス(GHG)と大気排出を削減するテクノロジーと製造方法の採用。
3. 採石場の再生と修復のアプローチ、および生物多様性の管理の継続、強化と、すべての占有地における土地スチュワードシップの改善。
4. バリューチェーン全体でのサーキュラリティ(循環性)に向けた取り組みの拡大。
5. ネイチャーポジティブへの移行を支援する製品を提供するためのイノベーション。
本ガイダンスでは、これらの優先的行動を取ることで、セメント・コンクリートセクターのバリューチェーン全体において、2030年までに年間440億ドルのビジネスチャンスが生まれる可能性があることを明らかにしています。
さらなる進展に向けたコラボレーション
一部の管轄区域では、セメント・コンクリート企業はすでに厳格な規制枠組みの下で事業を展開しており、自主的な自然保護への取り組みを約束している企業もあります。
例えば、ホルシムは、測定可能な水と生物多様性の目標を掲げ、ネイチャーポジティブな未来に貢献することを約束する新たな自然戦略を打ち出しました。同社は、セメント生産量1トン当たりの淡水の取水量を33%削減すること、また、水リスクの高い地域にある自社工場の75%を2030年までに消費する水よりも多くの水を供給するウォーターポジティブ水資源に配慮した工場にすることを約束しました。
ハイデルベルク・マテリアルズは、ネイチャーポジティブな取り組みの一環として、稼働中のすべての採石場において15%を自然のままにしておくことを約束しています。また、セメックスは、代替燃料や原料として利用するために回収する廃棄物や副産物の量を2030年までに50%増やし、廃棄物の95%を再利用、リサイクル、回収することを目標としています。
こうした取り組みは、中国を除く、グローバルなセメント業界の量ベースで80%を占め、生物多様性と水に関する具体的な方針を策定するグローバルセメント・コンクリート協会(GCCA)のような業界団体からも支持されています。
海洋と陸地がはグローバルな炭素排出量の半分以上を吸収しているように、います。自然なくしてネットゼロはあり得ません。企業は、信頼性が高く包括的な自然戦略を策定することで、ネットゼロ計画を補完する必要があります。海洋と陸地はグローバルな炭素排出量の半分以上を吸収しています。また、気候変動と生物多様性がは相互に関連している一方でますが、フォーチュン・グローバル500企業のうち、自然に関する目標を掲げている企業はわずか5%。で、その依存関係を理解している企業は1%にも満たないのが現状です。企業は、信頼性が高く包括的な自然戦略を策定することで、ネットゼロ計画を補完する必要があります。
ネットゼロを達成するため、国際コアリションのビジネス・フォー・ネイチャーは、グローバルキャンペーン「ナウ・フォー・ネイチャー」の一環として、新しいハンドブック「ネイチャー・ストラテジー・ハンドブック(Nature Strategy Handbook)」で自然戦略を策定し公表するためのステップ・バイ・ステップのガイドを提供しています。
セメント・コンクリート業界を再構築し、行動を加速させ、生物多様性計画であるNBSAPの実施に向けた進捗を示すことで、自然消失を食い止め、自然を保護する必要があります。今こそ、企業、政策立案者、金融機関、市民社会、慈善家が協力する時です。