イケアのアプローチは、真に患者中心のヘルスケア構築に役立つか
リアルワールドエビデンスを継続的に収集することは、医学的知識やヘルスケアのゲームチェンジャーになるかもしれません。 Image: CDC/Unsplash
Meni Styliadou
Vice-President; Global Program Leader, Health Data Partnerships, Takeda Pharmaceuticals International AGTanja Stamm
Professor, Institute for Outcomes Research, Center for Medical Data Science, Medical University of Vienna & Ludwig Boltzmann Institute for Arthritis and Rehabilitation- ヘルスケアは、患者から提供された臨床データに依存している部分があります。
- 患者のアウトカムを標準化して報告するテクノロジーは、今後、グローバルなヘルスケアと政策決定を強化していくでしょう。
- イケアのシンプルな参加型アプローチは、ヘルスケアのモデルになり得ます。
ヘルスケアとイケアはどちらもなじみのある言葉ですが、同じ文章の中で目にすることはあまりありません。しかし、経済的なコストが増える一方で、デジタル技術の導入という大きなチャンスに直面している医療システムの将来を考える上で、スウェーデンの巨大家具メーカーが有益なアイデアを与えてくれるかもしれません。
効果的で安全なヘルスケアは、データに依存しています。政策立案者やヘルスケア従事者は、生活習慣や治療がもたらす影響について、実際のエビデンスに依存していますが、こうしたエビデンスは疾患や患者個人によって大きく変動するものです。そのため、近年では、医薬品や医療製品がもたらす潜在的なメリットとリスクに関する追加情報を集める手段として、リアルワールドエビデンス(Real-world Evidence: RWE)や患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome:PRO)の利用を拡大することが期待されているのです。
いったい、どのような夢のヘルスケアが実現されるのでしょうか。まず、患者のアウトカムを報告する方法が標準化されており、その方法で継続的に報告が行われている世界を想像してみてください。治療法や生活習慣の変化によって、体調やウェルビーイング(幸福)状態がどのように変化してきたか、患者自身が把握できるだけでなく、非常に大きな臨床的なメリットが期待できるのです。
医師は、患者のダッシュボードを見れば、患者の状態や治療に対する反応を正確に把握することができます。研究者は、膨大なコストをかけた臨床試験から入手したエビデンスだけに留まらず、実世界から入手した豊富なデータを存分に利用することができるようになります。ここから、病気、生活要因、治療法の相関関係を明らかにする道が大きく開かれ、さらなる医療イノベーションにつながる豊かな経験的基盤が築かれるでしょう。
また、こうしたデータは、まさにデータドリブンな公共政策を実現させるために極めて有効です。最適な医療提供を目指す自治体から欧州の機関まであらゆるレベルの意思決定者が、問題点や最も効果的な解決策を見出すことができるでしょう。つまり、このようにしてリアルワールドエビデンスを収集することは、医療知識、医療ケア、そして、人間の健康に画期的な変化をもたらすのです。
イケアからヒントを得たヘルスケアのアプローチ
しかし、このようなシナリオはどれくらい現実的なのでしょうか。患者のアウトカムを大規模に報告するとコストがかかり、一般的に患者には専門知識がなく、健康やデータに関する十分な知識がない患者は意味のあるデータを提供するのが難しい可能性がある、という懐疑的な意見もあります。
こうした部分については、イケアからヒントを得たアプローチが解決につながるかもしれません。グローバル企業としての成功を導いたイケアモデルには、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは3つの特徴を紹介します。
- 顧客が積極的に参加して最終的な製品を作り上げていく。
- 指示文章はできるだけシンプルにして、ビジュアルの部分を大きくする。
- 標準化により最先端で、望ましく、低価格の製品を実現する。
いずれも、私たちがヘルス・アウトカム・オブザバトリー(Health Outcomes Observatory)で目指しているものと関わっています。患者が自由に使えて、ユーザーフレンドリー且つシームレスにつながる共同開発アプリケーションがあれば、患者がとても簡単に自身のヘルスケアと積極的に関わることができるようになります。
患者は、疲労や健康に関わる出来事、治療への反応、総合的なウェルビーイングなど、あらゆる次元で自分の健康を簡単に追跡できるようになります。つまり、自分の健康状態をより正確に記録し、その情報を医師と共有することで、エビデンスに基づいた意思決定を行うことができるようになるのです。患者からの報告データを臨床情報、スマートフォンなどのデバイスのセンサーから入手したデータと組み合わせることで、将来的には、より優れた予測モデルや的確に的が絞られたパーソナライズドケアの基礎を構築することも可能でしょう。
また、患者は自身がメリットを得ることのほかに、ヘルスケアの知識全体に貢献することにもなります。患者が承諾すれば、仮名化されたデータは安全な環境で研究者と共有され、生命科学や医療政策の理解を深めるために役立てられるでしょう。
このシナリオは想像の世界のものではありません。確かに、初期段階では必要なデータインフラを整え、アプリを開発し、ステークホルダーを動員するコストが発生します。しかし、ひとたび整備されれば、患者自身が自分のデータを集めて報告することができるのです。すでに歩数や運動時の心拍数、睡眠パターンなど、健康に関わる指標を記録している人は大勢います。このようなデジタルトレンドをうまく利用すればいいのです。
ぜひ、イケアのプレイブックを参考にしてみましょう。使いやすく、手頃な価格の参加型アプリを設計することで、患者をただの受動的な医療対象に留めず、医療知識とウェルビーイングの共同探求に参加させることができるでしょう。
世界経済フォーラムによる、バリューベースのヘルスケアへの移行を加速させるイニシアチブについてはこちら。ヘルスケアの価値のためのグローバルコアリション(Global Coalition for Value in Healthcare)
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