バイオテクノロジー・エコシステムの確立 - セルビアから学べることとは
バイオテクノロジーは、感染症の疾患率を下げ、個人に合わせた医療を行い、より正確な疾病発見ツールを創出することができます。 Image: Unsplash/Sangharsh Lohakare
- バイオテクノロジーが、医療分野を大きな変化を起こしています。そのアプリケーションは効率を高め、誤りを減らし、ヘルスケアに関わる解決策を生み出すことができます。
- 資金、倫理、規制などの未解決の課題を乗り切るためには、強力なリーダーシップが不可欠です。
- バイオテクノロジー分野で先行しているセルビアは、ほかの国々がバイオテクノロジーの進展をどのように加速させられるかを示しています。
バイオテクノロジーは、遺伝子検査や薬物治療、人工組織の増殖などを現実のものとする革新的なアプリケーションによって医療分野を大きく変えています。
その実用的な性質と急激な進歩が、効率を高め、誤りを減らし、ヘルスケアに関わる解決策の再現に優れた実績を上げていることが明らかになっています。現在、バイオテクノロジー市場は、2023年から2030年の間に8.7%成長すると予測されており、バイオ医薬品の成長がその中心になっています。
バイオテクノロジーは、人生を一変させるような変化を人間の健康にもたらします。自然のツールボックスと人間の遺伝子構造を利用することで、新しい治療法を生み出し、感染症の疾患率を低下させるほか、個人に合わせた医療を行い、より正確な疾病発見ツールを創出することを可能にします。微生物免疫療法を手がけるプロカリアム社は、今年、膀胱がんの新しい治療法開発のための入札で3,000万ドルを調達しました。一方、トゥエンティエイトヘルス社は、医療サービスが十分に行き届いていないグループにバーチャル医療を提供することを目的に、830万ドルを調達しています。
しかし、こうした変化の速い産業では、起業に至る前に、資金調達から倫理面に及ぶ規制上の多くの障害があります。
実現を可能にする環境
政府は、意識的な投資や政策を行うことで、繁栄するエコシステムを確立する上で大きなな役割を果たします。科学への投資を増やしている積極的な国もあり、これがバイオテクノロジーの新しい発見や、この分野の能力およびスキルの向上を促すとみられます。例えば、第四次産業革命セルビアセンターの調査によると、積極的な一部の国では、下記のように科学への投資を従来の水準より増加させています。
- 韓国 4.3%
- 日本 3.4%
- フィンランド 3.2%
- スイス 3.2%
- オーストリア 3.1%
- ドイツ 2.9%
- 米国 2.7%
- スロベニア 2.4%
- フランス 2.3%
しかし、バイオテクノロジーの成長は、多くの障壁によって阻害されています。障壁は共通しており、例えば、必要な資金額、シーケンシング機器の可用性、データ保存やヒューマンキャピタル(人的資本)のためのITリソースの不足などがあります。こうした状況が各国のリソースを奪い、バイオテクノロジーが持つプラスの効果を低下させています。
各国はバイオテクノロジーに対する障壁をどのように克服できるか
政府をあげてバイオテクノロジーに取り組み、企業、学界、市民社会のリーダーたちと協力して強固な環境をつくり、この協力によって変化が促されている好例があります。欧州では、セルビアがこれに該当します。
セルビアのバイオテクノロジー企業は、シーケンシングプラットフォームや保存容量、ゲノムデータ処理システムの必要性といった課題に直面しましたが、自国のバイオテクノロジー・エコシステムを支援するために、同国政府は以下のような戦略を実行しました。このセルビアの戦略から他国が学べることがあります。
1. 強力な規制枠組みの構築
高レベルの規制を敷いても、実験が阻害されることはありません。むしろ、透明性が確立され、科学的根拠に基づいたリスク重視の保護策が設けられるので、前進の後押しとなります。第四次産業革命セルビアセンターは、政策専門家や科学者と積極的に協議し、市民の権利を保護、尊重しながらバイオテクノロジーのアプリケーションを促す規制案を作成しました。
2. イノベーションと研究を促進
新製品や新技術の開発を加速させるということは、新しいアイデアや環境にオープンであることを意味します。例えば、セルビア政府は、AI(人工知能)国家プラットフォームを立ち上げ、重要な研究データの保存にこれを使用することに同意しました。さらに、ゲノム・シーケンシング・アンド・バイオインフォマティクスセンター(Centre for Genome Sequencing and Bioinformatics)を設立し、最先端の分子生物学や情報技術ツールを活用した「4P」医療(予見、予防、個人化、参加)の実施と、バイオ医薬品およびバイオテクノロジーの一層の発展を目指しています。
3. 産業の成長を可能にする、資金とインセンティブの提供
バイオテクノロジーの研究開発投資を増やすことが、豊富な後期臨床パイプラインを支えます。この豊富なパイプラインは、1兆4,000億ドル規模の世界のバイオ医薬品産業における重要なけん引役という地位にとどまることが確実です。セルビアは、スタートアップや専門家の挑戦を促すため、Bio4キャンパス(Bio4 Campus)やファンドに投資を行っており、これが世界の多くのイノベーターの注目を集めています。
4. 従業員の教育・訓練
バイオテクノロジー産業の就業者は世界全体で190万人を超えており、増加の一途をたどっています。このようなダイナミックな環境で成功するためには、スタッフがスキルと知識を学ぶ必要があります。第四次産業革命セルビアセンターは、政府代表団の一員として英国を視察訪問し、多くの科学者や医師と知識交換を行ってパートナーシップを築きました。
5. 強固なITインフラの整備
膨大な量のデータを収集、処理、分析するには、複数の下流プロセスが必要です。研究、試験、解決策の拡大に好ましい条件を整えるため、第四次産業革命セルビアセンターは遺伝子および健康データのレジストリを構築し、遺伝子・健康データが効率的かつ安全に保存され、研究開発で利用されるようにしています。
バイオテクノロジーに対する障壁を克服するには、政府、産業界、アカデミアが協調して取り組みを行うことが必要です。
各国が協力することで、バイオテクノロジー産業の成長と発展を支援する環境をつくることができるのです。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月8日