未来への飛躍を目指す、日本の半導体産業

日本の半導体産業は、世界の技術を結集し、いまだ実現されていない挑戦に挑んでいます。 Image: Photo by Anne Nygård on Unsplash

Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 日本政府は、半導体の国内での生産体制を強化するため、2023年度の補正予算案に約1兆9,800億円を盛り込む方針を明らかにしました。
  • 日本では、半導体が経済安全保障上の重要な資源として位置づけられ、様々な取り組みが進められています。
  • 優れた技術と、加速する官民連携や国際連携が生み出すイノベーションが、日本の半導体産業の未来を切り拓き、日本経済が好循環に向かう後押しとなることに期待がかかります。

世界経済とサプライチェーンが、パンデミックの影響により混乱する中、車や電化製品の製造に欠かすことのできない半導体の重要性も浮き彫りになりました。日本でも半導体は経済安全保障上の重要な資源と位置づけられ、様々な動きが広がっています。

1988年に50.3%あった日本の半導体産業の世界におけるシェアは、1990年代以降、低下の一途をたどり、2019年には10%にとどまりました。そして、世界的な半導体の供給不足にある今日、「国内の半導体産業を維持、強化することが、我が国の将来と国民の安全にとって重要な戦略になります」と、経済産業省商務情報製作局のデバイス・半導体戦略室長を務める荻野洋介氏は語ります

官民連携で目指す、半導体支援と国内投資の促進

2021年、経済産業省は半導体産業復活に向けた支援戦略を策定し、半導体・デジタル産業を国家事業と位置付けました。同戦略には、「ポスト5G」や半導体の技術革新に向けた2,000億円の「ポスト5G基金」他、カーボンニュートラルの実現に向けあらゆる分野で進む電化・デジタル化の基盤となる半導体の開発・実装を重点分野に含んだ2兆円の「グリーンイノベーション基金」の造成など、大規模な施策も含まれます。また、今年改定された同戦略には、AI(人工知能)向けに電力消費を抑えた半導体の開発支援や、海外企業の誘致を含め日本の半導体製造基盤の強化などが新たに盛り込まれるなど、政府は2030年の半導体関連の国内売上高を、2020年比3倍となる15兆円以上に引き上げることを目指しています

2022年には、トヨタ自動車やソニーグループなど国内大手8社が計約73億円を出資し、自動運転やAIなどに使う次世代半導体の量産を目指す国策会社ラピダスが設立されました。2027年を目処に、回路の幅が2ナノメートル単位の最先端ロジック半導体の開発と製造目指している同社に、政府はこれまで3,300億円の支援を行っていますが、今回の補正予算で新たに5,900億円の支援を決定しています。

政府は、半導体の国内での生産体制を強化するため、2023年度の補正予算案に約1兆9,800億円を盛り込む方針を発表。昨年度の1兆3,000億円から大幅な増額となった今年度補正予算には、半導体受託製造最大手の台湾積体電路製造(TSMC)や、次世代半導体の量産を目指すラピダスの工場整備費用が充てられる予定です。

産業復活に不可欠なのは国際連携

4年後の半導体量産ラインの立ち上げに向け、ラピダスの新工場の建設が北海道千歳市で進んでいます。同社は、先端微細化回路の基礎研究で成果を上げている米IBMや、先端半導体に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置で世界首位であるオランダのASMLとコンソーシアムを組むベルギーの研究機関アイメックと提携。世界の技術を結集し、いまだ実現されていない挑戦に挑んでいます。

半導体のサプライチェーンは複雑であるため、ひとつの国で完結することはできません。このため、国際連携が極めて重要になります。日本は、半導体のサプライチェーンにおいて、製造能力の強化・多様化、半導体不足に対する緊急時対応の協調、研究開発協力を強化することでアメリカと合意し連携を強化すると同時に、EU、イギリス、オランダ、インドとも半導体分野で連携する協力文書を締結しました。

日本の強みを生かす

半導体の製造に欠かすことのできないない素材や製造装置の分野で、日本企業は、素材で56%、製造装置で32%の世界シェアをおさえています。

こうした日本の強みを向上させる取り組みの一環として、企業間の垣根を超えた共同研究プロジェクトも進行しています。次世代半導体の製造に必要な技術開発を加速させるために、2021年に立ち上げられた「JOINT2」には、素材や装置メーカーなど13社が参画。半導体後工程で使う次世代パッケージ材料を共同で開発・評価しています。この取り組みでは、サプライヤー間で技術を持ち寄り、連携して製品や製造プロセスを作り込むことで、素材の提供の迅速化を目指します。

鍵となるのは、リスキリングを柱とした「人手不足」の解消

官民を挙げて活性化する日本の半導体産業の復活に向けたこうした取り組みに、欠かすことができないのが人材確保です。生産技術者など現場人材の不足に苦慮している製造業。半導体産業も例外ではありません。しかし、少子化により若手層の労働人口が減少する中、新卒採用による人材確保には限界があります。そこで鍵となるのは、他産業や他職種で働いている人材に対し、リスキリングの機会を提供した上で、半導体産業への移行を促すことです。

半導体産業が高い生産性や競争力を確立するためには、関連する企業と働き手を同じ地域に結集することも重要です。転居を伴う人材の移動は課題が増えるため、各地域内で実践されることが望ましいとされています。

地域単位での労働移動とリスキリングを実践していく上で欠かすことができないのは、「人材ニーズ」「人材シーズ」「教育リソース」の可視化です。今後必要とされる人材像と現状の人材の実態、不足スキルを明らかにして、そのギャップを埋めるために必要な教育プログラムを具体化していく。これが、リスキリングのための道筋となります。

日本の優れた技術と、加速する官民連携や国際連携が生み出すイノベーションが、日本の半導体産業の未来を切り拓き、日本経済が好循環に向かう後押しとなることに期待がかかります。

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