投資家として意思決定者として、女性が拓く金融市場の未来
投資家として、そして金融機関の中からも、女性が金融市場を根本的に作り変える可能性があります。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 女性は投資家として、また主要な金融機関の内部から、金融サービスや投資の状況を根本的に作り変える力を持っています。
- 投資家としての女性により良いサービスを提供することで、金融機関は推定7,000億ドルの資金を新たに得ることができます。
- 全体的に、金融機関で投資判断を下す際には女性が行う方が投資効果が高く、より大きなリターンを生み出しているというエビデンスがあります。
投資家として、また市場を運営する金融機関の従業員として、女性が金融市場の形成に果たす役割について検討する時です。いずれの面においても、社会的進歩と経済的エンパワーメントの両方を十分に実現できるでしょう。
憂慮すべきことに、女性は男性と同じ割合で富を生み出していません。経済協力開発機構(OECD)によると、女性が年金制度から受け取る収入は男性より26%少ないのです。投資家として女性が金融市場に参加する機会を増やし、投資に関するこのジェンダー・ギャップを解消することが、世界中の多くの女性にとって決定的に重要です。
私たちは自問しなければなりません。女性は投資家としてどのような役割を果たすことができるでしょうか。また、どのようにすれば投資家としての市場参加に向けて女性たちの背中を押し、支援することができるのでしょうか。
この問いに答えることで、女性顧客の利用しやすいサービスを提供できる可能性が高まります。そのような企業には、7,000億ドルの収益機会がもたらされるでしょう。
投資に関するジェンダー・ギャップ
投資家としての女性の可能性を最大限に引き出すには、ジェンダー間の賃金格差に対処することが極めて重要です。アップリンク(UpLink)のトップ投資家であり、中東・北アフリカを拠点とするベンチャーキャピタルファンドのベンチャースーク共同設立者兼ゼネラル・パートナー、ソニア・ウェイミュラー氏は、「重要なのはアカウンタビリティであり、明確なメカニズムによって多様性の目標が達成されるようにすべきです」と述べています。
女性は無報酬の育児や介護、家事を担うことが多く、それによって昇進を逃したり、パートタイムでの就労を余儀なくされたりすることがあります。その結果、雇用による収入力や、投資を通じた資産形成力が低下。80%以上の女性が家族のための短期的なファイナンシャル・プランニングを主導することに抵抗がない一方で、投資や保険といった長期的なファイナンシャル・プランニングを主導することに抵抗がない女性はわずか23%です。この自信の欠如が資産形成に影響し、投資活動への参加を妨げているのです。
女性が男性と同じ割合で投資すれば、世界全体で推定3兆2,200億ドルの新たな投資資金を引き出すことができます。さらに、機会さえ与えられれば女性投資家のパフォーマンスは高く、年間で1.8ポイント男性を上回ることが分かっています。金銭的なリターンだけではありません。女性は投資活動に環境、社会、ガバナンスを考慮するESG要素を取り入れる傾向が男性の2倍あります。また、女性は慈善活動を通じて投資を地域社会に還元しており、収入が増えるにつれて慈善活動も増えているのです。
金融サービスにおける代表者格差の解消
金融業界では、金融機関において意思決定者に女性を含めることに関して、まだ多大な進展の余地があります。
ジェンダー平等に向かいつつはありますが、金融業界における女性に関する厳しい数字は依然として変わりません。2023年に経営に関わる女性の割合は、世界全体でわずか18%でした。さらに、時価総額20億ドル以上の企業では、女性は取締役会メンバーの30%のみであり、経営幹部の22%、上級管理職の27%にすぎません。
「私の経験では、女性は金融業界でさまざまな指導的役割を担っています。しかし、財務上の直接的な意思決定を担う指導的地位に女性がいないことが際立っています。幸いなことに、このような重要な役割に就く女性が増えるにつれて、この状況は変わりつつあります」。
