エネルギー転換期における、アジアと中東の進化する関係力学
中東の国有石油会社は、生産インフラやIT技術への戦略的投資を行ってきた。化石燃料からの撤退を進める欧米の石油コングロマリットとは対照的な動きだ。 Image: Unsplash/Shaun Dakin
- 中東の国有石油会社は、生産インフラやIT技術への戦略的投資を行ってきた。化石燃料からの撤退を進める欧米の石油コングロマリットとは対照的な動きだ。
- 中東は再生可能な資源を活用し、世界のエネルギー市場で存在感を示そうとしている。一方でアジアの成長はエネルギー関係の見直しの機会をもたらし、欧米の影響力低下にもつながっている。
- 最近の価格の高騰は、湾岸協力会議(GCC)加盟国の原油収入を増加させ、その経済的余剰が国内に再投資されている。地域の緊張は、事業拡大やアジア
- 中東関係の深化に必要な安定を危うくする。
気候変動の危機を背景とした世界のエネルギー転換が急務となる中、中東とアジアの関係は大きく変化している。クリーンエネルギーへの移行は一足飛びのプロセスではない。代替エネルギーへのシフトの中でも、化石燃料は重要な役割を担っている。
環境、社会、ガバナンス(ESG)の原則を優先する利害関係者からの圧力を受け、欧米の民間石油会社は、石油や石炭といった従来の化石燃料事業だけでなく、「クリーンエネルギー」と分類される天然ガス事業からも撤退を強いられた。
対照的に、サウジアラムコやADNOCといった大企業に代表される中東の国有石油会社は、生産インフラや最先端のIT技術に戦略的に投資し、特許取得において欧米企業をうわまわる実績をあげるようになってきた。
この戦略は、「ラストマン・スタンディング・ストラテジー」と呼ばれ、高コストのライバルが撤退した後に残った市場の残存利益を総取りしようとするアプローチである。「石油の時代」が徐々に終わりにむかうなか国有会社が果たす極めて重要な役割がますます明らかになっている。
この過渡期における化石燃料の重要性は、ウクライナ紛争に端を発した欧州のガス危機によって浮き彫りになった。
さらに、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーへのアクセスにおける中東の地理的優位性は、この地域が脱炭素時代においてもエネルギー市場の中心的役割を維持する可能性を示唆している。
一方、人口が急増し、急速な発展を遂げているアジアは、将来のエネルギー需要を牽引する重要な地域である。欧米はアジアと中東の歴史的な関係をしばしば仲介してきた。世界の成長センターとしてのアジアの台頭はこの関係を変えうる。
中東とアジアの地域の関係の再定義
中東とアジアの地域の関係を再定義する必要性が高まっている。世界の覇権をめぐる対立が激化する中、戦略的サプライチェーンの再構築を唱える声はますます一般的になっている。しかし、アジアに取って代わるような、強力かつ効率的な生産ネットワークが出現する可能性は、依然として低い。
エネルギー安全保障と経済の安定が極めて重要な関係にあることを考えれば、アジアと中東の関係の未来を育むには、戦略的な先見性が求められる。両地域の指導者は、金融から製造業に至るまで、さまざまな分野での関係強化に取り組む必要がある。
特に重要なのは金融分野だ。米国の金融機関は歴史的に大きな影響力を行使してきた。その優位性はかんたんには揺るがないが、産油国である中東諸国の金融の発展と、アジアの金融機関のビジネス視野の拡大は大きな意味をもつ。
原油価格の高騰は、サウジアラビアをはじめとするペルシャ湾産油国に大きな富をもたらした。
この新たな富は、同地域における経済的優位性のための新たなチャネルの開拓を促進した。同時に、国際通貨基金(IMF)によれば、湾岸地域のアラブ産油国は2022年に合計で3000億ドルを超える経常黒字を計上した。
戦略的な投資と安定性
1970年代の石油危機の時代とは異なり、この地域の資本市場は、規制の明確化と改善により透明性を増した。現在の経常黒字の多くは国内に再投資されている。
サウジアラビアは従来、レジャーやショッピングのために住民が海外に旅行するため、夏には国外脱出が起きていた。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する改革によって変化が起きている。国内での娯楽の選択肢を広げ、国内消費の拡大を通じて同国経済を牽引している。
さらに、石油輸出国は海外投資により戦略的なアプローチを採用している。例えば、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドは、日本のゲーム会社であるカプコン、ネクソン、任天堂の株式を取得したが、これは社会変革の触媒としてのエンターテインメント、雇用創出、アジア市場でのビジネスチャンスに戦略的に焦点を当てていることを反映している。
ガザ紛争やイラン・イスラエル間の緊張激化に代表される最近の中東情勢の激化は、両地域間のビジネス拡大に影を落としている。地政学的リスクは、中東の安定が共通の利益として重要であることを浮き彫りにしており、アジア諸国の積極的な関与が求められる。
戦略的パートナーシップは政治的リーダーシップに依存していると思われがちだ。民間部門の力を活用することも同様に重要である。政治的なアジェンダだけに頼ると、思わぬ副作用を招く危険性がある。中東であれ日本であれ、規制の妨げにならない民間セクターの交流を促進することが不可欠である。
変化の潮流が世界のエネルギー情勢を再構築する中、アジアと中東の関係が進化する力学は、戦略的再編成と協力の必要性を強調している。この複雑な情勢を乗り切るには、指導者たちがこれらの地域の将来が深く絡み合っていることを認識し、革新、協力、ビジョンの共有を通じて、相互の繁栄と安定への道を切り開く機会をつかむことが必要である。
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