オンライン危害に対処するための共通言語づくり
世界中でオンライン危害の脅威が高まっています。 Image: Photo by Daria Nepriakhina 🇺🇦 on Unsplash
- インターネットの世界的なリーチとオンライン危害の性質を考慮すると、オンライン上の安全性を高めるためのグローバルな連携が必要です。
- マルチステークホルダーが効果的に議論することができるよう、オンライン危害に関する共通の基礎言語をつくることが急務となっています。
- 世界経済フォーラムの「デジタルセーフティのためのグローバルコアリション」は、オンライン危害の類型論を発表しました。この類型論は、さまざまなオンライン危害に対する共通理解を深め、危害への対処をサポートすることを目的としています。
デジタル時代において、グローバル社会はインターネットやさまざまなオンラインサービスの力によって複雑に絡み合っています。広大なデジタルネットワークは多くの恩恵をもたらし、地理的な隔たりを埋め、知識へのアクセスを容易にし、グローバルな意見交換を促しました。
しかし、インターネットを強力にしているその特徴自体がオンライン危害の範囲を広げる原因となり、全世界で社会や個人に影響を与える可能性があります。2023年4月時点で、世界のインターネット利用人口は50億人以上にのぼり、3人に2人がインターネットを利用しています。これらの利用者のうち、極めて多くの人々、特に子どもや社会から疎外された人々が、さまざまなオンライン被害の危険性にさらされています。
英国の規制当局、英国情報通信庁(Ofcom)によると、13歳以上のインターネット利用者のうち62%にも及ぶ人々が、4週間に1回以上、インターネット利用中に潜在的なオンライン危害に遭遇しています。その中で最も一般的な脅威は、詐欺、不正、フィッシングです。国際電気通信連合によると、25カ国の子どものうち、オンライン上で性的虐待や搾取の危険にさらされていると感じている人は約80%にのぼるほか、30カ国の若者の3分の1以上が、ネットいじめの経験があり、そうしたつらい経験が原因で5人に1人が学校を休んだことがあるといいます。若者がネット上で遭遇している有害なコンテンツと、子どものこうした経験に対する親の認識との間には、「デジタルな断絶」があります。オーストラリアのeセーフティ監督官事務所が実施した、マインド・ザ・ギャップ調査(Mind the Gap Research)では、10代の若者の71%が非常に有害なコンテンツにさらされているのに対し、そのことを把握している親はわずか半数であることが明らかになっています。
これらの統計は、オンライン危害が実生活に影響を与え、その範囲が世界中に及んでいることを示しており、グローバルな対応が求められています。オンライン危害について一般に受け入れられている定義はなく、危害に関する解釈は、ネットいじめ、晒し(ドクシング)、ヘイトスピーチ、性的描写のあるコンテンツなど、数多くあります。こうした共通理解の欠如により定義にばらつきが生じ、課題への包括的な取り組みが阻まれているのです。オンライン危害について共通の定義がなければ、情報に基づいた意思決定に必要な意見やデータの統合は不可能であり、こうした課題に対応するための効果的な安全保護、防止、介入などの対策づくりが阻害されてしまいます。
このような背景から、既存のオンライン危害に関する共通の用語と認識の必要性が高まっています。この共通の用語と認識は、国際的な理解を深め、マルチステークホルダーの連携の促進を可能にします。世界経済フォーラムの「デジタルセーフティのためのグローバルコアリション(Global Coalition for Digital Safety)」は、ばらばらな定義を統一する必要があるとの認識に立ち、このギャップに対処するためのオンライン危害の類型論(The Typology of Online Harms)を提案しています。この類型論は、数多くあるさまざまなオンライン危害を理解し、基礎言語をつくるための包括的な枠組みとして役立つものです。
こうした危害に対処して、デジタルの安全性を高めるには、デジタルエコシステム全体に数多くの文化、規制、言語、規範が存在する中で、法律、政策、倫理、社会的、技術的課題の間のバランスを慎重にとることが必要です。「デジタルセーフティに関するグローバル原則(Global Principles on Digital Safety)」が進言しているとおり、複雑さがあるとはいえ、共通理解と共通言語は何にも増して必要です。相互理解がなければ、オンライン危害に対する世界の連携した取り組みを実現することはできません。
オンライン危害の類型論は、人権を重視したアプローチに基づき、複数の条約や原則を参考にして作成されました。例えば、国連子どもの権利条約一般的意見(United Nations Convention on the Rights of the Child General Comment)、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(Convention on the Elimination of all Forms of Discrimination against Women,CEDAW)、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)などです。
基本的人権に焦点を当てたこの類型論は、どのようなタイプの危害でも参加と表現の自由の否定につながる可能性があり、これが違法であることを認めています。さらに、これらの権利が、オンライン危害を受けない個人の権利や尊厳の権利と釣り合いが取れていなければならないことも確認しています。
オンライン危害の3領域:内容、接触、行動
とはいえ、この類型論は規範となることを意図しているわけではありません。また、オンライン危害の重大度を格付けすることや、規制遵守のための厳格な指針としての役割を果たすことを目的としたものでもありません。加えて、この類型論が個人と社会に影響を与えるオンライン危害に焦点を当てているとはいえ、すべてのタイプの危害(例えば、動物の虐待)を完全に網羅したものとみなすこともできません。このフレームワークは、オンライン危害を3つの領域、つまり、「内容」、「接触」、「行動」に分類しています。「内容」とは、問題のあるオンライン素材に起因した危害に関するものです。「接触」とは、オンライン上のやり取りを介して生じる危害を指します。そして「行動」は、デジタルテクノロジーが可能にする有害な行為を対象とします。
この類型論は、デジタルセーフティの設計介入とイノベーションのためのツールキット(Toolkit for Digital Safety Design Interventions and Innovations)の一部であり、コアリションによるほかのアウトプットを補完するものです。アウトプットは、オンライン危害を定義し、権利を守りつつデジタルセーフティを向上させる可能性のあるテクノロジー、政策、プロセス、設計介入を明らかにすることを目的としています。
この類型論の土台は、オンライン危害に対する共通理解の必要性を強調した刊行物、「デジタルセーフティに関するグローバル原則」によって構築されたものです。類型論はまた、リスク評価が必要な危害の定義と分類を容易にし、デジタルセーフティ・リスクアセスメント・イン・アクション(Digital Safety Risk Assessment In Action)を補完する役割を果たします。
類型論に関するレポートは、規制当局や大手テック企業、大学、NGO、市民社会組織など、多様なバックグラウンドを代表するステークホルダーの意見を集約して作成されました。
この類型論が目指しているのは、各国政府、オンラインサービス事業者、市民社会などのさまざまなステークホルダーに対し、オンライン危害を理解し議論するのに役立ち、効果的に対処する力となる有用なツールを提供し、最終的にオンラインの安全性を高めることです。デジタルの世界には課題が山積していますが、協調的な行動と人権へのコミットメントにより、すべての人にとってより安全で包摂的なオンラインの世界を創り出すことができます。
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