レジリエンス、平和、安全保障

貿易ネットワークで人道支援を促進〜グローバルな連携の力〜

2024年には約3億人が人道支援を必要とすると予想されており、そのニーズに応えるために、既存のグローバルな貿易ネットワークが貢献できる可能性があります。

2024年には約3億人が人道支援を必要とすると予想されており、そのニーズに応えるために、既存のグローバルな貿易ネットワークが貢献できる可能性があります。 Image: REUTERS/Ayman al-Sahili

Macarena Torres Rossel
Deputy Director, Global Alliance for Trade Facilitation, World Economic Forum
Mariam Soumaré
Community Engagement Specialist, Global Alliance for Trade Facilitation, World Economic Forum
本稿は、以下センター(部門)の一部です。 地域、貿易、地政学

• 貿易について議論する場合、一般的には国境を越えた商業物資の移動に注目します。

• 商業的なサプライチェーンが確立された手順の中で運営されている一方、人道的なサプライチェーンでは、影響を受けているコミュニティに援助を届けるために、より柔軟で機敏な対応が求められます。

• 商業貿易を合理化するデジタル化、効果的なリスク管理システム、省庁間の協力などの取り組みは、人道支援活動にも役立ちます。専門家たちは以下のように述べています。

2024年には、紛争、気候変動、その他の危機により、世界中で3億人近くの人々が人道支援を必要とするでしょう。このような状況においては第一に、必要としている人々に救命物資を迅速かつ効率的に届けること。

危機の初期段階では、多くの国・地域が人道支援物資の通関を迅速化し、関税を免除します。しかし、食料、ワクチン、蚊帳、その他の救命物資を届ける人道的な取り組みでは、商業物資と同等またはそれ以上の官僚主義的な遅れに遭遇することが多々あります。

貿易円滑化のためのグローバル・アライアンスと国連児童基金(ユニセフ)は、6月26日~28日に開催された世界貿易機関(WTO)の「貿易のための援助」(AfT)グローバル・レビューにおいてセッションを開催しました。人道的サプライチェーンが直面する課題について専門家が議論し、商業貿易を合理化するための措置がどのように人道的活動に役立つかを検討。その結果、次のことが明らかになりました。

デジタル化は単なるソフトウェアの導入にあらず

プロセスをデジタル化することで、物資の輸送にかかる時間とコストを大幅に削減することが可能です。紙ベースのシステムの代わりに電子フォーマットを使用することで書類作成やデータ交換を迅速に処理することができます。

人道支援物資にデジタル・ソリューションを利用することで、煩雑なプロセスを簡素化できる例として、関税の免除申請が挙げられます。提出や処理を行うためのオンライン・プラットフォームを開発したり、関連する政府機関を既存のワンストップシステムに接続したりすることで、回収前のコンテナが港に長時間放置された場合に発生する延滞料や係留費用を削減し、人道的任務のための貴重なリソースを節約することができます。

デジタル化にあたっては、単にソフトウェアをインストールするだけではなく、既存の手順を包括的に見直すことが必要です。こうした手順には、ワークフローの再構築、人材のトレーニング、様々なシステムやステークホルダーのシームレスな連携などが含まれます。特に医療などの機密性の高い分野では、データのセキュリティとプライバシーも極めて重要です。さらに、遠隔地や資源の乏しい地域では、堅牢なインフラと信頼できるインターネット接続が不可欠となっています。

The Global Alliance for Trade Facilitation and UNICEF convened a session with experts to discuss the interlinkage between trade facilitation and humanitarian relief at the WTO Global Aid for Trade Review.
貿易円滑化のためのグローバル・アライアンスとユニセフは、WTOの「貿易のための援助」グローバル・レビューにおいて専門家によるセッションを開催し、貿易の円滑化と人道支援の相互関係について議論しました。 Image: 貿易円滑化のためのグローバル・アライアンス

配送を迅速に行うスマートな管理

税関当局は、貨物の効率的な移動を確保する一方で、同時に法の執行やコンプライアンスの徹底、関税・税金の徴収、密輸の防止を行うという二重の課題に直面することがよくあります。効果的なリスク管理システムがなければ、すべての貨物を検査することになりがちですが、人道的物資にも商業物資においても全数検査は非効率です。

人道的な文脈で特に難しいのは、関税に関する免税措置の管理。商品や、違法品、偽造品を運ぶ悪意のある者によって不正使用される可能性があるからです。そのため、効果的なリスク管理システムが不可欠となります。その範疇に含まれるのは、リスク分析ソフトウェアを通じて、リアルタイムの追跡、データ分析、関係者間の効率的なコミュニケーションを可能にすることで、リスクをより的確に特定し、不必要なチェックを減らして人道支援物資の通関を迅速化すること。

効果的なリスク管理のためのもうひとつの解決策は、到着前処理システムと事前通知システムの導入です。これにより各機関で貨物の到着準備を行うことができ、リスク評価に基づく管理が可能となるため、物資が国境で費やす時間を短縮することができます。これにより、人道支援物資を含むすべての物品の検査プロセスを迅速に進めることにつながるのです。

あらゆるレベルでの協力

依然として人道支援活動の要となるのが協力です。不要な関税の支払いを回避し、延滞費用を削減するためには、国境機関同士の効果的な協力が欠かせません。税関、保健省、その他の関連機関の間で手続きを調和させ、共同作業を行うことで、通関手続きを大幅に迅速化することができます。

また、人道支援においては企業も不可欠な役割を担っています。広範なロジスティクスの専門知識を有するDHLやマースクのようなグローバルなロジスティクス企業は、援助の輸送と流通を管理する上で非常に重要です。そうした企業の関与することで、効率性を高め、危機への対応全体を強化する専門知識を得ることができます。

現地での協力も同様に不可欠です。現地の当事者はその土地の現実を理解しており、国際機関が見過ごす可能性のある洞察や支援を提供することができます。現地の企業やコミュニティを巻き込むことで、援助を必要としている人々に、より効果的かつ持続的に支援を届けることができるでしょう。しかし、協力を成功させるための基本は信頼関係です。人道支援パートナーは、各国の規則や規制を理解して尊重し、現地当局は人道主義の原則を認識し支持する必要があります。

前進すること

貿易は利益追求の視点で捉えられがちですが、そうである必要はありません。商業物資は経済の繁栄を維持する一方、人道支援物資を適時に届けることで救える命があるのです。貿易措置を見直し、こうした人道支援物資の輸送を迅速化できると、大きなプラスにつながります。

2022年以来、貿易円滑化のためのグローバル・アライアンスは、人道的サプライチェーンの合理化に取り組んできました。同アライアンスはモザンビークのユニセフと提携し、必要不可欠なワクチンや医薬品の輸入プロセスを改革。さらに、処理時間を10日短縮し、貨物のトレーサビリティを改善してコストを削減しました。

この成功を踏まえて同様のイニシアチブがさらに10カ国で展開され、子どもたちがワクチンや医薬品を確実に入手できるようになる予定です。詳細はこちら

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