自然と生物多様性

EUの自然再生法成立を望むビジネスリーダーたちの声

EUの自然再生法は、生物多様性枠組の目標の一部と合致しています。

EUの自然再生法は、生物多様性枠組の目標の一部と合致しています。 Image: suju-foto/Pixabay

Eva Zabey
Chief Executive Officer, Business for Nature
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • EUの自然再生法は、損なわれたヨーロッパの自然を2050年までに修復することを目的としています。これは、自然に依存した経済活動の総体的な価値を踏まえると、経済にとって非常に重要なことです。
  • 分析によると、自然に配慮した政策を実施することで、年間推定10兆ドルの新たなビジネス価値を生み出し、2030年までに3億9,500万人の雇用を創出するとしています。
  • 欧州グリーンディールで示されているこうした政策は、農家の負担に対する政治的懸念から危機に直面しており、長期的な対策ではなく、短期的な政策に再び焦点が当てられています。

CNPアシュアランス、H&Mグループ、イケア、ロクシタン、リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント、ネスレ、ノボザイムズ、セールスフォース、トリオドス銀行、ユニリーバ、ベルックスなど50社の最高経営責任者(CEO)やビジネスリーダーたちが、野心的な環境法の整備を呼びかけています

気候と自然の非常事態が同時に発生していることへの懸念が高まる中、こうした企業のリーダーたちは、地球に及ぼす悪影響に対処する、タイムリーで効果的なEUの規制の必要性を強調しています。

自然再生法の採択を迫られているEU

企業や投資家から寄せられているその他の訴えに続き、EU自然再生法を早急に採択することは、欧州の自然の劣化に対処するための重要なステップとして注目されています。野心的な環境法の重要性は、多くの企業や投資家のネットワークから広く賛同されており、例えば、「自然はすべての人に関わるもの(Nature Is Everyone’s Business)」という行動要請を支持する1,400社以上の企業が、この10年間で自然消失を阻止し再生させるために早急に行動を起こすよう世界規模で各国政府に要請しています。

2022年12月、世界各国の政府は、2030年までに自然消失を阻止・再生させることをミッションの一部とする「生物多様性枠組」を採択しましたが、一部のロビー団体は、欧州の環境規制の「一時停止」を求めています。

EU自然再生法は、生物多様性枠組のターゲットと一部合致しており、自然再生法を採択しないことは、野心の希薄化を示すとともに、グローバルな合意の履行に向けたEUの前進と、ネイチャーポジティブ、ネットゼロ、公平な経済への移行に貢献するEUの能力を妨げることになるでしょう。

ロクシタンの取締役であるアドリアン・ガイガー氏は、次のように話します。「自然や、自然から生み出されるサービス・資源なしに繁栄するビジネスはありません。ロクシタンは、他の多くの欧州企業とともに、EUのリーダーたちに対し間もなく制定されるEUの自然再生法を含む野心的な環境法の採択を強く求めています。生物多様性枠組の野心的な約束を実現するだけでなく、自然を保護し、投資家、各国政府、消費者、企業による強いアカウンタビリティとより良い情報に基づいた意思決定を保証するためです」。

生物多様性枠組で設定された革新的な目標の一つは、大企業や金融機関が自然に対するリスク、影響、依存関係を評価し、開示することを求めています。

アカウンタビリティと責任を強化するために、この開示を義務化しようという呼びかけに400社以上の企業が賛同しています。これは、行動を早めるだけでなく、投資家や消費者を巻き込んで、先住民や地域コミュニティの権利を保護することにつながります。近々発表が予定されているEUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の実施基準が、透明性の確保と、自然に対する積極的な行動を促す上で重要な役割を果たすことになるでしょう。

EUが世界をリードする

自然消失の流れを変え、気候変動の最も有害な影響に対処し、拡大する不平等に取り組むことを望むなら、各国政府が法的拘束力のある法律と規制を整備する必要があります。気候変動に効果的に取り組むためには、自然を守り、回復させ、持続的に管理することが欠かせません。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、過去10年間で、人類が排出した炭素の半分以上を、世界の海、植物、動物、土壌が吸収したとされています。つまり、気候の壊滅的な崩壊を防ぐには、自然が最大の味方なのです。

