エネルギー転換

エネルギー転換:電化された未来に向けた送電網の整備

グリーンエネルギーへの移行に向けて、私たちの日常生活を最大限電化させるための時間は、そう長く残されていません。

グリーンエネルギーへの移行に向けて、私たちの日常生活を最大限電化させるための時間は、そう長く残されていません。 Image: Siemens

Matthias Rebellius
Member of the Managing Board; Chief Executive Officer, Smart Infrastructure, Siemens AG
  • ウクライナ侵略を続けるロシアが、ガス供給を武器化したことで、世界のエネルギー安全保障対策は脱炭素化への投資を加速させました。
  • しかし、クリーンエネルギーの発電も重要である一方で、グリーンな移行のためには、電力網のデジタル化と拡張もまた不可欠です。
  • よりスマートで、デジタル化され、拡張された電力網があってこそ、ネットゼロの未来に向け、脱炭素化された、レジリエントで安全な電力網の力を解き放つことができるのです。

ヨーロッパの夏が本格化し、家や職場の温度が上がるにつれ、天然ガスへの依存度が下がってきています。このことは、ロシアが多くの国に対してガス供給を武器化したことで、各国政府が、財政支援と長期的なシナリオ計画の両面で迅速な対応を迫られた厳しい冬を思い起こさせます。

結果として、世界中のエネルギー安全保障対策が脱炭素への投資を加速させ、その規模は、2023年に1.7兆ドルまで拡大しました。これは、化石燃料への投資を大きく上回る数字です。化石燃料への投資の見込みが1兆ドルであるのに対し、クリーンエネルギーへの投資は年間24%増加すると予想されています。

今年開催されたG7広島サミットでは、世界のリーダーたちが、化石燃料の段階的廃止をより確実なものとし、クリーンな代替燃料への移行に向けた勢いを維持することにコミットしました。クリーンエネルギーへの移行を加速させるには、政府と企業が早急に行動を起こす必要があります。

ヨーロッパ、米国、インド、中国、そして日本は、脱炭素化計画への大規模な投資を表明しており、バイデン政権によりインフレ削減法が成立したことは、中でも最も重要な動きの一つです。

インフレ削減法には、2030年までに、各家庭と企業に9億5000万枚のソーラーパネルを設置、12万基の風力タービンを稼働、2,300の大規模バッテリー施設を建設するなどの大規模な取り組みに加え、ヒートポンプやその他のエネルギー効率の高い家電製品の購入に充てる費用として、国民へ1万4,000ドルのリベートを供与することなどが盛り込まれています。

クリーンエネルギーシステムのデジタル化

クリーンエネルギーの発電も重要ですが、電力網のデジタル化と拡張もまた、同等に価値のあることです。システムに静脈と動脈が流れていなければ、臓器の機能は低下してしまいます。

単に送電網に発電資産を増やすだけではソリューションにはなりません。脆弱な送電網インフラ、既存の問題、老朽化したシステムは、最新の浮体式風力タービンや巨大な太陽光発電アレイにかかわりなく、グリーン電力供給への移行を妨げる可能性があります。

現在、接続待ちの分散型エネルギー資源は約1,500GWあり、すでに送電網がエネルギー転換のボトルネックとなっています。

エネルギー移行委員会(Energy Transitions Organization)によると、完全なネットゼロ経済を構築するためには、2050年まで、発電と新たなインフラに年間約3兆ドルを費やす必要があります

こうした投資や取り組みが進めば、約1億5,200万キロメートルに及ぶ電力網が構築され、ネットゼロの世界の需要にも対応できるようになるでしょう。これは、太陽までの距離に達するほどの規模のものです。

各国政府はすでに、この課題がますます困難になりつつあることを認識しています。例えば、ノルウェーでは、2050年までに電力需要が60%増加すると見込まれているのです。

ノルウェーの送電網運営会社スタットネットは、過去4年間、電力需要の2倍に相当する系統連携の要求を受けています。

こうした需要に応えるため、同社は、送電網に70億ポンド以上を投資し、新しい変電所や大型ケーブルプロジェクトを追加すると同時に、ノルウェーの10の地域に対して、顧客のさまざまなニーズに対応するための、先20年を見越した戦略計画を準備しています。

この移行は、これまでに構築された電気環境おいて、見たこともないほどの規模です。

スピードが問われるエネルギー転換

新しい送電網の建設は、コストと多くの時間を要します。そのため、送電網事業者は、最小限の労力で最大限の効果を出しながら、送電網を可能な限り迅速に改善するためのツールを見つける必要があります。ここで、デジタル化が大きな役割を果たします。

デジタルツイン技術は、有力なツールの一つです。例えば、シーメンスは、アメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)と協力して、米国最大の送電システムのデジタルツインを作成しています。

デジタルツインとは、工場、街、送電網など、モデル化された対象物の仮想コンピューターモデルです。将来のシナリオをシミュレートしたり、実際のデータをモデル化したりするために使用され、最終的には物理的な世界の生きた複製となる物です。

しかし、発電、送電、配電が極めて重要であるのと同様に、低電圧(LV)ネットワークの使用状況を理解することも不可欠です。

配電システムの運用業者は、発電量や消費量だけでなく、資産の所在もほとんど把握していないため、低圧送電網の動きを予測することができません。

シーメンスのLV Insights Xは、監視制御およびデータ収集(SCADA)、メーターデータ管理に加えて、送電系統運用業者が送電網の状態を確実に評価することができるよう、IoTからデータを収集し、詳細な低電圧モニタリング機能を提供することを目指しています。

使用量と消費量のデータ(スマートメーターからのデータなど)を考慮することで、配電業務は適切なグリッドセグメントを的確に把握することができるようになります。現在の送電網の状態や容量制限が完全に可視化されると、長い相互接続要求の手続きの効率が向上すると同時に、投資すべき場所やタイミングを正確に把握できるようになります。また、デジタルツインにより、詳細な使用パターンの把握も可能になります。

エネルギー転換を実現する鍵となる送電

各国政府が、風力タービンの設置台数や太陽光パネルの展開面積、電気自動車の販売台数といった目標を急速に設定している一方で、私たちは、送電網の容量という現実的な課題に目を向ける必要があります。

可能な限り既存の送電網の利用を最適化する必要がありますが、そのためにも、現状を可視化する必要があるでしょう。そのソリューションとなり得るのが、デジタル化です。

デジタル化により、運用業者の効率は向上するでしょう。また、送電ロスを削減し、より需要に合わせた方法で電力の流れをルーティングすることで、送電網の運用をより透明化することができます。

送電塔、ケーブル、変電所の新設という手間のかかる作業が進行する中、既存の送電網からより多くの電力を引き出すためには、送電網の状況を完全に把握した上で、最適化することが不可欠です。

私たちの日常生活を最大限電化させるための時間は、そう長く残されていません。ネットゼロの未来に備えるためには、地理的な制約を乗り越え、脱炭素化されたレジリエントで安全な電力網の力を解き放つ必要があります。それは、よりスマートで、デジタル化され、拡張された電力網があってこそ実現できるものです。

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