重工業にグリーン革命を - 脱炭素化に向けた連鎖反応を起こすには
世界の温室効果ガス排出量の大部分を占める重工業。困難と言われますが、脱炭素化は可能です。 Image: REUTERS/Kham
Rana Ghoneim
Chief of the Energy Systems and Infrastructure Division, United Nations Industrial Development Organization (UNIDO)- 重工業は現在、世界のエネルギー使用量の約3分の1、温室効果ガス排出量の4分の1を占めています。
- 重工業の脱炭素化は困難ですが、エジプトで起きたある出来事は、生産量を犠牲にすることなく脱炭素化を実現できることを示しています。
- 気候投資基金(CIF)は、国際連合工業開発機関(UNIDO)と協力し、グローバルな重工業の脱炭素化に連鎖反応を起こそうとしています。
過去10年間、エジプトのカイロでは、気候に関する最も重要なストーリーが人知れず繰り広げられてきました。2014年には、停電が1日平均6回も起こるなど度重なるエネルギー危機に直面したエジプトは、排出量の多い産業のエネルギー使用を制限することを決定。セメント工場と肥料工場への天然ガスの供給をほぼ3分の1に削減しました。その結果、これらの企業は予定外の操業停止と大幅な生産損失に追い込まれます。
しかし、この危機的状況から、ある突破口が開かれました。エジプトで最大手の工業会社、アラビアン・セメントが、エネルギーのより効率的な利用方法を模索し始めたのです。その後数年にわたり、同社は様々なパートナーと連携し、温室効果ガス(GHG)排出量を15%削減する政策を実施。エジプト最大の産業用太陽光発電施設も開設しました。現在、アラビアン・セメントは、年間約3,000世帯分の電力を供給できるほどのエネルギー節約を実現しています。
アラビアン・セメントが成し遂げたカーボンフットプリントの削減は、すべての開発途上国が取り組むべき気候危機への対策の青写真を示しています。私たちは、セメント、鉄鋼、化学といった排出量の多いセクターにおける「通常運転」を変える必要があります。また、急速な成長により変革が起こる可能性が最も高い開発途上国に焦点を当てなければなりません。そして、気候変動資金を活用し、低コストで資金調達することで、これらのプロジェクトを軌道に乗せなければならないのです。
重工業の「通常運転」の終焉
重工業は現在、世界のエネルギー使用量の約3分の1、温室効果ガス排出量の4分の1を占めています。ネットゼロを達成するには、2050までに重工業からの炭素排出量を93%削減する必要があります。現在、重工業生産高の合計の最大90%を占めるのは開発途上国です。これらの国々の工場、施設、機械などの重工業資産は、平均でわずか10~15年と比較的若いため、産業部門をゼロカーボンの軌道に乗せるチャンスがあります。既存の資産を活用し、エネルギーや資源の効率化、材料の循環利用など、段階的なイノベーションを起こすことができるでしょう。
開発途上国における変革的な気候変動対策への資金調達を支援する、気候投資基金(CIF)と、世界の経済・産業開発を支援する国際連合工業開発機関(UNIDO)は、政策、資金調達、影響を受ける関係者の支持という、進展を妨げる3つの相互に関連する課題を特定しました。
開発途上国では、政策上のボトルネックがあったり、産業部門における気候変動対策を可能にする環境が整っていないこともあります。
資金調達は困難であり、融資を受ける際に不利な条件を突きつけられることも珍しくありません。金融機関、特に企業は、潜在的リスクの高い初めてのプロジェクトへの投資に消極的です。
影響を受けるすべての関係者の支持を取り付ける難しさもあります。従来のエネルギー源からクリーンなエネルギー源へと移行するにつれ、何百万人もの雇用や生活が影響を受ける可能性があります。変化に対応し、より環境に配慮した社会の構築を支援するためには、コミュニティが権限を持ち、力を発揮できるようにする必要があります。
脱炭素化への連鎖反応
UNIDOとCIFは、高排出産業分野における新たなパートナーシップ構築のために緊密に連携し、開発途上国全体で気候変動対策の「連鎖反応」を起こすことを目指しています。両者は、このパートナーシップを通じてネットゼロへのロードマップを作成し、資金ギャップをはじめとする既存のギャップの特定に取り組んでいます。そしてその情報をもとに、多国間開発銀行を通じた能力支援や低コストの融資を実施し、公正な移行を実現しながら、これまでにないプロジェクトを軌道に乗せることを目指します。最終的なゴールは、このロードマップを活用して、企業のより大規模な資金調達を可能にする初期の変革プロジェクトを支援し、セクター、地域、そして国全体の成長を促進する好循環を生み出すことです。
このモデルは、開発途上国におけるCIFとUNIDOの活動の長所を組み合わせ、新興市場が直面する気候変動の課題に対応するツールを提供するもので、気候危機に対する私たちの集団的対応に大きな変化を起こすことができます。そして、これを重工業のグリーンエネルギー転換に適用する準備は整っています。実現には、地方自治体、各国政府、多国間開発銀行、金融機関、企業、労働者、市民社会など、多くのステークホルダーが団結する必要があります。
エジプトでの出来事は、大きな財政的損失を伴わず、経済にも悪影響のない脱炭素化が可能であることを示しています。同じことを他の地域で起こせない理由はないでしょう。皆が力を合わせれば、今日の気候変動の課題に対応できるような連鎖反応を起こすことができるのです。
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