自然と生物多様性

データから意思決定へ:テクノロジーが1兆2,000億ドルの気候変動課題を解決する

Sheep graze during the annual shepherd festival on the Gemmi pass: Climate data can help decision making for businesses in the short and long term.

気候データは、短期的にも長期的にも企業の意思決定に役立ちます。 Image: REUTERS/Pascal Lauener気候データは、短期的にも長期的にも企業の意思決定に役立ちます。

Himanshu Gupta
Chief Executive Officer, ClimateAi
  • 気候リスクは、ビジネス上の損失に直結します。企業はより有用なデータとデータ主導の意思決定により、気候に関する課題の影響を軽減することができます。
  • 新たな気候テクノロジーには、リモートセンシング技術、AI駆動モデル、IoTデバイスなどがあり、より有用なデータの取得に役立ちます。
  • 気候関連データと業界固有のデータを意思決定戦略に統合することで、短期的または長期的なアクションに役立てることができます。

過去12万年で最も暑い夏を経て、気候変動への警鐘が鳴り響いています。

しかし、気象パターンの変化から海面上昇、自然資本、インフラ、事業、サプライチェーンを脅かす環境への影響に至るまで、企業は温暖化する地球がもたらす深刻なリスクをまだ十分に考慮し切れていません。CDPの「グローバルサプライチェーンレポート」によると、気候変動リスクは、今後5年以内にサプライヤーに1兆2,600億ドルの収益損失をもたらす恐れがあります。

これらの要因に加え、地政学、戦争、インフレが企業の売上と利益に大きな影響を与えています。ただし、平和が訪れインフレが落ち着いても、気候変動は続くため、サプライチェーンにおける気候変動リスクの軽減とレジリエンス(強靭性)の構築が急務となっています。

企業のリーダーたちは、気候変動リスクを軽減したいとしつつも、そこには様々な要因が複雑に絡み合っています。中でも、気候変動に関して企業の抱える二つの大きな課題は、データと、それに続くデータ主導の意思決定です。

先進的なビジネスリーダーたちは、先端技術の活用から新たな協力体制の構築まで、こうした課題に積極的に取り組んでいます。

気候データと意思決定の課題

企業の意思決定者は、自社のリスクを理解し、レジリエンスを高めるために、アクセス可能で信頼性が高く、状況に応じた気候情報を必要としています。しかし、気候データは見つけにくく理解しにくいため、意思決定に取り入れるのが難しくもあります。

多くの場合、企業は業務上および戦略上の意思決定を行う際に、今までの事例や過去のデータに頼っています。しかし、気候変動は今ここに存在するものであり、広範で新たな不安定要素を生み出しています。しかも、過去はもはや未来を予測する上で信頼に足る材料ではありません。つまり、企業が戦略を設定・運用する上で、知識に大きなギャップがあるのです。気候変動が加速し、さらに極端な影響を及ぼす中、業界のリーダーたちはこの複雑な課題に取り組まなければなりません。

一般的に、気候変動を原因とし、企業とそのサプライチェーンに最大のリスクをもたらす異常気象に関するデータは不足しています。そもそも、このような現象は稀なもの。信頼性の高い衛星テクノロジーが運用され始めて50年ほどしか経っていないため、過去にさかのぼって利用できる観測データは多くありません。したがって、記録された事例はほんのわずかに見えるでしょう。しかし、こうした異常気象の極端な事例は、過去20年の間、気候変動が悪化するにつれて一般的になってきています。

ビジネスのための気候データ改善

より多くのデータにアクセスするために、企業は、近年著しく進歩した新たな気候テクノロジーを活用し、より正確で包括的な測定を行えるようになりました。これには、センサーやカメラを搭載した衛星や航空機、ドローンを使って地表のデータを監視・取得するリモートセンシング技術などがあります。

また、ウェザーステーションや環境センサーといったIoTデバイスを使用することもできます。さらに、機械学習やAI(人工知能)アルゴリズムを活用した高度な気候モデルで、膨大な量の気候データを処理し、従来の分析では明確でなかったパターンや傾向、相関関係を特定。これらのテクノロジーは、気候データ処理を強化し、予測モデリング作業を身近な方法でサポートします。

ChatGPTのような新時代の生成AIモデルと同様に、AIベースの気象・気候予測モデルは、過去のデータではなくシミュレーションされた気候データで学習し、これらの学習結果を観測データに転送することができます。何世紀にもわたる異常気象をシミュレートし、より正確なデータを得ることで、この種の事象について学習するのです。学習結果は将来の予測に利用します。例えば、高度な予測ツールによって米国におけるハリケーンシーズンの移り変わりのパターンを明らかにし、事業拠点、サプライヤー、主要港に対する長期的なリスクについて、企業に重要な洞察を提供することができます。

行動につながる気候データを活用することで、企業は、気候変動がもたらす世界の気温、降水量などのパターンの大きな変化に備えることができます。

クライメートAI最高経営責任者、ヒマンシュ・グプタ氏

気候データを意思決定へ統合

有用な気候データを得られたら、企業はこれを意思決定戦略に統合する必要があります。先進的な気候ツールは、業界固有のデータを考慮することで、このデータを企業にとって最も重要な影響に変換します。

例えば、農業に適用する場合、天候や気候条件だけでなく、作物のフェノロジー(生物季節)や場所固有の特性もモデル化するAIが、農業関連企業が気候に配慮した意思決定を行うのに役立ちます。これは、雨を避けて作付けの時期をずらすといった短期的な行動や、将来の干ばつに対処するために特定の種子形質を開発するといった長期的な取り組みが可能になることを意味します。

行動につながる気候データを活用することで、企業は気候変動がもたらす世界の気温、降水量などのパターンの大きな変化に備えることができます。調達、契約、需要計画、ロジスティクス、長期的な投資や戦略に関する意思決定など、より適切な経営上の意思決定を可能にする上で、ビジネス特有の気候変動の影響を理解することが重要なのです。

気候データと意思決定の実践

気候データとテクノロジーは、ビジネスの継続性を確保し、新たな機会を獲得する上でも役に立ちます。例えば、ハリケーンの季節になると、企業はAIベースの気候予測テクノロジーを利用して、販売や調達地域への影響を分析し、リスクの高い商品を特定し、サプライチェーンの安全を確保するために企業が取るべき行動を特定します。

2022年の事例では、ある建築資材メーカーが気候ツールを使用して、来るハリケーンシーズンによる建築資材需要への影響を評価し、供給計画の改善に役立てました。9月にフロリダでハリケーンが襲来するリスクが大幅に高まり、被害が発生する可能性とそれに伴い屋根材製品の需要が高まるという予測を入手した同社は、これを受けて戦術的な決定を調整し、準備を整えることができました。

実際にハリケーンがフロリダに向かうことがわかると、同社は近隣の施設にリソースを集中し、フロリダ特有の屋根材の生産を増強しました。そして、ハリケーン「イアン」がフロリダに接近し始めて他の多くの企業が足止めを食らう中、迅速に行動して需要増に対応できたのです。気候に関するこの洞察は同社にとって有意義なものであり、同社は大きな市場シェアを獲得して、被害を受けた地域社会の早期復興に貢献しました。

異常気象の状況下で、テクノロジーはビジネスにとって重要なツールとなります。その力を活用することができれば、企業は、前例のない新たな環境とビジネス環境に適応することができるでしょう。

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