化石燃料産業からグリーンジョブへ - 労働者の移行に求められる支援
化石燃料産業で働く労働者は、グリーンジョブで活躍するスキルを持っているものの、仕事を変えるためには転居が必要になるかもしれない。 Image: Unsplash/Albert Hyseni
Morgan R. Frank
Assistant Professor of Informatics, University of PittsburghJunghyun Lim
Assistant Professor of Political Science, University of North Carolina at Chapel Hill- 化石燃料産業を支えてきた労働者は、グリーンジョブで活躍するスキルを備えているものの、公正な移行を実現する上で「場所」が障壁となっていると、ネイチャー・コミュニケーションズ誌の新たな研究は明らかにしました。
- 研究者は、化石燃料産業の労働者のニーズが考慮されたグリーンエネルギー政策が立てられるべきだとしています。
- 移転支援、リスキリング、的を絞った雇用創出等がソリューションとなり得るでしょう。
- 世界経済フォーラムの「明日の仕事(Jobs of Tomorrow)」レポートにおいても同様の調査が行われ、グリーン移行を目指した未来の仕事へのアクセスをいかに確保するかについての考察がなされています。
米国が、化石燃料からクリーンなエネルギー源へシフトするにつれ、石炭、石油、ガス産業に従事する労働者が、今後、新たな仕事を探すことになります。
こうした労働者の多くが、クリーンエネルギー産業で新たな仕事に就けるスキルを備えていますが、この移行は容易ではないかもしれません。ネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された新たな研究は、これらの労働者の公正な移行をどう実現するかについての議論でしばしば見落とされる大きな障壁が、「場所」であることを明らかにしました。
私たちが14年間にわたり、化石燃料産業における雇用とスキルのデータを分析した結果、同産業に従事する労働者の多くは、すでに持っているスキルをグリーンジョブに転用することが可能であるにもかかわらず、遠方への引っ越しを伴う転職はしていないことが分かりました。
この結果は、グリーン産業の雇用を創出するだけでは、クリーンエネルギーへの移行を実現するのに不十分であることを示唆しています。新たな仕事は、労働者のいる場所に生まれる必要がありますが、化石燃料の採掘に携わる労働者の多くは、グリーンジョブの拡大が見込まれる地域にはいないのです。
慎重な計画と的を絞った政策がなければ、今後10年で、グリーンジョブに移行することができる化石燃料産業の労働者はわずか2%であると推定されています。それでも、移行をスムーズに進める方法はあります。
グリーンジョブで求められるのは、すでにあるスキル
2019年時点で、米国の約170万人が化石燃料産業の仕事に従事しており、その多くは、テキサス州、ニューメキシコ州からモンタナ州に至る地域、そして、ケンタッキー州からペンシルベニア州に至る地域で働いています。米国が、気候保護に向けてクリーンエネルギーへの移行を進めるにつれ、これらの雇用の多くは消滅するでしょう。
こうした労働者やコミュニティのための、公正な移行の重要性が議論される際に、政策立案者は、スキルトレーニングに焦点を当てる傾向があります。
化石燃料産業を支える労働者のスキルが、グリーンジョブにどのように移行できるのでしょうか。私たちは、発掘工、坑内採掘機オペレーター、その他の採掘作業を含む750以上の職種に必要とされるスキルに関する米国労働統計局のデータを用いて、比較調査を行いました。
過去の研究も示しているように、全体的に化石燃料の採掘に携わる労働者の多くは、グリーン産業で求められるスキルと類似したスキルを持っていることが分かりました。そして、多くの場合、彼らのスキルは他の産業よりもグリーン産業にマッチしています。
また、米国国勢調査局が発表した雇用の流動性に関するデータによると、化石燃料の採掘に携わる労働者が他の部門に移行する場合にも、歴史的に、同様のスキルが求められる職種に就く傾向があるため、彼らは、最小限のリスキリングで新たなクリーンエネルギー関連の仕事に就くことができるはずです。
しかし、データは、化石燃料産業の労働者は雇用機会を得るために遠距離の移動をしない傾向が強いことも示しています。
課題となるのは「場所」
米国エネルギー情報局(EIA)のデータを使って、風力発電、太陽光発電、水力発電、地熱発電プラントの現在の所在地をマッピングしたところ、これらの現場は、化石燃料産業に従事する労働者がいる場所とほとんど重複していないことが分かりました。
また、米国労働統計局の予測によると、2029年までにグリーンジョブが生まれる可能性のある場所も、現在化石燃料労働者がいる場所とほとんど重なっていません。
複数のグリーン雇用に関する予測や、「化石燃料」関連職の定義が異なる場合にも、同じ調査結果が導き出されました。このことは、公正な移行を進めるにあたり憂慮すべきことです。
政策立案者による介入
この調査結果は、政策立案者が立てるべき2つの戦略を示唆しています。
まず、化石燃料産業の労働者の移行を支援するインセンティブやプログラムの導入は、検討の価値があるでしょう。しかし、私たちの分析が示すように、これらの労働者は地理的な移動をしない傾向があることが課題です。
または、化石燃料産業のある地域を事業の立地に選んだグリーン産業の雇用主に、インセンティブ与えることも一つの方法です。グリーンエネルギーの生産は、風が最も強く吹く場所、太陽光発電が最も効果的な場所、地熱発電や水力発電が利用可能な場所に依存することが多いため、これは簡単なことではありませんが、検討の余地があります。
私たちは、グリーン産業における新たな雇用の創出を、二つの異なる方法でシュミレーションしました。一つは、化石燃料産業のある地域を対象としたアプローチ、もう一つは、ターゲットを全米に均等に広げたアプローチです。その結果、化石燃料からグリーンジョブへの移行を大きく進展させたのは、前者の的を絞ったアプローチでした。例えば、勤務地を考慮した雇用を100万件創出した場合、勤務地を考慮しない雇用を500万件創出した場合よりも、より多くの移行を生み出すことが判明したのです。
米国における既存の他の部門に関して同様の分析を行った結果、建設および製造業の雇用は、化石燃料産業の労働者がいる地域にすでに存在し、リスキリングの必要性が少ないことが判明しました。これらの地域で製造業の拡大をサポートすることは、公正な移行を後押しするために必要となる新たな雇用主の数を抑えることにつながります。ここにクリーンジョブは介在しませんが、よりシンプルで効果的なソリューションとなり得るでしょう。
新しい仕事の給与水準や、建設期間中に限らず雇用が継続されるかといった点も、化石燃料産業の労働者が抱える懸念事項です。効果的な政策介入を評価するためにはさらなる研究が必要ですが、私たちの研究は、異なる地域の化石燃料産業労働者が直面する固有の課題を考慮した、公正な移行への包括的なアプローチが必要であると強調しています。
こうした障壁を取り除くことで、米国は、環境的にサステナブルかつ社会的に公正なグリーン経済への移行を確実なものとすることができるでしょう。
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