混乱、偽情報、分裂の時代を乗り切るために
グローバルリスク報告書2024年版では、今後2年間のトップ10リスクの上位3位に、誤報と偽情報、異常気象、社会の二極化が挙げられています。
人類の歴史は大きな混乱期を迎えています。温暖化する地球、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の波及、過去数十年で最も困難な経済・地政学的状況を背景に、私たちは、新たな低成長、低投資、低協力の時代が到来する可能性に直面しています。
世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書2024年版」では、こうした地球規模の喫緊の課題がもたらすリスクの詳細が示されています。本報告書は、約1,500人のグローバルリスクの専門家、政策立案者、業界のリーダー(グローバルリスク・コンソーシアム)に対して行われた調査結果に基づくものであり、現在世界が直面している最大のリスクを、異常気象、偽情報、社会の二極化であるとしています。これらのリスクは2年先まで継続するもので、誤報と偽情報が異常気象を抜いてトップとなっています。また、国家間の武力紛争も挙げられています。
誤報と偽情報がトップとなった理由に、高度化するテクノロジーへのオープンアクセスが急増し、情報や制度に対する信頼が低下する中で、操作された情報がそのディスラプティブ(創造的破壊)な能力を急速に拡大していることが挙げられます。2023年に見られたような生成AI(人工知能)コンテンツのブームは今後も続き、様々なアクターがこの傾向を利用して、社会の分裂を増幅させ、イデオロギー的暴力を扇動し、政治的抑圧を行おうとするかもしれません。
今後2年間で、米国、インド、英国、バングラデシュ、メキシコ、パキスタン、インドネシアなど、いくつかの経済圏で約40億人が投票所に足を運びます。選挙プロセスにおける誤報や偽情報の存在は、新たに選出された各国政府の実質的・認知的な正当性を不安定にするリスクがあります。また、人心の操作を目的とした選挙キャンペーンは民主的プロセス全体を弱体化させる可能性があります。
さらに、誤報や偽情報と社会の二極化は本質的に絡み合っており、互いに増幅し、増大する懸念があります。実際、二極化した社会では、真偽はさておき人々は自分の信念を裏付ける情報だけを信用しがちです。それゆえ、誤報や偽情報が政治的な立場だけでなく、現実の認識においても社会を二分してしまう可能性があるのです。感情やイデオロギーが事実を覆い隠してしまえば、公衆衛生から社会的正義、教育、環境まで、様々な課題に関する操作的なナラティブが世論に浸透する可能性があります。改ざんされた情報が反感を煽った結果、職場における偏見や差別から、暴力、ヘイトクライム(憎悪犯罪)に至るまでが起こり得ます。
こうした傾向は、インフレリスクが抑制されつつも多くの人々が経済的な苦境に直面している時期に強く現れています。そして、経済的な苦境、誤報と偽情報、社会の二極化といった強い影響力を持つ組み合わせは、多くの社会で課題を生み、継続的な対立、不確実性、一貫性を欠く不安定な意思決定の要因となる可能性を生むのです。
このことは、長期的な展望にも大きな影響を及ぼしています。「グローバルリスク報告書2024年版」によると、今後10年間のリスクトップ3は、異常気象、地球システムの危機的変化、生物多様性の喪失といった気候変動に関連するものが独占。第5位には誤報と偽情報、第6位にAI技術がもたらす悪影響、第7位に非自発的移住と続き、社会の二極化も第9位に挙げられています。
短期的および長期的なリスクを同時に管理する上で必要となるのは、イノベーションと信頼できる意思決定であり、それは事実に基づく世界でのみ実現可能です。つまり、誤報と偽情報という差し迫ったリスクに対処することは、今日の社会のためだけでなく、他の新たなリスクを軽減する上でも不可欠なのです。
分断が進む世界では、様々に協力し合って道筋を検討することが幅広いメンタルモデルをもたらし、計画や準備をより良く行うことにつながります。局地的な戦略、ブレークスルーをもたらす取り組み、力を合わせた行動、国境を越えた調整などのすべてが重要な役割を担っています。誤報や偽情報のようなボーダーレスなリスクには、AI時代における責任あるメディアのための基準や原則、AIによって生成されたコンテンツへの電子透かし付与、合成コンテンツに対する新たな法律や規制、市民のデジタルおよびメディアリテラシー、倫理的リーダーシップなど、国を超えた多方面からのアプローチが必要です。
回避できないリスクに備え、回避可能なリスクの発生を防止し、その可能性を低減するためには、グローバルに協力し、できることから行動する必要があるのです。
本記事は、世界経済フォーラム年次総会2024の議論の一環として掲載されたTIMEの記事の和訳を転載したものです。グローバルリスク報告書2024年版はこちら。
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