五月病から考える - メンタルヘルスへの取り組みが社会を強くする
五月病から、メンタルヘルスとウェルビーイングの一層の取り組みの必要性が見えてきます Image: Unsplash/Jason Ortega
- 五月病は、新年度の始まりをきっかけに、ゴールデンウィークが終わった頃に現れます。
- 新型コロナ感染拡大のパンデミックの只中、五月病になる人が減少傾向にあったとみられるのは、五月病の原因となる社会との接触によるストレスが軽減されたためであると思われます。
- メンタルヘルスは日本でも注目され、社会全体でメンタルヘルスを支える取り組みが進められています。
新型コロナ感染の拡大は、生活のさまざまな側面に大きな影響を与えました。メンタルヘルスもその一つです。世界保健機関(WHO)は、パンデミックの最初の年に、不安やうつ病の世界的な発生率が25%増加したと発表しています。
また、「増加の原因のひとつは、パンデミックによる社会的孤立による、前例のないストレスと考えられる」と、WHOは加えています。
一方で、社会的孤立が短期的にはむしろ良い結果をもたらしたケースもあることも、研究で明らかになっています。
パンデミック以前から、日本では職場や学校、転居など環境の変化をきっかけに心身が不安定になることを「五月病」と呼んできました。
なぜ「五月病」なのか?
なぜ5月なのか。日本では新年度が4月に始まり、学校や職場など新しい環境を迎える場面が多く、その直後にゴールデンウィークを迎えます。約一週間の休暇でリフレッシュできる人もいれば、休暇が理由で復帰がむずかしくなるケースもあります。
こうして、5月初旬は気分が落ち込み、また疲れやすく、集中力が低下しやすい時期にもなり得るのです。
五月病の原因となり得るのは、原因はさまざまです。
- 新しい環境に適応することがむずかしい
- 新しい人間関係を築くのに苦労している
- 理想とする世界と現実とのギャップを強く感じる
- 新しい環境に固執することで、次の目標が見えなくなる
パンデミック中の「五月病」のグーグル検索では、パンデミック前の2019年に比べて80%減少し、五月病やその解決策について調べる必要性を感じる人が減ったことがわかります。
パンデミック中の外出自粛政策のため、新たな環境で経験する人との交流の減少により、五月病に苦しむ人が減ったと、専門家は 推測しています。
パンデミックが、五月病の対策に一役買ったと言うわけではありません。すでに多くの国でもみられるように、コロナ対策は緩和され、社会活動が戻ってきています。あらためて、今後より多くの対面での交流が生まれ、新しい人間関係が構築される機会は増える傾向にあります。
この現実は、交流の機会が減ったことから「救われた」人たちが、うつ病や自殺を避けることを、むずかしくする可能性があります。また、日本政府は3月13日、マスクの着用義務化を正式に解除しました。解禁から2週間後、東京駅では89.7%の人がマスクの着用を継続していました。専門家は、パンデミック後の年度初めに、新しい学校や職場での一般的な変化に加え、マスクを外して顔を見せる環境がストレス要因となり、五月病になる人が増える可能性を示唆しています。
五月病の予防法
五月病のみならず、メンタルヘルス全般に役立つ対策もあります。
会話でストレス解消
同僚や仲間、家族、友人とコミュニケーションをとり、問題を共有することがストレス解消につながります。一人での食事は避け、リラックスできる時間を増やすこともストレス解消につながります。
栄養バランスの良い食事を心がける
主食、副菜、主菜の組み合わせを意識することも重要です。不規則な食事や偏った食事は、脳の栄養不足を招きやすく、特に感情をコントロールする神経伝達物質であるセロトニンが不足しがちです。セロトニンは、動物性たんぱく質に多く含まれるトリプトファンから合成されるといわれます。
良質な睡眠をとる
睡眠は、疲労回復に重要な役割を果たします。起床・就寝のリズムを整える、夕食は就寝の2時間前まで、入浴は就寝の1時間前までに済ませる。また就寝前にテレビを見ない、携帯電話やパソコンなどの機器を使用しないなど、質の良い睡眠をとるために有効な習慣も重要です。
メンタルヘルスの取り組み
メンタルヘルスの不調は、5月に限定して起きるものではありません。厚生労働省によると、仕事によるストレスを原因とする精神疾患の労災件数は2020年に2,051件となり、2015年から35%増加しています。
一方、調査会社の富士経済によると、ストレスチェックやメンタルヘルス対策の国内市場は、2025年にはパンデミック前の2019年の約2倍となる288億円(2億1470万ドル)に拡大すると予想されています。
企業も対策に乗り出しています。商業施設を運営する丸井グループでは、2021年に医師の小島玲子医学博士が、チーフウェルビーイングオフィサーに着任しました。
小島氏が率いるプロジェクトのひとつに、レジリエンス・プログラムの確立があります。この取り組みは、ウェルビーイングについての理解を深め、身体的、感情的、精神的、霊的な健康を改善するために必要なことを、経営層にも理解してもらうことを目的としています。四半期ごとに開催されるセミナーやプレゼンテーションを通じて、上級管理職はウェルビーイングをマネジメントスキルの一部として考慮する方法を学びます。
楽天では、チーフウェルビーイングオフィサーの小林正忠氏のもと、ウェルネス部が、カフェテリアの食事提供やフィットネスジムの整備など、社員の心身の健康をサポートする施策を担当しています。
また同社エンプロイー・エンゲージメント部門は、楽天主義の共有やダイバーシティの促進などの施策の実施を通じて、従業員と組織との心理的つながりを強化する役割を担い、サステナビリティ部は、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連の情報発信を含むソーシャルウェルビーイングを担当。「個人のウェルビーイングなくして、組織のウェルビーイングなし。組織のウェルビーイングなくして社会のウェルビーイング なし」と小林氏は言います。
メンタルヘルスのコストは上昇
世界経済フォーラムとハーバード大学公衆衛生大学院が発表した研究によると、メンタルヘルス疾患(および関連する結果)のコストは、2010年の2.5兆ドル(約335兆円)から2030年には世界で6兆ドル(約805兆円)にまで増加すると予測されています。
世の中のスピードは加速し、予測不可能な出来事も起こります。こうした中、何がきっかけで気持ちが落ち込んでしまうかわかりません。すべての問題は個人で解決し「元気でいる」事が当然である、と片付けてしまっては、社会として解決にならないのです。
パンデミックや五月病の有無にかかわらず、社会全体の事としてメンタルヘルスを支える仕組みを構築することが、重要かつベネフィットとなるのです。
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