日本の循環型建造環境が、経済的にも環境的にも理にかなっている理由
日本の建造環境に、サーキュラー・エコノミーが受け入れられ始めています。 Image: Photo by Jezael Melgoza on Unsplash
Sebastian Reiter
Partner, McKinsey & Company- 世界的に、都市部への人口集中が進んでいます。
- 都市部への人口流入に対応するには、何百万戸もの都市型住宅を建設する必要があります。
- こうした建設はサステナブルな手法で行われる必要があり、日本はその建造環境をリードできると考えられます。
2050年までに、世界人口の約68%が都市部で暮らすようになると見込まれています。この人口を収容するためには新しい建物を建設する必要があり、これは40日ごとにニューヨークほどの規模の都市を新たに建設することに相当します。今世紀の課題は、この需要にサステナブルな手法で対応していくことです。
建設業界は、グローバルな温室効果ガス排出量の4分の1以上と年間1,000億トンの廃棄物を排出する一方、世界の労働者の7%を雇用し、経済生産高の13%を占めています。継続的な経済成長を支えていくためには、サステナブルな建造環境への移行を進める必要があります。
世界経済フォーラムがマッキンゼーの協力を得て作成した白書「建造環境におけるサーキュラリティ:二酸化炭素排出量削減とビジネスチャンスの最大化に向けて」は、建造環境において、リニア(直線型)エコノミーからサーキュラー・エコノミーへ移行することが、経済成長と二酸化炭素排出削減を同時に促進するとしています。
同白書では、セメント、鉄鋼、アルミ、プラスチック、ガラス、石膏という、カーボンフットプリントと資源消費量が最も大きい6つの建築資材を調査。その結果、サーキュラー・エコノミーへの転換により、内包排出量(建築資材の生産から建物の完成までに排出される二酸化炭素量)の75%と最大4ギガトンの二酸化炭素を削減しつつ、2050年までに年間3,600億ドルの純利益を追加できることが分かりました。
新しい手法、新しい利点
私たちが調査した資材の中で、セメントは最大の炭素排出源であり、資材関連の二酸化炭素排出量の30%、グローバルな二酸化炭素排出量の8%を占めています。セメントの脱炭素化は、その生産に必要なエネルギーと、関連する採掘、加工、製造に伴う二酸化炭素の排出により困難なものとなっています。こうした中、スマート破砕骨材(破砕した古いコンクリートを新しいコンクリートの充填材として使用する)などのサーキュラー・エコノミーを実践することで、2050年までにセメントから排出される二酸化炭素の96%を削減し、1,220億ドルの純増利益を生み出すことができます。
その他の環境上の利点としては、使用済みの鉱物や資材の再循環(約26%の二酸化炭素削減)、資材生産における再生可能エネルギーと回収エネルギー(同約9%)、炭素の回収・貯留・有効利用(CCSU)による排出量の削減(同約40%)が挙げられます。また、建造環境は、例えば世界のプラスチック廃棄物の多くを吸収し再利用することで、他のセクターを巻き込み、より広範に持続可能性を促進することができると考えられます。
規模拡大の壁
しかし、潜在的な可能性があるにもかかわらず、建設業界では使い捨ての直線型システムが未だ大部分を占めています。建設バリューチェーンのサイロ化が、利用可能な原材料のエンドツーエンドの調整と透明性、そして、サーキュラリティの実現に必要な統合された資材エコシステムの構築を妨げているためです。また、プロジェクトの炭素排出量に影響する決定は、通常建設が始まる前に下されており、後から覆すことができない場合が多いのです。サーキュラー・エコノミーの基準も同様にバラバラで、資源の種類や、国によるサーキュラー素材に対する要件・需要が異なるため、グローバル経済全体における資源の再循環が妨げられています。
サーキュラリティの「ライトハウス(灯台=指針)」は、環境への影響、スケーラビリティ、経済的な実行可能性を実証する画期的なソリューションです。しかし、こうした分断があるために、業界内でのライトハウスの普及と模倣が妨げられています。
サーキュラリティ実現に向けたコラボレーション
建築セクターにおいて、環境的、経済的に実行可能な形でサーキュラー・エコノミーを実現するには、グローバルなサーキュラー・エコノミーを結びつけ、各種資材を横断した調整、セクターを超えたパートナーシップ、基準の調和によって分断を解消する必要があります。
資材サプライヤーは、設計者や請負業者と協力して、再利用や交換が可能な資材を開発する、資材効率を高めるなどの対応ができるでしょう。例えば、過剰な仕様を減らし、建築設計を最適化し、完全性や安全性を損なうことなく、より耐久性の高い代替材料を使用することで、技術的にはコンクリートや鉄鋼の消費量の10~15%を節約できると推定されます。
モジュラー工法から解体に配慮した設計まで、当初から循環型思考を採用して設計段階で持続可能性を組み込むことも効果があると考えられます。内包二酸化炭素は不可逆的であり、建物の耐用年数における排出量の最大50%を占めるからです。
複合的な利益
同白書は、使い捨ての直線型消費・生産パターンからサステナブルな循環型アプローチへの移行が、建設における環境利益と経済成長の両立を促進する可能性があることを明らかにしています。そのためには、セクターを超えた連携、調整、循環型思考を軸に、分散型経済から連結型経済への移行を並行して進める必要があります。そして、革新的な新しいビジネスモデルや技術を取り入れることも重要です。
これにより、2050年までに必要とされる新たなインフラを提供するための経済的にも環境的にも実行可能な手法や、既存の建物や構造物が必要とする資材のかなりの割合を提供する環境、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の中で活動する産業において新たな価値創造の機会が生まれるエコシステムが生み出されます。
日本が建造環境全体で持続可能性を推進する方法
日本政府は、資源の有効利用を促進する全般的な政策の一環として、1990年代初頭から、建設資材のリサイクルを推進してきました。解体業者の登録制度を実施し、廃コンクリート、廃アスファルトコンクリート、廃木材の効果的なリサイクルを確保するため、2000年に「建設リサイクル法」が制定されました。
こういった主要な建設資材のリサイクル率は、1990年代には60%程度でしたが、近年、90%以上まで上昇しています。しかし、混合廃棄物やプラスチックのリサイクルにはまだ改善の余地があります。鉄やガラスは日本ではよくリサイクルされていますが、他の建設廃棄物が混入すると、建物が解体された後にどのような目的でどの程度再利用されたかが分からなくなってしまいます。これは、建設リサイクル法で解体後の扱いを監視するためのデータ収集が義務づけられていないためです。
日本ではこの他にも、建造環境におけるサーキュラリティを確保するための取り組みが進められています。2022年、ベルリン・ロードマップの一環として、環境省は他のG7メンバーとともに「循環経済及び資源効率性原則(CEREP)」を支持しました。CEREPは、企業におけるサーキュラー・エコノミーと資源の効率化を促進するための行動指針です。
この指針は、サーキュラー・エコノミーへの移行を促進し、資源効率の高いビジネスを確保するために、企業の経営ビジョンにサーキュラー・エコノミーを統合することが目的。「原則1:全社的な循環経済・資源効率性戦略のためのリーダーシップ」をはじめ、6つの中核原則が含まれています。政府は環境整備において重要な役割を果たしますが、障壁に効果的に対処し、政策を統合し、さらなる官民連携を促進するためには、企業とのコラボレーションが必要なのです。
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