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迫る「2025年の崖」- デジタルトランスフォーメーションでビジネスモデル変革を

An information highway with binary numbers streaming across a city scape: Japan’s Ministry of Economy, Trade and Industry is incentivizing digital transformation.

「2025年の崖」をチャンスに変えるべく、企業の先駆的なDXの取り組みが本格化しています。 Image: Getty Images/iStockphoto

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
  • 日本企業のデジタルトランスフォーメーションが進まない場合、2025年移行、最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性があると、経済産業省は警鐘を鳴らしています。
  • 「2025年の崖」と呼称されるこのリスクをチャンスに変える企業の取り組みが本格化しています。
  • デジタル技術をビジネスや社会における変革の重要な推進力として活用するためには、官民連携が不可欠です。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の妨げとなる「2025年の崖」問題を目前に控え、企業によるビジネスモデルの変革がますます急務となっています。経済産業省は、「レガシーシステム」と呼称される、老朽化、複雑化、ブラックボックス化したITシステムから企業が脱却できなければ、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済損失が生じるという可能性に警鐘を鳴らし、この危機を「2025年の崖」としています。

このリスクをチャンスに変える企業の取り組みが本格化しています。

DX先進企業による画期的な取り組み

ファーストリテイリングは、衣類の原材料から最終商品まで、サプライチェーン全体を可視化・一元管理することで、サステナビリティ経営の実現を目指しています。サプライチェーンの各段階に関わるサプライヤーや取引先工場などが、産地、品質などの情報をプラットフォーム上に登録し、同社の社員が随時それを確認することで、商品を企画する段階で原材料産地や品質、規格などをトレースして指定することができる仕組みを構築しました。

サプライチェーンの上流に位置する原材料の生産工程までを把握することで同社が目指すのは、人権や環境へのリスクを早期に検知する持続可能な調達。こうしたシステムは、必要な原材料の安定調達と商品の安定供給を確実なものとし、顧客に最高の価値を届けるサプライチェーンを実現しています。

国内の自動販売機市場のシェアが業界第2位のサントリー食品インターナショナルは、効率の良い自販機の収益性向上を目指し、自販機とAI(人工知能)を連動させた「AIコラミング」を展開しています。同システムは、自販機ごとに投入する飲料アイテムと在庫数の最適化をAIが行うというもの。自販機に無線を取り付けて、在庫状況を常時把握することで欠品を減らす一方、需要予測の精度を高め、より売れる飲料アイテムを売れるタイミングで売れる場所に配置し、自販機ごとに異なる顧客ニーズに効率よく応えています。

中外製薬は、ヘルスケア産業のトップイノベーターになるという目標を掲げ、競争力の源泉である創薬技術力を強化しています。一般に、新薬開発の成功率は2万3,000分の1と言われ、10年以上の期間と数千億円の費用がかかるとされる中、デジタル技術の活用で創薬プロセスの効率を高めることは、製薬会社の喫緊の課題です。同社は、病気の原因となる遺伝子の同定や新薬の候補となり得る抗体、分子の創出、それら分子の評価という開発プロセスの各段階にAI技術を導入し、新薬開発の成功率の向上と、開発から販売に至るまでの時間やコストの大幅な削減を目指しています。

ChatGPTなどの生成AIを用いた企業の業務変革も進められています。伊藤忠は、全従業員が生成AIを自由に活用できる環境整備を目指し、2023年7月に、同社オリジナルの社内向け生成AIサービス「I-Colleague」をリリースし、従業員の業務ツールとして社内展開しています。業務の効率化と同時に、全従業員の生成AIの活用能力を高めることで、新規事業開発やビジネスモデルの変革を見据えています。

産業界のDX推進を後押しする政府

2020年、経済産業省は、DX推進に向けて企業や経営者が取り組むべき事項を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」を公表しました。同取り組みでは、DXを「企業がビジネス環境の厳しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義。企業価値の向上や競争力強化に向け、DXによるビジネスモデルの変革に積極的に取り組む東証上場企業を「DX銘柄」として認定しています。

また、大企業に比べ、DXの進展が遅れる傾向にある中小企業の取り組みを支援するため、DX実現に向けた経営課題の可視化から、専門家への相談や今後のアクションの策定までを支援するポータルサイト「みらデジ」を展開。中小企業が、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際にかかる費用の一部を補助しています。

デジタル革新と多様な人々の創造力を融合

世界経済フォーラムの白書「Digital Transition Framework: An action plan for public-private collaboration(デジタルトランスフォーメーション・フレームワーク:官民連携に向けたアクションプラン)」は、デジタル技術をビジネスや社会における変革の重要な推進力として活用するためには官民連携が不可欠であるとし、政策立案者やビジネスリーダーによる対話と行動を促進する包括的なフレームワークを提供しています。

ダイナミックで持続可能かつ革新的な経済を構築し、包括的な成長を実現するためのエンジンとなるDX。その勢いを加速させるためには、既存の社会や組織の仕組みを再構築し、官民の総力を結集させた上で、デジタル革新と分野や立場を超えた人々の創造力を融合する必要があります。

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