日本経済のこれから、今年の春闘が契機となるか
日本の賃上げが物価上昇に追いつくのは、果たしていつになるのだろうか。 Image: Unsplash/Timo Volz
- 日本の労働組合と経営陣が賃上げなど労働条件の改善について交渉する春闘で、異例の賃上げ発表が相次いでいます。
- 初回集計結果では、正社員の賃上げ率が平均3.8%引き上げとなり、1993年以来の高い伸び率となりました。
- 今後は、この賃上げの勢いが日本の雇用の70%を占める中小企業に波及するかどうかが、日本経済再生の鍵を握っています。
毎年春に、労働組合と経営陣が、賃金の引き上げや労働時間の短縮などといった労働条件の改善を交渉する春季労使交渉(春闘)。今年は、正社員の賃上げ率が、平均3.8%になったとする初回集計結果を労働組合の中央組織・連合が発表しました。近年の賃上げ率は2%前後で推移してきたところ、今年は大手企業の異例な賃上げ発表が相次ぎ、大きく跳ね上がる結果となりました。パートや契約社員などの非正規労働者の賃上げ率は、時給ベースで5.91%。前年同期比で3.35ポイント増えました。
こうした賃上げの原動力となったのは、急激な物価の上昇です。1月の全国消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)は、前年同月比4.2%上昇と41年4ヶ月ぶりの伸びを記録。一方で、1月の日本の1人当たりの賃金は、物価変動を考慮した実質で前年同月比4.1%減少しています。実質賃金の減少は10ヶ月連続となり、消費税率8%への引き上げの影響で物価が上昇した2014年5月以来、8年8ヶ月ぶりの下落率となったのです。
大手自動車、電機メーカーがそろって賃上げ
日産自動車は、今の賃金体型が導入された2005年以降最も高い水準の月額1万2,000円の賃上げをするとして、労働組合の要求に対し満額回答。また、トヨタ自動車は、過去20年間で最も高い水準となる最大9,370円の賃上げを発表し、ホンダも30年ぶりの高い水準となるベースアップ相当分と定期昇給分と合わせて月額1万9,000円の賃上げを満額回答しています。
パナソニックホールディングスや日立製作所、三菱電機などの電機メーカー主要12社も、基本給を底上げするベースアップで月額7,000円の賃上げを全社が満額で応じました。
急速な物価上昇が歴史的な水準に達しているものの、賃金の伸びが追いついていない中、国民の生活が圧迫される現状を経営者が直視し、対応した結果、近年にない高水準の賃上げが実現したと見ることができるでしょう。
賃上げの勢い、中小企業へ波及するか
日本経済再生の鍵を握るのは、こうした流れを受けて日本の雇用の7割を占める中小企業の賃上げが焦点となります。長引く新型コロナウイルス感染拡大による影響に加え、エネルギーや原材料の価格高騰により、中小企業は厳しい経営環境に直面しています。価格高騰の影響は深刻で、取引先に対して価格転嫁を求めることが難しいために、利益が圧迫されている中小企業も多く存在します。大企業の賃上げは、中小企業の犠牲の上に成り立っている面があるという専門家の見方もある中、大企業が、取引先の中小企業に対してコスト上昇分の適正な価格転嫁を受け入れていくことは、中小企業への賃上げの勢いを波及させる上で不可欠でしょう。
持続的な賃金の上昇が鍵
賃上げへの満額回答が相次ぐ背景は、予想外の歴史的な物価高に対する一時的な反応だとする専門家の指摘もあります。持続的に賃金を上昇させる環境を整える、構造改革に繋げることができるか、といった点が、今後の課題となります。
日本の賃金水準は国際的に見ても低いままです。経済協力開発機構(OECD)による2023年の各国別賃金水準の見通しは、日本の年収が約3万2,000ドル(439万円)と主要先進7カ国で最も低く、最も水準の高い米国は、7万6,000ドルと、その差は2倍以上あります。
こうした現状を打破するため、1月には、岸田首相が「構造的な賃上げ」の実現に向け、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を3つの柱とし、労働市場改革を進める決意を表明しています。
物価上昇の加速は勢いを増す中、果たして、賃金の上昇は物価の上昇にいつ追いつくのでしょうか。状況を注意深く見守る必要がありそうです。
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