男性育児休業が、社会をシフトする鍵となるか
男性の育児休業取得率の上昇は、日本におけるジェンダーギャップを埋める鍵となるでしょう。 Image: Unsplash/Brittani Burns
- 日本における2022年度の男性育児休業取得率が17.13%と過去最高になり、男性の育児参加が進んでいます。
- しかし、育児休業を歓迎しない職場の雰囲気や、人手不足、周囲に迷惑をかけることへの後ろめたさなどを理由に、優れた制度があっても、男性が育児休業を取らない、または取りづらいといった課題はいまだに残されています。
- 男性の育児休業取得が、家庭にとっても企業にとっても自然である社会を構築することは、ジェンダー・パリティ実現へのレバレッジポイントになり得るでしょう。
男性の育児休業取得率は、2022年度の厚生労働省による調査において、5人以上を雇用する全国の3,000余りの事業所から回答では、前年度より3.16ポイント上昇して17.13%となり、過去最高に達しました。また、従業員1,000人を超える大企業における男性育児休業取得率は、46.2%という結果が出ています。そして、育児・介護休業法が改正され、2022年10月より男性が育児休業を取りやすくする新制度「産後パパ育休」が始まり、男性の育児参加を促進する傾向が顕著です。
法改正が後押しする、男性の育児参加
男性の育児参加が少しずつ進んでいる背景には、2022年4月から、段階的に行われてきた改正育児休業法の施行により、育児休業制度の周知や取得意向の確認などが企業に義務付けられたこと、また、分割して育児休業を取得できるようになったことなどがあります。特に、最長で子どもが2歳になるまで、夫婦どちらでも取得することができる既存の育児休業制度に加え、子どもの生後8週間以内に4週間まで男性が育児休業を取得することができる「産後パパ育休」制度の導入により、男性が育児に専念できる環境整備が進んでいます。
日本の育児休業制度の充実度は、こうした法改正以前から世界で高く評価されてきました。2021年にユニセフが発表した報告書によると、経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)のいずれかに加盟する41カ国の育休・保育政策等を評価したランキングでは、日本の育児休業制度充実度が1位となりました。その理由は、父親に認められている育児休業期間が最も長く、休業給付金額が最も高いこと。一方で、他国と比較して取得率が低いことが同報告書では指摘されています。
企業の役割
優れた制度が有効に活用されるためには、企業の役割も極めて重要です。今年3月以降、上場企業は、有価証券報告書に、人材育成や働きやすい社内環境整備の方針といった人的資本に関する情報の記載が義務付けられるようになりました。中でも、働きやすさやウェルビーイング(幸福)につながる重要な指標として、男性の育児休業取得率の公表が含まれたことは、この制度改革の注目すべき点です。
制度があっても男性が育児休業を取らない、または取りづらいことが、日本が抱える課題の特徴です。その背景にあるのは、育児休業の取得を歓迎しない職場の雰囲気や、人手不足、業務の属人化など、企業が抱える課題。また、仕事を離れることで周囲に迷惑をかける後ろめたさや、今後のキャリア形成に悪影響になるといった男性本人の懸念があります。こうした課題の解決には、意識改革や、一定期間欠員が生じても業務に支障が出ない体制の整備などを、企業がこれまで以上に進めていくことが求められます。
政府は、男性の育児休業取得の目標を大幅に引き上げることを表明していますが、取得率の向上だけでなく、取得日数が増えることも極めて重要です。取得率が伸びたとしても、わずかな日数であれば、実態として、中身の伴った男性育児休業が実現しているとは言い難くなるでしょう。こうした点においても、男性がためらうことなく十分に育児休業を取得できるよう、国の制度改革と足並みを揃えた雇用環境の整備が、企業に課された重要な責任となります。
日本の働き方をアップデートする取り組み
積水ハウスは、2018年より、3歳未満の子どもを持つすべての男性従業員を対象に、1ヶ月以上の育児休業完全取得を推進。休業期間中の最初の1ヶ月を有給とする独自の制度を運用し、現在まで、取得率100%を継続しています。こうした取り組みのきっかけは、同社の代表取締役社長が、視察先のスウェーデンで男性の育児休業取得率の高さを目の当たりにしたこと。育児休業から復帰した男性従業員への待遇を保障することや、復帰後も育児のための時短勤務を容認することを通して、育児と仕事を安心して両立できるよう男性従業員をエンパワーしています。
ロールモデルとなったスウェーデンの、ペールエリック・ヘーグベル駐日大使は「男性が育児に参加せず、女性の労働を妨げるような状況は、経済的に見て損失が出ている状況。働きたいと思っているのに、育児に追われるばかりに働けない。これは大きな機会損失だと認めなければいけない」と語っています。
取り組みを加速させているのは、企業だけではありません。岸田政権は、2025年までに公務員の男性育児休業取得率を85%にすることを目標に掲げていますが、公正取引委員会は、すでに目標値を超える87.5%を達成。25の中央省庁の平均34.0%を大きく上回ります。2015年度には、同委員会でもわずか23.8%に過ぎなかった取得率がここまで上昇した理由の一つは、部下の育児休業取得が上司の人事評価に直結するようになったこと。このことが、育児休業を取るのが当たり前という組織文化の醸成に繋がっています。
男性育休が、社会を変える「てこ」に
世界経済フォーラムのジェンダーギャップ・レポート2023によると、日本の経済活動への参画機会は146カ国のうち123位と、先進諸国に比べて大きく遅れをとっています。また同レポートは、世界全体のジェンダーギャップを埋めるには131年かかるとしています。男性の育児休業取得が、家庭にとっても企業にとっても自然である社会を構築することは、ジェンダー・パリティ(公正)実現へのレバレッジポイントになり得るでしょう。
また、忘れてはならないのは、男性の家事育児への意識と能力の底上げ。夫が育児休業を取得したものの、家事や育児を十分に担わないために、妻の負担軽減に繋がらず「とるだけ育休」となるケースが少なくないことも浮き彫りになっています。男性が、親になるための知識や必要なスキルを習得することができる機会を増やし、主体的に家事育児にコミットする心構えを後押しすることが、社会をシフトする第一歩となります。
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