健康の公平性を改善 - 都市が果たす役割
コロンビアのボゴタでは、都市の密度が健康の公平性を高める利点として利用されています。 Image: REUTERS/John Vizcaino
- 社会的に脆弱な立場にある人々の健康と、健康の公平性を改善するには、健康の社会的決定要因に対処する必要があります。
- 健康の公平性の促進や健康格差の是正における、都市の役割を指摘する研究や実践が増えています。
- 健康格差に対処するための場所に根ざした戦略は、脆弱な立場にある人々にとって意味のある改善につながります。
社会的に脆弱な立場にある人々の健康と、健康の公平性を改善するには、健康の社会的決定要因に対処する必要があります。米国では、健康アウトカムの中で医療が占める割合は10~20%に過ぎず、教育や所得などの社会的決定要因が残りの80~90%を占めると推定されています。
しかし、場所に根ざした介入は、根強い健康格差が存在したとしても健康アウトカムを改善できる可能性があることが示されています。健康の公平性を促進する、あるいは健康格差を是正する上で、都市が果たす役割を指摘する研究や実践が増えているのです。世界人口の56%が都市に住み、健康の社会的決定要因のいくつかが、機会、環境的健康、近隣地域や物理的環境、食料へのアクセスなど、都市の要因と直接結びついているためです。
そのため、十分なサービスを受けていない人々がよりよいサービスへアクセスできるよう、健康アウトカムの良し悪しが生じる真の要因を特定することが重要です。
場所に根ざした戦略は、健康格差に対処し、脆弱な立場にある人々にとって意味のある改善に導くことができます。
場所に根ざした戦略が鍵となる理由
ニューヨーク市では、2019年以降、市民の平均寿命が82.6歳から78歳に低下しました。健康格差があるとは、近隣の郵便番号区域に居住する集団間で平均余命の差が10年あることを意味します。
最初のデータ分析では、市内居住者の心血管疾患リスクと、高等教育、通勤時間、健康保険の有無、賃貸料、インターネットアクセスなどの社会的決定要因との間に強い相関関係があることが明らかになりました。
どのデータポイントが健康リスクと相関しているかを理解することは、介入策を効果的に調整するための鍵となります。
この傾向を逆転させる決意をした市当局は、「HealthyNYC(ニューヨークを健康に)」キャンペーンを開始。ノバルティス財団と協力して、ニューヨーク市での全死因の87%を占める非感染性疾患(NCDs、糖尿病や心血管疾患など)の背後にある行動的・社会的決定要因を明らかにしようとしています。
都市レベルでデータを活用
健康アウトカムに影響を及ぼす非臨床的要因を理解する鍵となるのは、データ主導のアプローチです。このデータを都市と連携して活用することで、都市の政策、計画、パートナーシップのための意思決定支援ツールを作成できます。
ノバルティス財団の「AI4HealthyCities(健康な都市をつくるAI)」イニシアチブは、医療システムと健康に影響を与えるセクターからのデータを組み合わせ、高度な分析とAIを適用して、慢性的な健康リスクと健康格差の要因に関する洞察を意思決定者に提供します。ノバルティス財団は、マイクロソフトの「AIフォー・ヘルス(AI for Health)」と協力し、ヨーロッパ、アジア、北米の6都市でこのアプローチを試行しています。
重要なのは、ニューヨーク市で試行されているように、モデルを利用して特定の介入策、例えば、運動促進や肥満対策のための公衆衛生キャンペーン、低所得世帯のインターネットアクセス強化、緑地への公共アクセス改善などの、影響やコスト削減を予測できることです。これまでは、特定の状況や集団に対して健康への影響を最大化するために、どのような要因の組み合わせに取り組むべきかを示唆する包括的なエビデンスに基づくデータは存在しませんでした。
ただし、やるべきことは膨大です。最も大きな課題は、適切なデータセットへのアクセスでしょう。多くの場合、データは、国、セクター、データベースに分散しています。また、データのプライバシーは重要な優先事項です。最良の洞察は、社会的決定要因に関するデータを個人レベルの健康アウトカムとリンクさせることによって得られます。そのためには、政府がデータをリンクさせ、匿名化し、プライバシーを保護しながら利用できるようにする必要があるのです。
ノバルティス財団は、健康アウトカムの主な要因に対処する革新的な介入策をテストすることで、データから得られた洞察を検証し、その後、健康の公平性を中心とした新しい集団健康ロードマップを設計することを目指しています。AI4HealthyCitiesに参加する各都市は、データの洞察を行動に移し、検証に成功した介入策を拡大することに合意しています。
近接性と密度の活用
コロンビアの首都ボゴタに住む女性の3分の1(120万人)が、無報酬の介護労働をフルタイムで行っています。こうした介護者は、多くの場合、介護対象者に全面的に依存されているため、家を出ることができず、いわゆる「時間の貧困」に陥っています。
彼女たちは、街で最も弱い立場に置かれています。その90%は低所得で、70%は中等教育を受けておらず、33%がセルフケアのための自由な時間を奪われ、経済的に自立している割合はゼロです。
しかし、もし賃金が支払われれば、このような女性たちはボゴタ市のGDPの13%、コロンビアのGDPの20%を占めるようになるでしょう。一方、25万人以上の女性たちが、ほとんどが自分たちの力ではどうすることもできない理由で病気になり、苦しんでいます。
クラウディア・ロペス氏が、ボゴタ初の女性市長に選出されたとき、彼女の野望はコロンビアの首都を「介護都市」に変えることでした。介護の負担のために120万人の女性が、重要なサービスにアクセスするために家を出ることができないのであれば、当局は代わりに街とそのサービスを彼女たちに提供しなければならないと考えたのです。
ロペス市長は、「ケア・ブロック」プログラムを立ち上げました。「ケア・ブロック」とは、女性のためのさまざまなサービスや活動を集中的に提供する市の区域のことで、市場価値のあるスキルを向上させるための職業訓練や教育訓練、心理的支援や法的支援、エクササイズやダンスのクラス、自転車や水泳のレッスン、無料のランドリーサービスなどが含まれます。
「ケア・ブロック」のサービスは、介護をしていることで生じる障壁を取り除き、介護を受ける人に専門的なケアを提供します。すべてが徒歩15~20分以内で簡単に利用でき、自宅からも近い場所にあります。
ボゴタの「ケア・ブロック」は、ジェンダーに焦点を合わせ、助けが必要な人に手を差し伸べるクラスター・アプローチの先駆けとして、密集した都市環境の強みを活かしています。ボゴタ市は、すでに21か所の「ケア・ブロック」を開設しており、2035年までに45か所を新設することを目標としています。また、農村部や周辺地域に住む介護者や介護を受ける人に手を差し伸べるため、2台の介護バス車両にも投資しています。
「ケア・ブロック」が目標とするアウトカムは、次の「3R」に基づくものです。
- 介護者の社会への貢献を認識(Recognize)する。
- 介護の仕事を女性と男性の間でより公平に再配分(Redistribute)する。
- 介護者の負担を軽減(Reduce)し、介護のための生活や健康の犠牲をなくす。
都市は健康の公平性に関わる課題の源と見なされがちですが、都市の近接性と密度を利用して健康格差をなくすことで、最も脆弱な社会集団を支援することができます。
空間的な介入とデータの活用により、パブリックセクター、企業、市民社会のリーダーたちは、社会的に最も脆弱な立場にある人々の健康アウトカムを改善するために、都市という大きなスケールで活動することができるのです。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月8日