国家や自由主義的な機関が、信頼を回復するたった一つの方法
世界中の機関で信頼が損なわれています。その解決策は、結果を出すことです。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 米国や欧州を含む世界各地で、国家機関、超国家機関、フィランソロピー(慈善団体)に対する信頼がかつてないほど低下しています。
- リベラルな組織に対するグローバルな信頼危機に、表面的な解決策はありません。
- 信頼を回復するためには、これら機関やフィランソロピーが成果を通じてその価値を示す必要があります。
否定的な世論にさらされているのは、政治家、不動産業者、弁護士だけではありません。今日、さまざまなリベラル組織が、人々の信頼を失ったと非難されています。それは、国連やブレトンウッズ体制のような多国間組織から、国家の民主的な組織やフィランソロピー(慈善団体)に至るまで、あらゆる組織に当てはまります。
これは、私たち全員が懸念すべきことです。国家の信頼レベルの低さは経済発展や各国政府の良い施策の妨げとなります。同様に、信頼不足により、経済的公平性から気候危機まで、あらゆる課題に共通する目標達成に向けたグローバルな取り組みを阻害しているのです。
世界に広がる信頼危機
米国では、主要な国家機関に対する信頼が過去最低か、それに近い水準にあります。EUでも同様の傾向が見られ、この傾向は世界に広がっています。国家間の違いはあるものの、エデルマンの調査「トラストバロメーター」の最新版は、こうした世界的な傾向を「経済不安、偽情報、大衆階級の分裂、リーダーシップの失敗が引き金となった社会制度に対する信頼の欠如」と、言い表しています。
オープン・ソサエティ財団の「オープン・ソサエティ・バロメーター」は、もう一歩踏み込んだ結果を示しています。2023年夏に行われたこの世論調査は、人口55億人を超える30カ国の3万6,000人を対象に実施されました。その結果、58%の回答者が今後1年間の政治的暴力を懸念し、70%が今後1年間に気候変動が自分たちの生活に影響を及ぼすことを危惧していることがわかりました。国際的リーダーシップの主要なカテゴリーの大部分において、回答者の半数以下の信頼しか得られていません。
このことは、信頼が不可欠な民主主義と多国間主義の展望に暗い影を投げかけています。一方、世論調査の結果は明るい兆しも示しています。さまざまな質問に対し、回答者は、依然として民主主義と多国間主義の双方に信頼を寄せていると答えています。また、民主主義と個人の権利、そして、グローバルな多国間協力によるより大きな公平性と理想を支持する回答が大多数を占めました。例えば、開発途上国を支援するために、富裕国は世界銀行にもっと資金提供すべきだと答えた人は68%に上ります。
しかし、その信頼は息切れしつつあります。さらに憂慮すべき点として、若い回答者は年長者に比べて民主主義への愛着がやや薄く、強権的なリーダーシップを信じる傾向がやや強いという結果があります。この結果が、民主主義の兄弟である多国間主義にも当てはまるだろうことは容易に想像がつくでしょう。両主義のいずれの面においても、人々の原則に対する変わらぬ信頼は実践の中で確認される必要があるのです。
成果が信頼を築く
リベラルな組織に必要なものは、広報の改善だけではありません。信頼の危機を、インターネットやソーシャルメディア、権威主義的なポピュリズムの台頭のせいにするのは簡単ですが、それらは原因というよりも症状として捉えたほうがよいでしょう。ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の学術的分析の第一人者であるロバート・パットナム氏は、何でもインターネットのせいにする傾向についてこう述べています。「選挙、寄付、信頼、会合、訪問などはすべて、ビル・ゲイツがまだ小学生だったころには衰退し始めていました」。つまり、その原因は、人々の生活状況や社会の根本的な健全性に根ざしているのです。
そのため、解決策は本質的なものでなければなりません。リベラルな組織に必要なのは、より良い結果を出すことと、広く注目を集めて理解を得ることです。つまり、気候危機や生活費の高騰からAI(人工知能)や無秩序な移民まで、現代の危機を私たちの集団的コントロールの範囲内に戻すための真剣な戦略、個人と集団の権利強化、よりインクルーシブな豊かさなどが必要なのです。特に、個人的、地政学的、経済的、環境的、デジタル的なあらゆる形の「安全保障」を新たに強調することが、信頼への道を指し示すかもしれません。
これが具体的に何を意味するかは、組織によって異なります。1970年代から1980年代にかけて始まったいわゆる「新自由主義の時代」が、それ以前の「ニューディールの時代」と同様、今や崩壊したことを認識している政府には希望があります。経済活動を積極的に進める国家ほど、力を得て多元的な国家になるのかどうか。この未解決の課題はそのままに、次の時代を決める競争が進行しています。こうした現実に目を向けている各国政府は、あらゆる革新的な方法で後継のパラダイムを定義し始めています。
超国家レベルでは、多国間主義は後退しており、直面している規模の危機には力不足だと思われがちです。しかし、前進の道を示しているリーダーたちやコアリション、イニシアチブも存在します。そのことを、最近訪問したアフリカ東部で目の当たりにしました。国際開発協会の中間レビューでは、世界銀行の新執行部のエネルギーとダイナミズムを実感しました。そして、世界最大のNGOとも言われるBRACの年次理事会では、理事会メンバーや職員に同じように感銘を受けました。
あらゆる組織がすべきことは、明るい話題を選び出し、支援を集め、成功を迅速に拡大することです。しかし、ポリクライシス(複合危機)の新陳代謝はますます加速しており、私たちは、次々に起こる出来事に圧倒されそうになっています。
進歩するフィランソロピー
リベラルな組織が直面している信頼の危機に立ち向かうために必要な実質的な変化をもたらす上で、フィランソロピーも重要な役割を担っています。近年、オープン・ソサエティ財団や、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のような財団が疑惑の対象として扱われるなど、フィランソロピーセクターもその危機に苦しんでいます。ここでも答えは「とにかく成果を出すこと」です。
フィランソロピーは、政府、国際機関、企業にはできない驚くべきことを成し遂げることができます。他の団体よりもリスクを取る能力が高いため、危機に対して迅速に動くことができ、長期的な視野で投資を行い、何年にもわたり方針を貫く忍耐強さもあるためです。
能力には責任が伴います。フィランソロピーセクターには、他のセクターにはない自由があります。フィランソロピーは、その自由を活用して達成したインパクトをもとに評価されるべきでしょう。小さな成功を一つずつ積み重ねて、リベラルな組織に対する信頼を着実に回復していきましょう。
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