新興国の成長発展を阻む「信用取引」の課題
信用取引の利用は、個人と企業の両方にとって長期的な経済的目標の追及に不可欠です。 Image: REUTERS/Akhtar Soomro
- 企業であれ個人であれ、信用取引の利用は長期的な計画を実行し、目標を追求するために不可欠です。
- 開発途上国の多くにおいては、企業も個人も従来の与信枠からほぼ締め出されています。
- こうしたことから、与信枠の拡大、開発と成長の支援、人々の生活の改善のために、多くのフィンテック企業が参入してきています。
融資を受けるために必要な信用取引が利用できなければ、個人であれ、小規模で成長中の企業であれ、成功と目標達成の大きな障害になり得ます。また、長期的な目標や予期せぬ緊急事態に備えた計画立案の妨げにもなるでしょう。
この問題は、開発途上国で特に深刻です。
例えば、パキスタンのような開発途上国を考えてみましょう。パキスタンには2億4,100万人が暮らしていますが、正規の信用取引を利用できるのは200万人にも満たないのです。これに対し、2022年現在、米国では成人の82%が信用取引を利用でき、2023年11月の時点で英国では成人の64%がクレジットカードを保有しています。
信用取引を可能にするプラットフォーム
開発途上国では、個人のクレジットや広範な金融システムへのアクセスが限られているため、革新的な金融商品のニーズが大きく高まっています。例えば、雇用主が従業員への福利厚生として給与前払いサービス(EWA)のようなサービスを利用するケースが増えています。EWAはサードパーティーの事業者を通じて提供される金融サービスで、従業員は給料日前にいつでも給与の一部を利用することができる一方で、雇用主にとっては、キャッシュフローの管理、従業員の定着率の向上、生産性の改善につながります。
2010年代の登場以来、EWA市場は成長を続けており、多くの新規企業がこの分野に参入。現在では、ペイアクティブ、ABHI、デイリーペイ、リファインなどのフィンテック企業をはじめ、大手銀行、大手決済企業といった著名な市場プレーヤーがEWAサービスを提供しています。パキスタンで大手コンサルティングファームのEYが実施した調査によると、回答者の85%が緊急の資金需要に対応するためのEWAの利用に関心を示しています。
中小企業における与信の課題
企業の見通しもそれほど明るいものではありません。国際金融公社(IFC)の推計によると、開発途上国の正規の零細・中小企業の40%は、年間総額5兆2,000億ドルの資金不足に直面しています。
特に、中小企業は、必要な融資を受ける際に大きな障壁に直面しています。中小企業は企業の約9割を占め、グローバルな雇用の5割以上を担っており、新興国では正規の中小企業がGDPの4割に貢献。このように中小企業は極めて重要な役割を担っているにもかかわらず、高金利と担保の欠如が、中小企業が必要とする金融資源を利用する妨げとなっているのです。
中小企業の資金調達
中東・北アフリカ・パキスタン(MENAP)地域でも、中小企業が企業の大部分を占めています。MENAP地域の企業の約32%が、信用取引が利用できないことを主要な事業上の制約として挙げています。従来の銀行では、中小企業に関する与信リスクが高く認識されることが多く、融資の制限につながっているのです。
中小企業が直面するこうした課題に対処するため、フィンテック企業は中小企業向け運転資金融資を導入し、正規の信用取引の利用が限定されているか、まったく利用できない企業向けに即時与信ソリューションを提供しています。こうした取り組みは資金繰りの課題を解決し、企業の成長を可能にします。例えば、パキスタンでは、ABHIのようなフィンテックプラットフォームがダラーズやフードパンダと提携してプラットフォームベースの融資を導入することで、事業運営の規模拡大に必要な運転資金を迅速に提供し、何千もの事業者を支援しています。
与信拡大という機会
信用取引の利用が限られているために、個人や企業はしばしば障害に直面します。次のような様々な面でより幅広い経済的利益をもたらすためには、信用取引をより広範に利用できるようにすることが不可欠です。
1. 起業と事業の成長の増加
信用取引を利用することができれば、起業家や中小企業が成長機会に投資し、事業を拡大し、革新することが可能になります。債権者の権利がより確立されている国の企業は、与信制約に直面することが少なく、起業と経済の拡大が促進されます。
2. 雇用創出
信用取引がより広範に利用できるようになれば、企業は事業を拡大し、より多くの雇用と所得機会を創出することができます。また、景気後退期においては与信を緩和することで、永続的な雇用喪失を防ぎ、消費者需要を維持することができます。
3. 所得格差の縮小
疎外された人々に金融サービスへのアクセスを提供して金融包摂を実現することにより、こうした人々の財務管理と収入を生み出す活動への投資を支援し、貧困と経済格差を縮小できます。社会のあらゆる層にサービスを提供する包摂的な金融システムは、所得格差を是正し、繁栄の共有を促進します。
経済的安定と人的要因
将来が不透明なまま常に変化し続ける世界にあって、確かな真実も存在します。そのひとつが、金融ストレスが個人の生活に与える紛れもない影響です。こうしたストレスは、銀行口座における困窮に限らず、個人の健康や幸福の様々な側面まで及びます。経済的な心配事が仕事の生産性低下の最大の原因であるとする従業員は40%以上にのぼります。
ファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的健全性)は、経済的な安定と同様に、全体的なウェルビーイング(幸福)に重要な役割を果たしています。従業員が金銭を管理できるようになると、ストレスが軽減されてより健康になり、その結果、個人的にも仕事上でも、集中力、生産性、満足度が向上します。経済的健全性と心身の幸福には関連性があり、より健康でバランスの取れた生活を送るためには経済的な負担に対処することが重要です。
企業にとっても同様に、経済的健全性は重要です。中小企業の資金調達がしやすくなれば、新技術への投資、製品ラインの拡大、新市場への参入が可能になります。さらに、財務的に健全な中小企業は、景気後退や予期せぬ出費にもよりよく対応することができるでしょう。財務的に健全な余裕があれば、中核事業や従業員を犠牲にすることなく、嵐を乗り切ることができるからです。また、中小企業が財務を適切に管理すれば信用力が高まり、信用力が向上すれば、より有利な条件でローンやその他の金融商品を利用しやすくなり、成長の見通しがさらに高まります。
金融サービスは不可欠なものであるにもかかわらず、個人や中小企業を含む世界の人口の大部分は、依然としてその利用を阻む障壁に直面しています。フィンテック企業は、個人の差し迫った金融ニーズに対応し、中小企業が成長し成功するために必要なリソースを提供することで、金融業界を再構築する重要な役割を果たしています。
今後、金融アクセスがすべての人にとって真に現実のものとなるためには、金融機関、テクノロジープロバイダー、政策立案者による総力を挙げた取り組みが不可欠です。
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Gayle Markovitz and Spencer Feingold
2024年12月3日