科学者たちが考える地球の限界
「これは、地球の有限な限界と、人々と地球を守る方法を理解する上で、一歩進んだ変化となる」と、地球委員会は述べています。 Image: Image: Unsplash/NASA
本記事はNature and Climateセンターの一部です。
- 地球委員会は、地球が繁栄するために必要な条件を数値化しました。
- これらの閾値は、地球上のすべての生命の利益のために、地球を保護する役割を果たします。
- 科学雑誌ネイチャーは、地球委員会の調査結果を詳述した初の統合原稿を掲載しました。
- そこで示された境界線は、生態系全体における生物多様性の喪失を減らすことを目的としています。
- 対策が講じられなければ、人類のウェルビーイング(幸福)を支える地球の能力は衰退の一途をたどることになります。
気候変動がもたらす最悪の影響を緩和することは急務であり、気候変動活動家の間で「プラネットBは存在しない」という言葉がよく聞かれるようになりました。もし失敗すれば、私たちの唯一の故郷である地球は、人類の生存にとって敵対的な存在になりかねません。
地球上のすべての生命の未来を確保するための限界を定量化するために、地球システムの惑星境界を策定した世界各国の科学者たちによって構成された、サステナビリティ・サイエンティストの世界最大のネットワークである地球委員会(EC)は、科学雑誌ネイチャーに、「グローバル・コモンズのための安全で公正な地球システム境界線 (Safe and Just Earth System Boundaries for the Global Commons)」を詳述した初の統合原稿を掲載すると発表しました。そこで示された8つの境界線は、40人の科学者が4年かけて定義した「惑星境界線」の枠組みを更新したもので、「正義」を「安全」と同じ単位で統合しています。
「これは、地球の有限な限界と、人々と地球を守る方法を理解する上で、一歩進んだ変化となる」と、ECは述べています。
この新たな動きは、気候だけでなく、科学的根拠に基づく目標を策定するための新しい基礎を築くことになります。これらの目標は、安全で公正な事業環境を維持するために、政策立案者やビジネスリーダーに責任を負わせるのに役立つでしょう。
ユニリーバの前CEOで、「ネット・ポジティブ:勇気ある企業は、いかにして奪うより与えることで成功するのか (Net Positive: How Courageous Companies Thrive By Giving Than They Take)」の共著者であるポール・ポルマン氏は、次のように述べています。「CEOにとって、人を中心に据えたアプローチをとることは、より野心的で緊急な目標を掲げ行動とっていることを意味します。研究に従い、私たちがすべきことを行うことは、より高いハードルを設定することを意味しますが、最終的には、すべての人にとってより良い、より安全な未来を築くための集団的な努力の中心にいるのは人間に焦点を当てるのが、本来あるべき形でしょう」
また、世界経済フォーラムのネイチャー・アンド・クライメート・センター長であるギム・フアイ・ネオは、次のように述べています。
「科学は、ビジネスにとって決定的な重要要素です。なぜなら、科学が、気候を自然、淡水、きれいな空気、その他のグローバル・コモンズと結びつけ、私たちの共通の未来を確保するために何が必要かを定義しているからです。そして、現在の軌道が世界経済と社会にとっていかに耐え難いものであるかを、科学は明らかにしています」
「企業は、事業やサプライチェーンにおいて、相互に影響し合う危機や深刻化するリスクに直面し、価値を破壊することになるでしょう。この新たな研究は、企業がどのように戦略を立て、目標を設定し、リスクを軽減するための行動を実行するのか、そして、いかにしてリーダーシップを発揮し、成功し続けるための条件を守ることができるかについて、科学的な裏付けとなるでしょう」
高まるグローバルリスク
気候変動、生物多様性の喪失、海洋環境の悪化がもたらす脅威については、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2023年版で警笛が鳴らされています。
今後10年間の世界の安定を脅かす最も深刻なリスクの指標は、環境的な要因に支配されているのです。
環境リスクは全部で6つあり、報告書が示している上位4つのリスクは気候に関連するものです。気候変動の緩和策の失敗、自然災害や異常気象、生態系全体の崩壊につながる生物多様性の喪失などが含まれます。
新しい境界線を設定する緊急の必要性は、人間の活動が脆弱な地球惑星システムに与える影響を反映しています。生物多様性の喪失を例にとれば、「生きている地球レポート2020 (Living Planet Report 2020)」のデータを見ると、生態系が急速に衰退していることは明らかです。
上の図が示すように、自然や野生生物が劇的に失われていっていることは、世界のあらゆる地域で記録されています。ヨーロッパでは、全生物多様性の4分の1が失われており、ラテンアメリカとカリブ海諸国では、爬虫類や魚類が失われたことにより、1970年以降、生物多様性が94%も減少しています。
地球を守るための新たな境界線
ECの共同議長である、中国科学院の学術委員会ディレクターの秦大河教授は、「新たな環境基準の構築を目指す地球委員会の活動は、地球の気温上昇を抑えるために設定された目標をはるかに超えている」と語ります。
「気候変動と闘うために、各国は地球温暖化を2度以下に抑えることに合意しています。しかし、他の重要な環境要素については、それに匹敵する目標がありません。地球委員会は、この重要なギャップを埋めるものです」
最大のリスク領域にアプローチを集中させるため、ECはその活動を5つのワーキンググループに分けています。
1. 地球・人間システムモデリング
人類や地球上の生物にとって、安全で安定した地球環境を目指すため、海洋、生物圏システム、地球大気と人間の直接的な相互作用をマッピングします。
2. 生物圏相互作用
このグループの科学者は、地球を安全で適正なパラメータ内に保つために必要な生態系の規模と完全性を探求します。これらのパラメータは、明確な目標を策定するための指針となります。
3. 栄養素と汚染
窒素、リン、炭素などの栄養素の変化が、水系の汚染などによって、地球の安定性や回復力をどのように損なうかを分析します。
4. トランスフォーメーション
このグループの専門家は、地球の自然システムに変化をもたらす社会的・経済的要因に焦点をあて、地球を守るために必要な変革を実現するために必要なガバナンスについて研究します。
5. 変換と手法
このグループは、ECの勧告を実践に移す役割を果たします。様々な評価を科学的根拠に基づいた目標に変換し、政府、企業、市当局が地球にプラスになる行動を実施できるように支援します。
地球の生命維持
地球規模で緊急かつ体系的なアクションがとられなければ、私たちの地球とその生命維持能力に対する脅威は指数関数的に増大します。グローバルリスク報告書2023年版は、行動を起こす緊急性と、行動を起こさなかった場合の結果を示しています。
報告書は、「大幅な政策変更または投資がなければ、気候変動の影響、生物多様性の喪失、食料安全保障、天然資源消費が相互作用し、生態系の崩壊が加速するとともに気候変動に弱い経済圏の食料供給と生活が脅かされます。そのことが、自然災害の影響をさらに増幅し、気候緩和に関する進展を制限することになるのです」と、警告しています。