ブルーカーボンを活用する日本の取り組み ~ネットゼロへの道筋~
日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げており、海洋資源を活用した地球温暖化対策を推進する日本初の取り組みである「横浜ブルーカーボン事業」が2011年に発足しています。 Image: Unspalsh/Gianni Scognamiglio
- 日本は、二酸化炭素(CO2)を回収・貯留し、そのクレジットを販売することでCO2排出量を相殺し、さらなる環境保全活動を支援するブルーカーボン・プロジェクトに取り組んでいます。
- さまざまな機関とパートナーシップを結び、適切な専門知識を活用しているように、日本におけるブルーカーボンの取り組みを成功させるためには、官民の協力が不可欠です。
- 縮小するアマモや海藻の再森林化、日本の広大な海域の利用など、自然資本の効果的な管理が地域社会の経済的流れを改善する可能性があります。
4月、横浜の湾岸地域に100人以上のボランティアが集まり、アマモを海底に植える活動が行われました。日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げており、海洋資源を活用した地球温暖化対策を推進する日本初の取り組みである「横浜ブルーカーボン事業」が2011年に発足しています。
また、福岡市による、博多湾ブルーカーボンオフセット制度は、博多湾のアマモなどの藻場が吸収・固定した二酸化炭素(CO2)をクレジット化。このクレジットは「博多湾ブルーカーボン・クレジット」として販売されています。
同制度を利用して、個人や企業が、日常生活や事業活動において削減できないCO2排出量をオフセット(相殺)することができます。収益金は、「博多湾NEXT会議」によるアマモ場づくりなどの環境保全活動に役立てられます。
カーボンストレージ(炭素貯蔵)におけるブルーカーボン生態系
「ブルーカーボン」という言葉は、2009年10月に国連環境計画(UNEP)が発表した報告書で紹介されました。この報告書では、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林などの海洋環境に蓄積された炭素の吸収源対策の新たな方法としてブルーカーボンを取り上げています。これらの「ブルーカーボン生態系」は、CO2の隔離・貯留に重要な役割を果たしているのです。
2024年4月に行われた国連への報告によると、2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は、約10億8,500万トン(CO2換算)。これは2021年度比で2.3%(約2,510万トン)の減少、2013年度比で22.9%(約3億2,210万トン)の減少となり、2050年ネットゼロに向けた順調な減少傾向を継続しています。
また、ブルーカーボン生態系のひとつである海草藻場・海藻藻場の吸収能力が約35万トンであることも示されています。この数値は、国土交通省(面積データ)、農林水産省(藻場タイプ別の吸収係数)との連携により、世界で初めて、海草藻場及び海藻藻場の吸収量を合わせて算定・報告したもの。今後は、塩性湿地・干潟の算定についても検討していくとされています。
日本におけるブルーカーボンの将来展望
日本におけるブルーカーボンへの関心と取り組みが加速しています。2021年、枝廣淳子氏は、移住先として選んだ静岡県で「ブルーカーボン.jp」を立ち上げました。
「私は25年ほど前から環境問題に取り組んできましたが、温暖化への対策と、海の豊かさを取り戻すことが非常に重要な課題であると考えています。この2つの課題の両方に効く取り組みが「ブルーカーボン」です。」と枝廣氏。「次世代への環境教育を推進することで、藻場再生とブルーカーボンに関する日本の取り組みを強化することを目指しています」と述べています。
官民連携も進んでいます。2023年末、ENEOSは、産官学連携によるブルーカーボンの大規模創出に向けた構想を発表。港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、東京大学と連携するとしています。
このイニシアチブは、100万トン以上のブルーカーボンを大規模創出することを目指しています。この協力関係を通じて、産官学はそれぞれの専門知識を活用し、「ブルーカーボン生態系のCO2吸収源としての利活用」に関する検討を行います。
ブルーカーボンの可能性を最大限に引き出すための課題の克服
こうした取り組みに課題がないわけではありません。長崎大学のグレゴリー・ニシハラ教授は「海藻だけですべての排出量を回収しようとすると、日本の海洋排他的経済水域の10%、約4億3,300万ヘクタールを使用する必要がある」と述べています。
また、環境省のデータによると、日本の海草藻場は減少しており、再生はさらに難しくなっています。30年前に85万エーカー強あった海草藻場の面積は、現在20万ヘクタール弱、つまり約50万エーカーのみと推定されています。
「New Nature Economy - Nature Risk Rising, World Economic Forum 2020(世界経済フォーラム2020、ニュー・ネイチャー・エコノミー - ネイチャー・リスクの上昇)」で述べられているように、世界の国内総生産の半分以上が自然に中程度または高度に依存しています。こうした現状を踏まえ、止まることなく前進することで、新たなアプローチを生み出していくことが重要です。
世界経済フォーラムは、各国(現在はインドネシアとフィリピン)との「ブルーカーボン・アクション・パートナーシップ」も強化。科学技術開発、投資、地域社会への利益向上を促進しています。
「自然資本をきちんと管理することで融資を受けられる時代になってきている」、「自然を活用することで、経済の流れも良くすることができる」。東北大学大学院の近藤倫生教授が述べる、こうした視点も、前進する上で欠かすことができません。
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