”しかし、このような課題がある一方で、女性の参画がポジティブな影響を与えるという説得力のあるエビデンスも存在します。女性が運用するヘッジファンドは、平均的なヘッジファンドの2倍のリターンを達成。また、女性の顧客や、女性が設立した企業は、男性が設立した企業よりも5年間で平均10%多い収益を上げていることが示されています。
また、多様性のある取締役会を持つ企業ほど、企業倫理や企業市民性のスコアが高く、人材の獲得・確保に優れ、より強固な気候変動戦略を有する傾向があります。
とはいえ、トップに占める女性の割合を増やすという課題の解決は一筋縄ではいきません。
現在、UBSグローバル・ウェルス・マネジメント・アジアの会長を務めるエイミー・ロー氏は、1995年に入社したばかりの頃、チューリッヒで開催された上級職向けワークショップに参加した際、男女の比率が大きく異なっていることに気付きました。 「男性が圧倒的に多く、女性はわずか2%程度でした」。この経験が、職場で女性やマイノリティを擁護するという同氏の決意につながります。「違いを生み出そうという強い思いが湧き上がってきたのです」。
米国では、入社時における女性の割合が高く、2021年には金融関連職の52%が女性でした。2023年8月現在、UBSの上級管理職の30%近くを女性が占めています。しかし、この成功は、どのセクターでも同じになるわけではありません。実際、女性の割合は上級副社長レベルに近づくにつれて急激に低下し、通常は新卒入社後10~15年後に低下してそのままになります。この落ち込みは有色人種の女性で特に顕著であり、経営幹部まで昇進するのは白人女性23%、白人男性64%に対し、黒人女性はわずか4%です。このことは、採用戦略で新卒女性への対応がより重視され、育児や介護から復職してリーダー的役割を目指そうとする女性のための職場復帰プログラムの必要性が見落とされている可能性を示しています。
「ダイバーシティを推進し、金融や起業において継続的に女性を支援するよう取り組むことが、女性の潜在能力を引き出して意味のある変化をもたらすための基本です。例えば、女性の率いるベンチャーキャピタルは、投資委員会で提供される多様な視点に基づき、インクルーシブでホリスティック(全体論的)な投資決定を可能にしています」。
”雇用主は、短期的な目標よりも、スキルと成長の可能性に基づいた雇用に重点を置くべきです。
フレックスタイム制度や出産休暇の延長などの福利厚生は、育児や介護を担う女性の離職率を下げる可能性がある一方で、人脈作りやコラボレーションの機会を制限することでキャリアアップを阻害する可能性もあります。
カタリスト社の2021年の調査によると、育児を担っている女性のうち、柔軟な働き方ができている人の離職率がそうでない人に比べて32%低いことが分かりました。このため、多くの企業がフレックスタイム制度や出産休暇の延長などの福利厚生を導入しています。しかし、柔軟すぎるスケジュールは、人脈作りやコラボレーションの機会を妨げ、キャリアアップを阻害する可能性があります。
結局のところ、こうした取り組みを成功させるには、インクルーシブな職場文化を醸成することが重要です。多様性を受け入れることは、生産性を高めるだけでなく、すべての従業員にとって前向きで協力的な環境作りを促進します。指導的地位への女性参画を奨励することで、波及効果が生まれ、より多くの女性にキャリアアップの道が開かれるでしょう。
金融サービスの再構築
金融サービス業界を再構築するためには、女性のライフサイクル全体と関わり、金融リテラシーを高め、富の創造者、意思決定者としてのエンパワーメントを実現するための支援やリソースを提供する必要があります。
金融サービスにおけるジェンダー・ギャップを解消することで、7,000億ドルの収益を引き出し、世界中の女性の未来を守ることができます。金融業界におけるジェンダー平等を推進することで、ポジティブなインパクトをもたらす可能性には計り知れないものがあるのです。
さらに、金融サービス機関内にインクルーシブかつ説明責任を果たす文化を醸成することで、女性が金融市場の形成と影響力の行使に重要な役割を果たせるようになり、最終的にすべての人の繁栄につながる未来への道を開くことができるでしょう。
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