EUは、先進的な環境法を制定するグローバルリーダーとして認められ、自然保護と社会経済的優先事項のバランスをこれまでうまく取ってきました。公開書簡の署名者たちはEUの実績を認め、さらに、包括的なEUグリーンディールを実現することによって、歴史的な遺産を残す機会を捉えるよう、政策リーダーたちに求めています。このリーダーシップを維持することは、国際的な行動を促進するだけでなく、環境問題への取り組みに対するEUのコミットメントを示す上でも極めて重要です。

グローバルIPCCのデータによると、気候の崩壊を避けるためには、2030年までに二酸化炭素排出量を45%減の179億トンに削減する必要があります。
グローバルIPCCのデータによると、気候の崩壊を避けるためには、2030年までに二酸化炭素排出量を45%減の179億トンに削減する必要があります。 Image: IPCC/Global Carbon Project/Statista



リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)の投資スチュワードシップ及び責任投資統合の責任者であるマイケル・マークス氏は、「自然資本は、私たちのグローバル経済に欠かせないものであるにもかかわらず、驚くほどのスピードで破壊されています。これは、長期に及ぶ構造的な市場リスクをもたらします」と述べた上で、「COP15で合意したように、エコシステムを保護・修復し、2050年までに『自然と調和した生活』という目標を達成するために、私たち全員が取り組みを強化しなければなりません。EUの政策立案者がこれを好機と捉えて、グローバルな合意を実践的行動に移すことが極めて重要です」と強調しています。

よりサステナブルな未来に移行していく中で、透明性と高い感度をもってそのプロセスを管理することが最も重要です。私たちが共有する自然資源を管理する農家、漁師、先住民コミュニティ、地域住民などのステークホルダーへの支援も欠かせません。「今まで通りのやり方」によって生じるコストは、より大きな課題とリスクを経済にもたらすことになるでしょう。

土地の劣化は、エコシステムサービスにおいて世界のGDPの10%以上のコストがかかっています。欧州地域だけでも、約300万社が少なくとも一つのエコシステムサービスに高く依存していると推定され、もし自然消失が続けば、経済的に重大な課題に発展することになります。

地球は人類にとって、すでに安全とはいえず、適正な限界を超えて稼働しているため、私たちが取るべき行動を先延ばしにすると、気候変動と自然の劣化による課題をさらに悪化させる事態になります。しかし、企業や投資家が速やかに行動を起こせば、大きなチャンスを生かすことができるのです。

世界経済フォーラムは、自然に配慮した製品やサービスは、企業にとって最大で年間10兆ドルもの利益をもたらすと試算しています。環境活動に意欲的に取り組むことはリスクを軽減するだけでなく、経済的な可能性を引き出し、さらに、自然を大切にする経済への転換を進めます。

地球は人類にとって、すでに安全とはいえず、適正な限界を超えて稼働しています。
地球は人類にとって、すでに安全とはいえず、適正な限界を超えて稼働しています。 Image: Global Footprint Network/Statista

求められる野心的なリーダーシップ

今、これまで以上に、大胆なアクションを起こす、勇気あるリーダーシップが求められています。先進的な企業は、生物多様性枠組を実現するために、各国政府と協力する用意があります。この枠組の実施に着手し、自然保護に向けた具体的な成果を上げるために、今後数ヶ月が重要になります。EUの自然再生法採択とCSRDの強固な実施基準は、この変革の道筋において何よりも重要なステップです。

ホルシムのチーフ・サステナビリティ&イノベーション・オフィサー、マガリ・アンダーソン氏は次のように話します。「気候と自然、この二つの非常事態に対する懸念が高まる中、ホルシムは他の40社以上の企業とともに、欧州の政策立案者が包括的な環境政策や規制を採用することを支援し、地球への悪影響に対処するための効果的なEU規制の必要性を強く訴えます。EUが先進的な政策を実現してきた実績から、重要なことは、政策枠組みが野心の向上を支え、自然、気候、生活を守るために経済と社会を変えていくことです」。

差し迫った気候と自然の緊急事態に立ち向かうため、各国政府は今すぐ行動し、野心的で拘束力のある環境法を実現しなければなりません。政府によるこうした行動が急務であることを、企業は強く訴えています。これこそが、透明性のある移行を保証し、現在と将来の両方の世代に利益をもたらしながら自然と気候を保護する、レジリエンス(強靭性)を持った経済を構築する唯一の方法なのです。

*本記事は、初めにSG Voiceに掲載された記事の和訳を転載したものです。

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