「すべてを、あらゆる場所で、一度に」というアプローチが、自然への融資に必要な理由
自然気候ソリューションは、2030年までに必要な気候危機の緩和策の3分の1を提供する可能性を持っていますが、それは、私たちが今すぐに行動した場合に限られます。 Image: Unsplash/Matt Palmer
- IPCCが発表した最新の報告書は、地球温暖化を1.5度に抑制するためには、即時かつ大規模な排出削減が欠かせないと警告しています。
- 自然気候ソリューションは、2030年までに必要な気候危機の緩和策の3分の1を提供する可能性を持っていますが、それは、私たちが今すぐに行動した場合に限られます。
- 私たちは、自然のための貴重な資金源となりうる自主的炭素市場を含む、あらゆる面での気候変動対策を必要としています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した、最新の科学的知見に基づき現状の評価や対策をまとめた最新のアップデート「第6次統合報告書(AR6)」は、地球温暖化を1.5度に抑制することは、即時かつ大規模な排出削減なしには不可能であると警告しています。
「最終警告」「人類のためのサバイバルガイド」と銘打たれるこのIPCCの報告書は、経済のあらゆる分野で対策が講じられていないことがもたらすリスクを強調するとともに、破滅的な気温上昇を回避するためのロードマップを提示しています。
そして、脱炭素化のための幅広い行動とともに、自然の重要な役割についても繰り返し述べています。実際、自然気候ソリューション(NCS)は、2030年までに必要な気候危機の緩和策の3分の1を提供することができるとされていますが、それは、私たちが今すぐに行動をする場合に限られます。
自然気候ソリューション
自然気候ソリューションは、自然生態系を保全、修復、持続的な管理をすることで、社会、経済、環境の課題に対処し、人間や生物多様性に利益をもたらす行動戦略です。
最新の研究によると、自然気候ソリューションは、10年後までに80〜140億トンの排出削減を可能にすることが示されています。
IPCCの報告書も同様の指摘をしています。地球の陸地、淡水、海洋の30〜50%を保全すれば、生物多様性、森林、湿地などの炭素吸収源を保護できるだけでなく、食料や健康に関わる生態系サービスも確保することができます。
しかし、気候危機がすでに地球を変化させているスピードを考えると、これらの生態系はいよいよ危険にさらされています。自然を守り、回復させることができなければ、経済だけでなく、地球にとっても計り知れないリスクがあるのです。世界の総GDPの半分以上にあたる44兆ドルの経済価値創出は、中程度または高度に自然に依存していると推定されます。
景色や自然をよりスマートに管理する必要性
国連環境計画の報告書「自然に対する金融の現状2022(State of Finance for Nature 2022)」では、現在の自然に対する資金の流れを、2025年までに2倍、2030年までに3倍にする必要があるとされています。
気候がもたらす恩恵だけを考えても、数十億ドルの投資が必要ですが、自然への投資は、気候変動への耐性の向上、きれいな空気と水の提供、荒廃した土地の回復、持続可能な生活の支援など、他の価値ある利益をもたらします。
このような相互に有益な成果をあげられるにもかかわらず、最近、自然気候ソリューションへは厳しい監視の目が注がれており、特に、炭素排出者が待機中の炭素を回収・除去する取り組みから炭素クレジットを購入することで、自主的に排出量を相殺することができる炭素市場での役割を検討する報告や調査が行なわれています。
しかし、自然気候ソリューションは、単なる炭素削減の手段以上のものであり、炭素市場はその資金調達の一つの手段にすぎません。必要な行動の多くは、単に私たちの状況をいかに管理するかという方法を変えて、より賢く物事を行うことです。
食料と土地利用のシステムを変革し、自然に配慮した経済へ移行するために、経済全体でできることは多岐にわたります。
農業補助金を改革することや、グリーンな金融商品を開発すること。生物多様性クレジットやその他の革新的なメカニズムの可能性を追求すること。商品主導の森林破壊を減らし、持続可能なサプライチェーンを構築するための取り組みを強化すること。海外開発援助(ODA)のための公共政策とプログラムを再考すること。税制の調整 プロジェクトファイナンスの決定において、CO2排出量を考慮することなどが挙げられます。
自然への融資の重要なツールである自主的炭素市場
これらはすべて、私たちが緊急に行動しなければならない取り組みです。しかし同時に、気候行動と開発途上国に必要な資金の両方を提供するための、最も実行可能で拡張性があり、すぐに導入できるソリューションのひとつに背を向けることはできません。
自主的炭素市場には、発展途上国向けに年間数十億ドルの追加気候資金を、スピーディーかつ大規模に動員する潜在力があります。そしてこれが、世界が炭素の除去や排出量の削減を通じ、気温の上昇をパリ協定が目指す限度の範囲内にとどまるのを助け、地域社会や生態系により広く恩恵を与えることにつながるのです。
世界の自主的炭素市場の価値は、2021年に20億ドルに達し、2030年には年間100~400億ドルに達する可能性があり、おそらくその3分の2は自然気候ソリューションに流れるでしょう。炭素市場は、自然気候ソリューションの世界的な累積ポテンシャルの最大32%、2030年までに必要とされる緩和策全体の10~12%を供給することができます。
しかし、過去3年間で、自発的炭素市場により自然気候ソリューションの年間費用対効果の潜在力は1.2%しか解き放たれていません。私たちは、実行可能な解決策と何十億ドルもの気候資金をテーブルの上に置いたままにしているのです。完璧を善の敵とするリスクは、ますます深刻化しています。
市場に出回る低品質な自然気候ソリューションのクレジットの数を減らすことは重要ですが、本当の脅威は、実行可能な気候ソリューションを無視する方がリスクは少ないと考える環境を作り出していることです。この論理は成り立ちません。
私たちは、世界が必要とする自然気候ソリューションによる気候変動対策を99%まで拡張させるために、先に述べた幅広い行動と協調し、信頼性の高いクレジットへのサポートを推進する必要があるのです。
これには、市場に一貫性と透明性の導入や、先住民族や地域コミュニティとのより強固で有意義なパートナーシップの構築などの取り組みも含まれます。
気候変動の最大のリスクは行動を起こさないこと
IPCCの最新の報告書が、行動を起こさないことこそが気候変動に対する最大のリスクであるということについて、貴重な視点を与えてくれることが期待されます。
同報告書の発表に際し、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、国連のアジェンダ実施の加速化を発表すると同時に、最近のアカデミー賞受賞作を引き合いに出し、「私たちの世界は、すべてを、あらゆる場所で、一度に、というアプローチの気候変動対策を必要としているのです」と警告しました。
ここには、自自然気候ソリューションの重要な役割が含まれるべきであり、そのためには、主体的炭素市場など、あらゆる必要な手段で資金を調達することが不可欠でしょう。
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