日本のマイナス金利時代に幕、チーフエコノミストの解説
日本は、マイナス金利政策を維持した世界で最後の国でした。 Image: REUTERS/Issei Kato
- 3月に、日本は8年間続いたマイナス金利政策に終止符を打ちました。
- マイナス金利とは、中央銀行が経済成長を刺激し、デフレと闘うための手段です。
- SOMPOインスティチュート・プラスのエグゼクティブ・エコノミストである亀田制作氏は、日本におけるマイナス金利を「長年続いた異例の大規模金融緩和における異例な一形態」だったと指摘しています。
2024年3月、日本銀行は金利を引き上げ、日本の歴史的マイナス金利時代に終止符を打ちました。
短期金利の0~0.1%への引き上げは、7対2の多数決で決定。これにより、これまでマイナス0.1%だった金利が引き上げられ、日本では17年ぶりの利上げとなりました。
マイナス金利とは、中央銀行が経済成長を刺激し、デフレと闘うための金融政策として利用されるもので、市中銀行や金融機関が多額の準備金を保有することに対して課されます。マイナス金利の結果として、銀行は貯蓄をするのではなく、経済に対して支出や貸出を行うように促されました。
デフレ圧力に直面していた2014年、欧州中央銀行は、主要な中央銀行として初めてマイナス金利を導入。その後、2016年の日本を含む複数の中央銀行がこれに続き、金利をゼロ以下に引き下げました。今回の決定で、日本はマイナス金利政策を終了する世界で最後の国となりました。
賃金の伸び悩みなどのデフレ圧力に直面してきた日本経済には、ここ数か月で健全なインフレの兆候が見られるようになりました。政策変更を発表する声明の中で、日本銀行は、景気は「緩やかに回復」しており、「賃金は今後も着実に上昇する可能性が高い」と述べています。イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)も廃止。さらなる利上げが期待できるかどうかは示しませんでした。
以下のQ&Aでは、SOMPOインスティチュート・プラスのエグゼクティブ・エコノミストである亀田制作氏が、マイナス金利の根拠や政策の影響について解説します。
日銀は、なぜマイナス金利政策を維持したのか
「当時予想されていた中国の景気減速によるショックに対して、量的・質的緩和(QQE)を強化するための措置でした。しかし、日本におけるマイナス金利政策は、長年続いた大規模な金融緩和の中の、異例な一形態に過ぎません。超低金利の歴史はもっと古く、1990年代末までさかのぼります。
日銀がゼロ金利政策を決定したのは1999年。それ以来、短期政策金利はゼロであれ、ゼロ近傍であれ、わずかなマイナスであれ、極めて低い水準で推移してきました。例外は2006年から2008年までの短期間で、政策金利は0.25~0.5%と低いながらもプラスでした。2008年のリーマン・ショックの後、政策金利は再びゼロに近いレベルに戻りました。
日本における長年の超低金利は、日本経済が過去20年間、長期停滞と、緩やかながらも持続的なデフレに苦しんできたことを反映しています。
課題は構造に深く根差したものでした。(1) 1990年代のバブル崩壊とその傷跡、(2) かつてどの先進国も経験したことのない急速な人口減少と高齢化、(3) 中国の台頭とそれに伴う安価な輸入品の増加。これらすべてが相まって、日本の経済成長とインフレに甚大な悪影響を及ぼしました。
こうした新しい環境の下で、非製造業の中小企業は非正規雇用を増やすなどしてコストを削減し、事業を維持しました。この戦略は、しばらくの間は国内経済の「現状維持」に成功しましたが、新しいビジネスや価値を生み出すイノベーションが阻害され、低賃金・低価格の均衡に陥ったことは、将来の成長にとって致命的な誤りでした。この状況は、つい最近まで変わっていませんでした」。
なぜ今、日銀はマイナス金利政策を終了するのか
「この根本的な政策変更を引き起こした主な要因が、政策決定会合の数日前に判明した2024年の春季賃金交渉の好結果であることは明らかです。
日本労働組合総連合会(連合)が対外公表した第1回集計結果によると、平均ベースアップは3.7%で、すでに歴史的な高水準であった2023年春の2.3%から加速しました。この賃金上昇率は現在のインフレ率も上回っています。日本の2024年2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比2.8%の上昇を記録しているからです。
日銀は、こうした賃金の結果や、自らの支店網を通じてもたらされた企業ヒアリング情報に基づき、賃金と物価の好循環を確認しています。これは、2%の物価安定目標を達成するために不可欠な条件でした。
また、日銀は、マイナス金利政策とQQEを伴う量的・質的緩和は『役割を果たした』とも述べています。しかし、2024年と2023年における賃金の急上昇は、大胆な金融緩和よりも、むしろ外部環境の変化によってもたらされたことに注意すべきです。
新型コロナウイルスのパンデミック後に起きた世界的なインフレと消費のペントアップ需要が、日本でもコストプッシュ・インフレを引き起こし、政府や主要産業団体からの強い掛け声効果もあって、名目賃金を押し上げました。マイナス金利を含む金融政策は補助的な役割を果たしましたが、それだけでは現在の賃金・物価上昇の勢いを生み出すには不十分だったでしょう」。
今後の日銀の金融政策や日本経済に与える影響
「今回の政策変更は、大胆な金融緩和の出口に近づくという象徴的な意味はあるものの、金融市場や日本経済への直接的な影響は小さいと考えられます。
日銀は、今回の声明文の中で『当面、緩和的な金融環境が継続する』と強調しました。この文言は、量的緩和継続の決定とともに、次の利上げに向けた動きがすぐには表れないことを示唆するものだと、多くの市場参加者に受け止められています。
短期政策金利の上昇はごくわずかで、長期金利はほとんど動かなかったことから、経済への直接的な影響も、当然軽微でしょう。一方、現在の非常に緩和的な政策スタンスは、今後発表されるデータ、特に、賃金とサービスインフレに関するデータ次第では、予期せず反転する可能性があることを念頭に置く必要があります。
2024年春の賃金交渉が極めて強い結果となったことは、日銀がマイナス金利から脱却するには十分すぎる理由となりました。しかし、そのことは同時に、日銀が現在想定しているよりも早く、サービス部門のインフレ率上昇という上振れリスクを顕在化させる可能性もあります。もしそうなれば、近い将来に政策スタンスの予期せぬ変化が生じ、金融市場や経済にとってマイナス要因となるかもしれません。
最後に、日本では劇的な変化が見られているものの、今のところその変化は主に賃金と物価という名目ベースでのみ進行しています。かつてのデフレは日本経済の長期停滞の原因のひとつかもしれませんが、唯一絶対の理由ではありません。日本では、今後も急速な高齢化が進むほか、デジタル投資やその広範な利用といったイノベーションは他の先進国に遅れをとっています。実質ベースでみた日本経済の課題は依然として残っているのです」。
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